自分に自信が持てない子。

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「わたしなんて」が口癖の子がいました。
まだ二十代もはじまったばかりの女の子でした。

友人とふたりでお店に入店したのですが
友人の子は明るくていつもニコニコしていて
人懐っこく、周りの女の子たちともすぐに仲良くなりました。
もちろんお客様の受けもよく
どこの席につけてもなにも問題がない子です。

一方その子は、表情が乏しくあまり口数も多くない。
仲の良い女の子は、一緒に入店した子くらい。
あまり自分からしゃべらないので、無口なタイプのお客様や
のりのいいお客様の席にはつけられない。
水商売には向かないように、一見、みえる子でした。

「わたしなんて、って、どうしていつもそういうの?」
と、直接本人にたずねたことがあります。

月に一度、全員の女の子たちと、
ふたりきりで話をする時間を設けていたときのことです。

「母親に、いつもそう言われていました」
その子はそう言って、続けました。

「わたしって、顔もスタイルもよくないの、自分で理解してるんです。
ずっと、母親にも言われていました。
頭も悪いし、とくに得意なことないし、将来なにになりたいかとかも
なんにもないんです。ひととどんなふうに話をしたらいいのかもわからない」

「お母さんにそんなこと言われたの?」

「言われてました。友人も一緒ですし、若さがあるうちは、なんとかなるかと思ってましたし、苦手だけど、嫌いじゃないんです。ひとと話すの」

「そっか」

「でも、問題があるのなら、首にされても仕方がないと思います。
わたしなんて、いても使いにくいでしょうし」

「いやいやいや、なに言ってるの……」


母子家庭で育ったそうなのですが、
なにかにつけて、全部彼女のせいにされてきたそうです。
生活が苦しいのも、彼氏ができたのに自由にならないのも
出世できないのも、全部彼女のせい。
それでいて、美人なわけでも勉強ができるわけでもない。
「あんたはお母さんに苦労しかかけない」
そんなふうに言われて育ったそうです。

でもね、彼女、すごいいい子なんです。
暇なとき、「掃除してね」って言ってもやらない子がほとんどなのに
彼女は暇な時間があったら、わたしが言わなくても
お店の掃除をすすんではじめてくれる。
そうするとほかの子たちも気づいてやりはじめる。

シフトが埋まらなくて困ったなぁと思っていると
近づいてきて「わたし出れますよ」って助け舟を出してくれる。

「何かやることありますか?」って、聞いてきてくれる。
お客様に「これ歌えないの?」って言われたら
たとえ歌えなかったとしてもメモをして「次までに覚えてきます」って
練習してくる。

お客様が話した些細なこともちゃんと記憶していて
「この間お話していたことの続きなんですけど」って切り出せる。

当たり前のようなそれらを、当たり前にする。
それってとってもすごいこと。

お母さんの人生の責任は、お母さんがとるべきであって。
彼女の責任じゃない。

「わたしなんて、って言われると、わたしがさみしい気持ちになる。
だって、あなたはすごいのよ。いい子よ。
なかなかいない。いわれなくても気づいてくれて、
進んで嫌なことをやってくれる。
広く浅く付き合わなくていい。
あなたが向いているのは、深く狭く付き合うことだと思う。
誰彼構わず心を開かなくていい。
愛想笑いもしなくていい。
もしもわたしを信用してくれるのならーー

もう、わたしなんてって言わないで」

自分に自信がある子なんて
ほんの一握り。
誰だってコンプレックスもあるし
得意なこと苦手なこと、もちろんある。

自信がもてないのなら、別にそのままでもいい。
明日から自分に自信をもって!なんて
絶対に無理なのだから。

でも、そんな自信の持てない自分でも、
周りには絶対に見ていてくれている人間がいる。
助けになっているひとがいる。
救いになっているひとも。

別に、信じられないならそれでもいいのだけれど。
「あなたはいい子。いつも助かっている」
そんなふうに思っている人間も、
そばにいるのですよ……って、覚えていてほしい。


彼女は二年間、一緒に働いてくれて
その後、介護の資格をとって
いま老人ホームで働いています。

元気でやっているようです。
まえよりもずっと、よく笑うようになりました。
よかった^^


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