アイルランド音楽についてー譜面を使わない音楽ー

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音声・音楽
こんにちは。笛を吹いているリョウです。

前回、「スロー・エアーは明確なリズムを持たないけど譜面はあります」って書きました。この辺について書いてみようと思います。


アイルランド音楽は口承音楽

これについて、結論から言ってしまうと、「今ある譜面は、これまでの演奏を採譜したもの」ということになります。譜面をもとに演奏しているのではなく、演奏をもとに譜面を作っています。

アイルランド音楽は昔から演奏されてきましたが、譜面は使われていませんでした。誰かの演奏を聞いて、覚えて、自分のレパートリーに加える、というのが昔からのやり方だったわけです。なので、アイルランド音楽は口承音楽(口伝えの音楽)と言われています。

今でもセッションで知らない曲が出てきたときは録音します。曲名を尋ねることもしばしばありますが、それでも録音は必須です。

しかし、昔は録音することができません。携帯電話はもちろん、録音技術が発明される前からアイリッシュは弾き継がれてきています。その当時は足しげくセッションに通い、演奏を何度も聞いて、長い時間をかけて曲を覚えていったのだそうです。

アイルランド音楽は1曲1曲は短いのですが、耳だけを頼りに覚えるのは根気のいる作業だったことでしょう。そういった経緯からか、「沢山の曲を覚えていることも、アイリッシュ演奏家にとってはステータスの1つとみなされているように感じます。


口承音楽だからこそのアイルランド音楽の特徴

全てが耳と記憶頼りだったアイルランド音楽ですが、譜面がなかったからこその現象がいくつかあります。

気に入った曲をどれだけ頑張って完璧に覚えても、記憶はあやふやなもので、時間が経つと細かい部分が曖昧になります。これにより、「細かいところが微妙に違う曲」が生まれます。

このような旋律の微妙な違いはバリエーションとみなされます。覚え間違いとして訂正されることはあまりありません。
※セッションなどではユニゾンが大切なので、ときには相手に合わせて修正することもあるかとは思います。

また、たとえばAという地域の曲がBという地域に伝わったとき、100%正確に伝わるかはわかりませんし、伝わったとしても長い時間の中で微妙に変形していくこともありえます。

こうして、AとBでそれぞれ異なる変形を繰り返し、いつの間にか曲名も変わったりして、異なる2つの曲が生まれることもあるようです。

曲名はもとから曖昧で、何かしらの曲名があっても、正しく伝わるかはわかりませんし、みんなが覚えていてくれるかもわかりません。演奏においてはさほど重要ではないので、そもそもタイトルを覚えない人もいるとか。
そんなわけで、「〇〇さんがよく弾いていた曲」みたいな呼び方をする曲もあります。「Morrison’s」とか「Fred's Favourite」がその類でしょう。

地域や年代によって呼び方が変わったりすることもあるため、ある曲(メロディー)に対してものすごく沢山の「名前」がついていることもよくあります。

このように曲もタイトルもあやふやなので、作曲者が不明な曲もたくさんあることは言うまでもありません。そして、現在の譜面はそんな複雑な状況のなか、沢山の演奏をもとに作成されたものです。


…こういったわけで、良い曲に出会ったらまずその演奏そのものを録音するのが一番いいのです。タイトルだけでは細かい部分がちょっと違う可能性がありますし、そもそも教えてくれた曲名では譜面を探せない可能性もゼロではありません。

※実際、ある有名な音源に収録されている曲の中には、ネットで検索しても一切ヒットしないものがあります。自分はその曲を「何もよくわからないけど好きな曲」として演奏しています。


現在のアイリッシュの譜面

実際にアイルランド音楽が譜面として記録され出したのは18世紀頃だそうです。現在ではネット上でアイルランド音楽のデータベースサイトがいくつか存在しています。特に大手と言えるのは「Traditional Irish music on The Session」でしょう。多くの譜面が登録され、議論も積極的に行われています。

自分自身は英語が苦手ですが、曲の検索や譜面の共有でとてもお世話になっています。もちろん、このサイトでも「1曲に対し、何種類か譜面のバリエーションが有る」とか、「別名が沢山登録されている」といったことになっています。

(それに対して、良いとか悪いとかではなく、アイルランド音楽はこういうものですよ、ってことを知っていただければと思います。)

ちなみに、ごく最近に作曲された楽曲も、誰かが譜面を登録していれば閲覧できます。今は著作権の問題もあるため、そういった最近の曲を無断で商用で使うのは不可ですが、セッションなどではレパートリに取り入れられることもあるようですし、作曲者の承諾を得たうえで演奏している演奏家もいらっしゃるようです。

ちなみに、The Sessionなどでは、テキストで譜面を表現できる「ABC記譜法」が使用されています。単旋律で音域が2オクターブ程度に収まるのであれば、アイリッシュ以外でもかなり使い勝手の良い記譜法だと思います。気になる方は調べてみてください。

長くなりましたね。そもそもこのブログは自分が演奏している楽器や音楽について、皆さんにも知ってほしいなと思い、備忘録も兼ねて書き出したのでした。どう考えても、ここまで書く必要はなかった気がしますね。

アイルランド音楽編は後2回にするつもりです。
次回は「曲」のスケールとかコードについて書いてみたいと思います。
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