空中ブランコから落ちながら、彼は「落ちる」という感覚をはじめて知りました。
いきなりそんなに高くから始めないよ、と彼女は言いましたが、彼はそんなことはお構いなしに、空中ブランコに足をかけました。
一度、その高さを味わってみようと思ったのです。
途端に彼の重みでブランコは動き出します。
必死にしがみつきましたが、空で自重を支える方法を、彼は知りません。
あっという間に振り落とされました。
背中から落ちながら彼が感じたのは、恐怖でも焦りでもありませんでした。
それは、なにか「確信」とでもいうべき感覚でした。
背骨がすっと泡立つような、確信でした。
次の瞬間、彼は地面に叩きつけられます。
開いた翼は、少しも動きませんでした。
でも、まずはそれでも十分だったのです。