今日の絵:可能性

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「あたしもさ、ブランコ乗りをはじめたのは11のときからだった」
彼女は言いました。
客のはけたテントの中に、ふたりだけの影が落ちています。
ステージの真ん中に残された箱馬に彼を寝かせてから、彼女は幾分と大きくなったその翼を広げました。
「もう玉乗りができないんなら、別の武器を磨かなきゃいけない」
彼は首をまわします。目の悪い彼には、自分の翼はよく見えません。
だけれどそうすることが、感じることだとわかっていました。

「団長も、ああなるまでにいろんなことをやってきたんだって。いつかお酒を飲みながら話してくれた」
 普段無口な彼女は、いつになくお喋りでした。
 彼はなんだか、ずっと昔を思い出しました。
「団長が吟遊詩人として彷徨ってた頃、この街で拾ったのがあたしなんだって。あたしは全然覚えてないけどね。自分のことなんて、皆ちっとも知らないんだよ」
 彼女の言葉は、言われればこの街のように、節のついた、歌うような響きなのでした。
 ずっと昔、彼もその響きを、いつも聞いていたような気がします。

 彼女は翼を掲げて言いました。
 小さく、でも、夜のしじまに透き通るほど鮮明に。
「この街の人に聞いたんだ。ドラゴンっていうのは飛べるんだってさ」
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