海外添乗員としてデビューしたその夏は、ちょっとしたカナダブームで私は、毎週のようにカナダを訪れていた。
前回のお話し↓
ちなみに、添乗員の仕事は、帰国して、次のツアーまで7日から10日間あるのだ理想的だ。
なぜなら、終わったツアーの精算業務、次のツアーの打合せと準備、時差ぼけの解消ができる。
しかし、季節労働者のお仕事。
毎回、そんな流暢なことは言ってられない。
カナダは、その年、3日しかお休みがない時もあるくらい人気のツアーだった。
コースは、
東のバンクーバーから始まり、
お花の綺麗なビクトリア島、
ロッキー山脈の素晴らしい山の景色と氷河を楽しむ。
そして、ナイアガラの巨大な滝の大きさを船に乗って間近で体感して
日本に戻る、盛りだくさんの8日間だ。
私は、毎週のように顔を出していたので、同じ現地ガイド、バスのドライバー、レストラン、ホテルスタッフに出くわすことも多々ある。
彼らの中には、私がてっきりカナダ在住添乗員だと思っている人も結構いた。
まさか、一度日本の空気を吸ってから、ここに来ているなんてと驚かれた。
お客さんも色々だ。
そんな中、今でも忘れられないお客さんがいる。
カナダ往復が2回続き、ヘロヘロだった私は、行きの飛行機からとにかく寝なくてはと、毛布を被って寝ていた。
そんな中、急に、「添乗員さん!」と揺り起こされた。
機内は真っ暗。何があった??と飛び起きたら、中年女性のお客さんが深刻な顔をしていた。
どうしたかと思ったら、タバコがどうしても吸いたい、あとどれくらいで到着するかと言ってきた。
まだ飛び立ったばかりだったので、7時間はかかると話したら、卒倒しそうな顔になっていた。
タバコをを隠れて吸ったら、煙探知機が鳴り、罰金も課され、あわよくば、途中降機となったら、大変なことになるので、くれぐれも吸わないようにと念を押した。
絶望の表情でとぼとぼ戻っていった。
しばらくたって気になったので、様子を見に行ったら、タバコの入った箱を鼻に押し付けて幸せそうに匂いを嗅いでいた。
とりあえず、解決したと思い、また眠りについた。
するとしばらくして、「添乗員さん!」とまたニコチン中毒のお客さんに起こされた。
わざと眠そうに起きたふりをして「どうしましたか?」と聞いた。
すると、
「日付変更線を写真に撮りたいの。いつ見れる?」
というのである。
一瞬、何のことを話しているのかわからなかった。
どうやら、地理の教科書に出てきた、海に引いてある、日付変更線を肉眼で見れるものと思っているらしい。
あちゃー、、、
「お客さん、あれ、線なんか引いてないっすよ」なんて一蹴しようとしたが、
ニコチン不足を忘れるくらい、目が輝いているのをみたら、なんとなく、事実を伝えるのは、酷な気がしてきた。
到着まで、揺り起こされるのはもう嫌だし、この際、噓も方便と、
「天候や、飛行ルートによっては、もしかして見えるかもしれないので、窓を眺めてみてはどうですか?星もきれいですよ。」
と言った。とても嬉しそうで、そのまま座席に戻った。
結局、私もまた気になり、確認しに行ったら、口を開けて、たばこの箱を片手にぐっすり寝ていた。
よかったー、と思ったのが、気がつけば、到着前の食事サービスが始まっていた。寝不足のまま,3回連続カナダの最終回を気力で乗り切るのであった。