旅の効能 ~非日常を体験する~

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コラム
旅・・・判で押したような毎日の生活の枠からある期間離れて、ほかの土地で非日常な生活を送り迎えること。(新明解国語辞典)

 「判で押したような・・」という表現がとても良いと思います。旅は「他火」とも書き、「他(の土地の生活のための)火」を見に行くという意味を持ちます。知らない土地に伺い、その土地の言葉、習慣、風景、産業を見せてもらうのは、決められた日常に凝り固まってしまった思考、感情などにショックを与え、新しい視点、思考方法を導き出すのにとても有効だと思います。その意味で「非日常」と言えますし、定期的に必要な「メンテナンス」の意味も持っているのかもしれません。

 私は旅行に出るとき、目的地を数か所決め現地を訪れ、そこで興味のあるものが見つかったらそこにも赴く。スケジュールはあまりタイトにせず、好奇心のアンテナが示す方向に足を運ぶ。なのであまり計画的とはいえず、宿泊先のチェックインの時間は大抵ギリギリか、少々遅刻ということになってしまいます。ただある程度時間に余裕を持たせることが、現地に入って、現地の空気、景色を感じ、その土地でしか見られないもの、手に入れられないものに触れあうチャンスを増やしてくれると思います。

 今回、愛知県に瀬戸焼を目当てに行ってきました。これまで何回か、陶磁器の産地を訪れ、周辺の景色、風土など見て回り、様々な陶磁器に触れる、ということをしてきました。瀬戸焼は「せともの」の語源にもなっているように陶磁器の代名詞と言って良いと思います。日常、無意識に接している器の中に「せともの」があるかもしれません。まずはその代表的な産地、瀬戸市を訪ねました。瀬戸焼の歴史、瀬戸焼を中心に発展した街並み、瀬戸焼の陶祖を祀る神社など存分に楽しむことが出来ました。

 この旅行の目的である、お目当ての器を購入しようといろいろ見て回りましたが、なかなか購入に踏み切れず、後ろ髪をひかれる思いで瀬戸市を後にしました。2日間の日程だったので、今回は陶磁器とは縁がなく、ほかの目的に集中するようかな?と思い、気持ちを切り替えました。陶磁器の産地を訪ね、何かしらご当地の陶磁器を購入するのが恒例となっていたので、何か不思議な気持ちでした。

 こうして迎えた2日目、国宝犬山城を見に犬山市に向かいました。カバー写真はその犬山城です。木曽川のほとりに建つその天守閣は、小ぶりで派手さはないものの、落ち着いた歴史を存分に感じさせるものでした。その天守閣を降り、少し歩くと門前町に良くある店舗の並ぶ通りが目に留まりました。なんとなく惹かれたので、そちらに歩いていくことにしました。

 本町通り、という名前の通りですが、テイクアウト商品を販売する飲食店、普通に飲食を楽しめる店、土産物販売店などが軒を連ね、店先をのぞきながら歩くのには程よい広さがあります。その通りに犬山城方向から入ってほんの少しのところに、「犬山焼」の看板を掲げた店舗が目に入ってきました。

 各地にあまり全国に知られていない、その土地ならではの陶磁器があるのは知っていましたが、犬山焼というのは現地で初めて知りました。「犬山陶器陳列場」という名前の店舗で、盃、ごはん茶碗、湯呑などの普段使いの器から、抹茶碗、蓋置などの茶道具まで、犬山焼の陶器が取り揃えてありました。

 犬山焼は犬山城城主、成瀬氏の庇護のもと、江戸時代から300年の歴史を重ねる「焼き物」、いわゆる「お庭焼き」です。特徴としては「風雅で土の柔らかな厚みをもった陶器」という表現が当てはまります。洗練とは違いますが、手になじむ、しっとりとした肌触りのとても良い陶器だと思いました。

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 上の写真はここで購入した蓋置、という茶道の道具です。表面が松の表皮を模しているので「松皮焼」と呼ばれています。かなり特徴的で一子相伝の技術だそうです。私はこのような陶器は初めて見ました。内側の貫入もまた良い表情です。この蓋置に見られるように、犬山焼は茶陶として発展してきたので、抹茶碗などは手にしっとりと馴染み、飽きのこない意匠もあって長く手許に置いておきたい、そんな印象をうけました。

 お話を伺った店の方も茶道のお稽古に励まれているそうで、それぞれの意匠、犬山焼の歴史など丁寧に説明していただきました。また茶陶としての犬山焼への愛情も感じることが出来ました。この店、犬山城を訪れなければ、この貴重な存在を知ることは出来ませんでした。

 メインの目的地である瀬戸市では手に入れることが出来ませんでしたが、ちょっと横道に逸れた意外な場所で目的を達成することが出来ました。現地に赴かないと手にすることが出来ない経験がある。そのことを強く感じることが出来ました。旅の目的、非日常を味わうことが出来ました。

 今回は占いとはまったく関わりのないテーマになりましたが、「犬山焼」という存在をお知らせしたく、ブログにしました。

参考・・・犬山焼栞(犬山陶器陳列場で頂きました)
     大澤久次郎陶苑様
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