衽線畳み

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美容・ファッション
 「衽線畳み」という畳み方があるらしい。
 おくみせんだたみ。と読むらしい。衽線畳み? かれこれ、和裁畑にさ迷い込んで、早、30年。初めて聞く畳み方の名前。
 何の事だろうと、耳をダンボにして聞いていたら、どうやら、本畳みで、衽付けギリギリに折りをつける? やりかた? たたみかた? らしい⁇

 8寸の6寸で抱き幅通し。これで、身頃側の衽付けの縫込みが2寸3分。肩明き2寸5分の裁ち切りで出来上がりが2寸3分。これで衽付けのキセ山ギリギリまっすぐに折りが付き、剣先で少し身頃側に折り線がずれるがほぼ、真っすぐ。そして、衿も余計はしわがつかず、背縫いのどん詰まり、衿付けが丁度繰越一個分戻って襟に折りが付き、着たときに良い感じに反発して衿が抜ける。
 これが多分、電話の主がおっしゃる、「衽線畳み」の真相だと思われる。おそらく、だけど。

 ところが、最近の標準の寸法は、後ろ8寸、前6寸5分。その差は1寸5分。昔の標準寸法は、後8寸、前6寸。その差、2寸。
 この5分の差は大きい。

 後ろ幅8寸は、実際、ちょっと広めなのだ。脇から前に回りがちになる。広めの寸法は、正座するのに立ったり座ったりする生活習慣から、後ろにゆとりを持たせたのかもしれないし、傷みやすい背縫いを縫いつめやすいように最初から広めにとったのかもしれないが、衽線を真っすぐに畳み上げるためにこの寸法にしたんじゃないかと、私は考えている。これは余談だけど。

 後と前幅の差がもっと狭い場合、例えば、ヒップが120cmで、後9寸、前8寸5分とか、海外縫製ではざらにあるが、これだと、衽付けが計算上は8分、となる。実際は、8分ではつかないから脇をずらしてくるが、こういう体型の場合は、衿肩明きも広めに切るので、肩明きと衽付けの差がさらに大きくなり、衽線ぎりぎりにおりかえすと、衿が据わらなくなり、しわしわの衿が畳みあがってくる。それではおかしいのだ。
 その場合は、衽付けから5分ぐらい深めに折り返すが、基本的には3分以内に収めたほうが着用時の見た目が良くなる。

 海外縫製は、一番最初に海を渡った悲劇の和裁士が基本になっている。着物は日本の民族衣装だといい、和裁はその着物を縫製するための技術を言う。
 民族衣装だと大げさに言うと、それは、唯一のものだと思われがちだが、民族衣装であるがゆえに、地方色が豊かになる。つまり、北海道から沖縄まで、気候も違えば風土も違うと縫い方も違ってくるのだよ。
 東北と関東、関西では、尺貫法の単位も違ってくる。京都市内でも、振りを先に縫うか後に縫うか、袷の胴接ぎを先に縫うか後に縫うかも違う。
 だから、いろんな畳み方、その名称があっていいのだ、が。人の体型が、紋切り型にすべて当てはまると思わないほうが良い。
 その人の体型に合う寸法で、その寸法にあった畳み方がある。多少のイレギュラーはあっても、全体に皴のない畳み方が、結局、着用時のきもののうつくしさにつながるのだと、私は個人的に考える。(令和4年10月)



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