道中着、とは、道中着衿のコートのことです。コートのカテゴリでも説明しましたが、コートにつくたて衿がつかず、羽織のマチがつかない、大変、中途半端でざっくりした羽織ものです。
道中着衿とは、3寸幅の通しの衿で、天をスナップで折って着用する形の襟です。よって、広幅の道中着衿はあっても、バチ衿の道中着衿は存在しないのです。バチ衿を天で折って着ることはないからです。
着用形態を考えると、バチ衿の道中着衿は、着物衿の変形といえます。
道中着=コートは成り立っても、コート=道中着ではないのです。コートとは、縫い目を割る羽織ものの総称であって、コートが指すものは道中着衿のみではないからです。
都衿、千代田衿、被布衿、がそれぞれの衿の形のコートを差すのを考えれば自ずと理解できてくるのではないでしょうか。
つまり、
「道行って書いてありますけど、道行衿でよろしいですか?」
と、いう問いに対して、
「は? 道行って言ったら、道中着衿に決まってるでしょ?」
と、いうお返事はありえないわけです。なぜなら、道行=道行衿のことであり、つまり、道行コートを差すからです。
海外縫製の量販店で大人気の道中着ですが、そんなわけで、どこかで統一してもらえると縫う方としては助かります。
道行を道中着前提に話をされて「お前はそんなことも知らないのか」と言わんばかりに指摘されても、「はあ」としかお答えできません。
(令和4年2月)