けっこう長らく、私はアップルパイが食べられませんでした。
アレルギーとかじゃないんです。
その証拠に、焼きリンゴは好きでしたし、食べられました。
だけど、アップルパイが無理だったんですね。
理由は、幼稚園の頃にさかのぼります。
お友達のおうちで遊んでたんです。
土曜日だったか日曜日だったかで、お友達のご両親、そろって在宅。
お友達のお部屋で何か遊んでいたと思うんだけど、「おやつー」って居間に呼ばれて、居間でみんなで一緒に紅茶とアップルパイをいただいた・・・
そこまで聞くと、なんかいい感じの思い出じゃん!と思うのだけど、違うんです。
お友達のお父さんが、その日、火サスの再放送を居間のテレビで見てたんです。
ちょうどアップルパイを食べている時に・・・殺人の回想シーンが始まったんです。
忘れもしない、あの残酷なシーン!!
浮気な男が、金持ちの女と結婚するので、その被害者の女が邪魔になったんです。
それで、その女を殺すので、古井戸に突き落とす!!
だけど、しぶとい女は、古井戸のフチのところに手をかけて必死に這い上がろうとする。
そこへ、その残酷な男が、井戸の近くにあった大きな石で、彼女の手をガツン!ガツン!と叩き始める・・・
だんだんと口の中のアップルパイが、血の味がしてきて、飲み込めなくなってきた。
テレビ画面では、犯人の男が血まみれの彼女の白い指を一本一本フチからはがしにかかっていた。
アップルパイ、食べられない・・・おばちゃん、これ、お残ししてもいい?
そんな記憶がよみがえってしまい、かなり長く、私はアップルパイが食べられなかったんです。
やっと食べられるようになったのは、大人になってからですねー。
大人になって、彼氏のおうちにお呼ばれしたら、彼のお母さんが手作りのアップルパイを出してくれたんです。
一瞬、ひるみました!
よりによって、神様!と思いました。
だけど、頑張って一口食べたら、記憶の味と全然ちがって、むしろ美味しい・・・?
いやいや、結構割と・・・旨いじゃん!
案外、トラウマって意外な瞬間に乗り越えられてしまうものかもしれません。