アヴォンリーの老女

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コラム
つい先日、私の知り合いの70代独身女性から相談を受けました。
その相談内容をこんなところで暴露するのもなんかどうかと思うんですけど・・・タロットのお客さんじゃないし、彼女はネットをやらないのでまずバレる心配がないので、こんなところで暴露しちゃいますね。

だって、かわいいんですもん。
まるで、「赤毛のアン」のエピソードの一つにでも登場しそうなお話なんです。

彼女は独身、一人暮らしです。ずっとご両親と暮らしてましたが、結構前にお父さんが亡くなっており、お母さんも数年前に他界。
今は大きな家を引き払ってマンション暮らしです。
親戚はいるようなんですが、疎遠になっているそうです。まぁ、ご両親のつながりがなくなれば、兄弟やいとことはいえ、それぞれの家庭の方が大事になって疎遠になってしまうものですよね。

一人寂しく暮らしているようですが、資産家のようでお金には不自由していないようです。それで、あっちこっちと友人を訪ねたり、旅行をしたりもするようですが、ここ数年はコロナこともあって、家にこもりがちだったそうです。
そういう寂しい生活、マンションでのご近所さん付き合いも希薄な中、それでも行違う時に挨拶をする程度、ごみ捨てのついでに一言二言会話をする程度の交流はある。

で、同じマンションに今年から大学生になった娘さんのいるご家族があるそうなんですね。
その娘さんは、挨拶もきちんとできる優秀なお嬢さんらしく、老女さんは好感を持っているご様子。

何かのきっかけで、最近、彼女はそのお嬢さんが大学で茶道クラブに入ったことを知るのです。そして、お茶会があるらしいという情報をゲット。
さらに、そのお茶会に着ていく着物がないと困っている様子だということを知るのです。

「実はね。若い時に作ってもらって、一度も袖を通してない、しつけ糸もついたままの着物がいくつかあるの・・・それをどうにかして、そのお嬢さんに貰ってもらえないかしら」と。

彼女の立てた計画はこうです。
そのお嬢さんに何とかして近づき、「今度その茶道のお友達とうちに遊びにいらっしゃい」と声をかけ、自然と着物を出して見せ、気に入ったのがあったら差し上げるという流れにもっていこう、と。
そのお嬢さんだけというのも遠慮されたら困るから、お友達を連れていらっしゃいと誘う計画らしいんですね。

もちろん、そのお友達にも気に入った着物があれば持って帰ってもらう、ほかにも着物が必要なお嬢さんがいたら紹介してもらいたい・・・と。
「だってね。いい着物なの。一度も袖を通してないまま処分なんてしたくないの!」って。

いや、だけど、その「お嬢さんに何とかして近づく」って・・・ハードルかなり高いよ?さらに、「お友達と一緒にうちに遊びに来て」って・・・そのハードル、くぐった方が簡単ってくらい高いよね?

私、70歳より若いけど、それですら、大学生の女の子をナンパするなんて無茶だって。家に連れ込むなんて無理だって。そんな勇気ないよ?
大学生の女の子を家に引きずり込むより、どっかから妖精見つけて虫かごに入れて家に連れて帰る方が実現可能に思えてくる。

この計画を思いつく前、彼女は同世代の友人に「若い時の着物があるけど、誰かいらないかしら」と相談したそうなんです。
そしたら、その人が「あら!着物リフォームしている知り合いがいるから、その人だったら喜んで貰ってくれるわよ!」と答えたそうなんですね。

アヴォンリーの孤独な老女にとっては、この提案はとっても受け入れがたいものだったようです。
せっかく着物として生まれたのに、一度も着物としての役割を果たさぬまま、どこぞのババアの手に渡り、全部分解されて、やれ座布団カバーだ、リバーシブル買い物バックだと「犯される」なんて我慢ならない・・・ようです。

まぁ、気持ちはわかる。
着物の方でも、ババアよりは、ぴちぴちのお嬢さんに喜んでお茶会に着て行ってもらった方がうれしかろう。
こういうことがあったから、余計に何が何でも若い娘に着物をあげたい!着てもらいたい!と思い詰めてしまっているようなんです。

だが!!
ほぼ見ず知らずの老女、同じマンションに住んでいるとはいえ、赤の他人。
それが大学生の娘さんにずうずうしくも「家に遊びにいらっしゃい、お友達も連れてきていいわよ」と声をかけて不審がられないわけがない。「はい、ぜひお邪魔します」というお嬢さんなんていると思う?
何か下心があると速攻で見抜かれるだろうよ・・・。
彼女の場合、下心ありありですしね。
若い娘さんに近づきたいという老女の願い、着物を貰ってもらいたい、ぜひそれをお茶会で着てほしい・・・。
いや、もう、それ下心すごいから!

「高価なものですし、遠慮しちゃうかもですね~。まずは、そのお母さまとお近づきになる方が無難じゃないでしょうか」と、常識人っぽいアドバイスしちゃいましたけど・・・
あの雰囲気からしたら、大学生のお嬢さんとはぜひお近づきになりたいが、その母親とはあんまり仲良くなれそうもないと感じていらっしゃるご様子。

アヴォンリーの老女っぽいなぁと、彼女の家から帰る途中に思ったものです。
似たような話が「赤毛のアン」シリーズにあったような気がする。
その時の老女は、村では変わり者の独身老女だと遠巻きに見られている。
そこへ、昔、彼女が好きだった男性の娘という美人で優秀なお嬢さんが他所の町からやってくるのです。
美人で性格もよいので、村中で人気者になるんです。
老女は、堂々と彼女に話しかけるなんてできない・・・だからせめて、彼女の好きな花を彼女の下宿先に届けてあげよう・・・毎日、花や木の実、野イチゴなどをお嬢さんの住む下宿にこっそり置いてくるのでした。

老女の若い娘を求める気持ちは、青年のようですね。
なんとかして近づきたい。だけど、怖がられてしまうかもしれない、嫌がられてしまうかもしれない、逃げられてしまったらどうしよう。

なんといじらしい!
そして、なんとアホかと(笑)

その話を聞いて以来、私は何となく、あのアヴォンリーの老女が、お嬢さんの帰ってくる時間帯にマンションのロビーをうろうろして話しかけるタイミングをはかっている姿を思い浮かべてしまうんです。そして、ドキドキした気持ちになっちゃうんです。
思い切って話しかけても、なかなか家に遊びにおいでとは言い出せず、グダグダと意味のない話を長々として・・・
きっと優しい大学生のお嬢さんは愛想笑いをしてくれるでしょう。にこにことほほ笑んでくれるでしょう。だけど、すぐに「あ、すみません!もう行かないと!」なんて体よく逃げられるんでしょうね・・・。

私、そのお嬢さんが老女の着物を貰ってくれるところ、その着物をお茶会に着ていくところをどうしてもイメージできないんです(笑)

大学生のお嬢さん、どうか、彼女のお宅へ遊びにいってあげてね。
そして、遠慮なんかしないで、高そうな着物をワクワクと「これも素敵」「あれも素敵」と迷ってあげてくださいね。
老女は、「第七天国」に行くような気持になることでしょうね。

お嬢さんが、この先、どんな偉業を成し遂げたとしても、社会に出てどんなに成功したとしても・・・
この時のアヴォンリーの老女ほど、あなたに感謝する人はいないでしょう。


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