役作りの考え方

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音声・音楽
今回は「役作り」の考え方について書いていこうかと思います。
がっつり長文ですので(そうでもない?)お休みの日のお茶うけにどうぞ。

そもそも「役作り」とはなんだ?という話ですが、
Wikipediaによりますと「役づくり(やくづくり)とは、役者が役になりきる為に、演技や扮装を工夫すること。 」との事。
リアリティの追求の為に髪型や体形を役柄に寄せるケースもあるとの事ですが、今回は内面的な部分に的を絞って話したいと思います。
(だって声優だもん)

自分が若かりし頃、舞台演劇の劇団で教わったのはとにかく細かく役の設定を作る事でした。
例えば名前や年齢などの基本的な設定すら無い「通行人A」だとしても、
そのキャラの名前、生い立ち、性格などを事細かく設定する事で、
台詞回しや立ち振る舞いが決まると教わりました。
とある西部劇の舞台に、自分を含め先輩や後輩複数人が、カウボーイやネイティブの役で出演した時には、台本には各キャラ名などは存在してませんでしたが、バックボーンとして名前を自分達でつけていました。
メインキャラにはあらかじめ用意されているであろう情報を自分で考えて、そこを土台として芝居を構築する。
メインキャラだとしても、全てが用意されているとは限らないので細部を考えて練っていく。
見えない部分の作業ではありますが、それが見えている部分に影響を及ぼします。

演技論の授業の際こんな話を聞きました。
とある連続テレビドラマの2時間スペシャル枠の番組の撮影時。
主人公家族の隣に住むおじさん役の方。
台詞は一言「おはようございます、いいお天気ですね」
序盤のシーンで、それ以降このおじさんは物語に関わってきません。
役者さんはエキストラの方ではなく年齢なりのベテランの方だったそうです。
その方が、
「このおじさんは主人公家族とどういう関係ですか?何年前からお隣さんで普段の関係はどのようなものか?それがはっきりしないと一言であれ僕はセリフを口にできない」
とスタッフさんにキャラの詳細を求めたそうです。
授業を行っていた先生は役作りの重要性という話の中で例としてこの話を挙げました。
なるほど確かに仲が良いのか悪いのか日頃の付き合いはどんなものかによって
「おはようございます、いいお天気ですね」の言い方のニュアンスは変わってくるでしょう。
このスタンスは役者としては正しいかもしれません。
ですが自分がこの話を聞いた時に思ったのは
「いや、そのシーンの雰囲気に合わせてやればいいじゃん?どうしても必要なら自分ででっちあげろよ」です。
ベテランさんに何たる暴言(口には出してませんが)

作品としてこだわるべき部分、掘り下げる部分、主要な登場人物であればもちろん必要な確認です。
ですが、作品の大局に触れない部分でのこだわりは自分自身で完結すべきだと自分は考えます。
「作品をよくしたい」「リアリティを追求したい」といった考えも、
求められている領分を超えていればそれは単なる自己満足です。

顔出しの現場と違い声優の場合はメインとして振られた役以外にモブ(脇役)を多数振られる事がよくあります。
名前がある台詞の多いキャラひと役(メイン)+通行人A+通行人C+店員A+敵戦闘員B+野良犬、なんてパターンは珍しくありません。
(自分はゲームの仕事で最大12キャラまでやった事があります)
メインのキャラはきっちり掘り下げて人格を構築する必要がありますが、
それ以外は場の雰囲気に相応しい音声を素早く提供する事が第一ではないでしょうか?

こういった思考の深度は、その作品と自分との関わりの深さも関係しています。
じっくりと時間をかけて取り組む作品もあれば、
「これ2時間以内に納品できる?」といった急ぎの案件もあります。
話の内容が大切なドラマ案件もあれば「ドラマ仕立て」なだけの広告案件もあります。

役の深い所まで追求する探究心とフラッシュタイミングで高度な「それっぽい」台詞を出す能力はどちらも大事だと思います。
(一瞬で全てを構築できるハイセンスな役者さんもいますけどね)
重要なのは「仕事」でやる以上はクライアントの要望を満たす事です。
その上で、その枠の中で自分自身が楽しんで納得のいく芝居をする事が役者の楽しい部分ではないでしょうか?

もちろんクライアントの想定を良い意味で超える芝居というものも存在します。
明確な正解が無いからこそお芝居は楽しいのでしょうね。



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