「大怪獣のあとしまつ」分析。

記事
学び
ライトノベル作家・専門学校現役講師のひびき遊です。

この年末に、Amazon Prime Videoにてあの問題作『大怪獣のあとしまつ』がプライム公開されましたね!
みなさん、もう観ました?

私は何かと再三、SNSでつぶやいているとおり……映画館に足を運んだクチなので、もう二度と観ません!!w

しかし「分析」するにはかっこうの素材なので、そうした視点から少し解説しましょうか。

というのも最近、小説の文章における「視点」について、「神視点ではダメなのですか?」という意見をいただきまして。

――ああ、神視点というのはいわゆる「映像媒体の脚本」のような書き方をして、キャラクターを「外側から常に見る」描写のことですが。
正直……私は、オススメしません。
小説の文章は、外側からただ「動き」だけを書くのではなく、キャラの「内面」を通した描写になるはずだからです。

確かに、神視点で書かれた小説もあります。
ただ、その場合は「別に小説でなくてもよいのでは?」と、私なんかは思ってしまいます。

「文字しかない」媒体を活かす書き方――そのテクニックが「キャラクターの視点を意識した文章」ということですね。


……前置きが長くなりました。
では、その話が『大怪獣のあとしまつ』に、どう絡むのかと言いますと。

「ああ、この邦画は……つまり、キャラの内面を一切考慮せず、外側からだけで描写した作品なのか!」
ということでした。

いや、映画なんだからまあ、「外側からしか撮れない」のですが……それにしても「大勢のキャラクターたちが、いったい何を考えて、どう反応しているか」が、ぜんぜんわからないんですよ……!


以下、少しネタバレになります。
未視聴の方はぜひ、『大怪獣のあとしまつ』を観てからの方がいいです↓↓↓








『大怪獣のあとしまつ』とはそのタイトルどおり、「突然現れて、いきなり何者か(ウルトラマン)に殺されてしまった大怪獣――巨大な死体はどんどん腐るし、未知のガス・細菌を撒き散らすし、この後始末をどうしよう!」というお話。

うん、そこはいいですよ。私も「どんな後始末になるんだろう?」と、予告編を観て期待したクチでしたし。

しかし、ですね。
主人公である特務隊員アラタ(ウルトラマン)は――何を考えて行動しているのか、まったく理解できないんです。

こういう話を、専門学校の学生が私のもとに持ってきたら、めちゃくちゃツッコミますよ……!


「先生! 『大怪獣のあとしまつ』って、話を書きたいんですが」
ほう? タイトルはわかりやすいね。
でも大事な要素が入ってないね。主人公がどんなキャラで、どう行動するか――そこがちゃんとしてないと。
「はい! もちろん主人公は、大怪獣の死体処理チームにいて……がんばるわけです! ウルトラマンですけども!」
……えっ。
ウルトラマン、なの?
「そりゃそうですよ。主人公ですもん!」
えーっと……じゃあ、主人公がさっさと変身して、宇宙にでも大怪獣の死体を持っていけばいいのでは?
「あっ、もちろんそうしますよ。ラストで!」
ラスト……。
最後の最後?
「ええ! それまで人類が、いろいろ計画して、みーんな失敗して! どうしようもなくなったタイミングで、ついに主人公が変身――」
待って。
主人公のウルトラマン、その死体処理を計画したチームにいるんだよね?
「当たり前じゃないですかww」
じゃあ……主人公はその間、ずっと何してるの?
「そりゃあ、変身したいけど……できずにいるんですよ!」
――なんで?
「変身したら、二度と人間の体に戻れないからです! そうしたらヒロインには、もう会えなくて……ラストでは、別離にヒロインが敬礼して『ご武運を』と見送るシーンになります! 泣けますよ、これは!」
……うん、まあ、ちゃんと積み重ねがあればいいんだろうけども。
私が問題視するのは、そもそも――物語と主人公の行動が、どうにも一致してないところなんだよな。
「は? なんでですか。大怪獣の処理の話ですよ?」
いや、だから……。
物語のログラインは、「大怪獣の死体の処理をどうしよう」だろう?
「はい! 当たり前じゃないですかw」
んで、主人公は……「死体の処理ができるのに、自分の都合でそれをしないキャラ」なわけだ。
「あ……」
これ、主人公がもう物語に寄り添ってないんだよ。
もちろん「いかに葛藤して、変身を引き延ばすか――」というのは、ぜんぜんアリなんだけども。
「あっ、そういうシーン、ありますよ! ヒロインはすでに別の男と結婚してて、ですね!」
おい。まさかの、不倫ものか!?
……いや、そういう枝葉の話じゃなくてだな。
観てる側が納得できる、「主人公が変身できない」理由が欲しいんだけども。
「だから、二度と人間の体には戻れなく――」
ちょっと、冒頭の中身確認させて。
……………………あー………………。
これ、最初に大怪獣を殺したの、ウルトラマンだよね?
「当たり前のこと訊きますねぇ」
あのさ。
じゃあもう、すでに一回変身したわけじゃん。
なんで、そこから人間の体に戻って、死体処理チームに入ってるの?
「えっ。だって」
変身したら、人間に戻れなくなるんでしょ?
「……いやいや、それは二回目の話ですよ!」
――それは君の脳内にある、勝手な設定だよね?
「勝手って……」
必然性のある流れに見えない、ということ。
この段階で、観てる側は「都合よく、一回目は戻れたけど二回目はわからない」とか、納得してくれないよ。
普通に考えたら「一回目も人間に戻れたんだから、二回目もできるでしょ」ってならない?
「いや……だって、じゃあ切ないラストシーンが……」
そこを描きたいなら、きちんと手順を踏んで、物語を展開していかないと「無理がある」話になっちゃうよ。
で、最初の段階でこんなズレてる話が、最後まで面白いわけないのよ。
「……そんなことないですよ! ちゃんと、全部チェックしてください!」
わかった、観るよ。
ええと……うーん、なんか不倫展開が多いな……。
下ネタも随所に盛り込んでくるし。
「それは、自分が好きだからです!」
ことごとく滑ってるとは思うけど……まあ、それがやりたいことなら、いいけどさ。
ああ。ヒロインの旦那も、余所の女と不倫してるのか。
えっ、この旦那の不倫相手とは、以降なんにもないの?
「三角関係にクローズアップしたかったので!」
三角……。
すでにこの段階で、ダブル不倫だとは思うけども……。
――んあ?
おおおおおおいいいいい!
「は? なんすか?」
中盤に出てくる、ヒロインのお兄さん――これ、死んでない?
「死んでるか死んでないか、あえてぼかしてますね!」
でも完全に、物語上では死亡扱いだよな……。
お前さん、これ、いいのか?
「へ? 何か問題が?」
あ、あのさあ……。
このお兄さん、なんで死んだかわかる?
「爆破計画を進める中で、尊い犠牲となったんです……!」
バカ、違うよ!!
「え?」
ウルトラマンになれるはずの主人公が、ぐずぐず自分勝手な考えで変身しなかったから、このお兄さん死んだんだよ!!
「あっ――」
そう、主人公さえ行動してれば、死ななくても済んだキャラだよね!?
「言われてみれば……そう、なんですが……」
あのさ、ここが大問題でな?
お前さんはこの後、主人公が何考えてるのか、ちゃんと想像して作ってる?
「えっ? ええと」
ぜんぜん意識してないよな?
だって、ヒロインの兄、だぜ?
主人公とも以前から関わりがあって。
ヒロインにも、まだ恋愛感情が残ってる。
その兄を――主人公のミスで、殺してしまった。
取り返しがつかない大失点だ。
「いや、でも、あの!」
あのね。ここでもお前さんは、自分の「やりたいこと」を優先して――説得力を放棄してるの。
ちゃんと手順を踏んで、「こういうミスをしてしまった。それを抱えるまま、前へ進むしかない主人公」とか描けば、まだよかったの。
でも、そんなこと考えてないよね?
だって主人公、まるで葛藤してないもん。
これじゃあめちゃくちゃイケメンのこの主人公、頭の中は「適当に公務員の仕事を続けながら、ヒロインと不倫していちゃつきたい。それ以外はどうでもいいんだよなあ」という、クソ男になるぞ?
「ちゃんと、ウルトラマンですよ! 変身して、最後は自分を犠牲にして、みんなを救うんです!」
――あのな。
ヒーローは、力を持ってるからヒーロー、というわけじゃないの。
もちろん見た目がイケメンだから、でもない。
ヒーローとは「生き方そのもの」なんだ。
長々と確認させてもらったが……これは、よくない。
まず、ヒーローを描きたい、という作品じゃないよね?
「当たり前じゃないですか!」
う、うん……そう胸を張られても困るが……。
「描きたかったのは、三角関係です!!」
……………………。
それ、大怪獣、いる?
「――あっ」


……という感じで、「これは物語として破綻してる」「ちゃんと主人公が何を考えて、どう行動するのか見せる話にすべき」と指摘して、企画段階で練り直しを要求するレベルです。

私自身でも、編集さんとのやり取りで「この主題を見せたいのなら、別要素を入れるとノイズになり、わかりにくくなりそうですね」と指摘されることもしばしば;
「それよりも主題をきちんと見せる、話作りにしましょう」
ここが大事なポイントですね。


――そんなことを教えてくれる『大怪獣のあとしまつ』、分析するならこんな見事なお手本はありません!
この年末年始、Amazon Prime会員の方はぜひ、どうぞ!

まあ、今年最後の映画を『大怪獣のあとしまつ』で締めくくりたくない!
新年一発目の映画を『大怪獣~』で始めたくない……は、とても正しいと思いますがww







サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す