【1話完結】シチュエーションボイスの原作小説「【ヤンデレ】アウトローな男性にやんわり拐われた話」

記事
小説
はじめまして!
シチュエーション台本を書いているあゆむです!(新参者)

シチュボの原作は台本を読む前に全体の把握にも使えるなと思ったので、こちらのブログでは私が書いている台本の原作小説を垂れ流していこうかなと思っています。

大して長くないので、寝る前にひとキュンしてもらえたら幸いです照

※投稿サイトに上げている既存の作品ですので、台本のご依頼を下さっているお話ではございません。ご安心ください。

「【ヤンデレ】アウトローな男性にやんわり拐われた話」

【女性向け】
 私には最近、悩みの種が芽吹き始めている。

「おはようございます。お迎えに上がりました。それにしても、今日もすごくお早い出勤ですね」

 当然のように私の自宅前に車を寄せ、外で待機しているこの男。

 以前までは退勤後に私を待ち伏せていたのだが、ついに今朝、自宅前まで来られてしまった。
 口角が引き攣る私に、「仕事終わりだとなかなか捕まらなかったので、朝なら必ず捕まるかな、と」と男はいう。

「あー、確かに自宅は貴女から直接聴いたことありませんでしたね」

 白い息を吐きながら平然としている男は、もはやストーカーを正当化する勢いだ。
 もっというなら、私の職場も教えた覚えはない。

「私にとって貴女の居場所を突き止めることなど、造作もないことです」

 「ささ、冷えますので。乗ってください、送ります」男は後部座席のドアを開け誘導する。

 その所作が様になっていて、無駄にスマートなのが癇に障る。くわえて「こんなに早いのに、貴女は遅刻寸前なのでしょう?」と私のスケジュールを把握しているような口ぶりだ。

 男に言われて腕時計をチラ見すれば、乗りたい電車の時間に間に合うかはかなり瀬戸際だった。無論、それに乗れなければ遅刻決定だ。

 私のスケジュールを把握しているらしい。

「さぁ」

 男の言葉は甘言だった。

 私は男の匂いが広がる車内に乗り込んでしまった。
 私に続いて男が後部座席に乗り出す。当然、運転席には使用人ともタクシーの運転手ともとれない輩の男がいて、私の隣にいる男に顎で指示されている。

「すみません。私が運転してお送りしたいのは山々なんですが、それをするとちょっとこちら側の格好がつかないので……。我慢して下さいね」

 どちら側なのかはお互いに明言こそしない。だが、言わずもがな、だろう。

 「寒かったでしょう」そういって私を抱き締めて包む。

 私から言わせれば、後部座席に乗り込む際に少しだけ触れた男の方がよほど冷たかった。どれだけの時間を外で待機していたのか想像がつかない。

「寒い、よりは疲労の方が強いですかね?」

 この問いに、私は沈黙で返してしまう。

「貴女は今日だけでなく、毎日……そうですね、ここ二十日くらいは休みなしに夜も更け込んだ時間に仕事を終え、朝は今日みたく始発ほどの早朝にはこうして家を出る生活をしていらっしゃいます。覚えていらっしゃいますか?」

 「実は昨日、会社から帰宅する貴女を捕まえたんですよ」といわれ、私は鈍化した思考力で昨日の夜を回顧してみるが、男とすれ違った記憶どころか、何時頃に帰宅出来たのかすら記憶が怪しい。

「覚えていらっしゃらないでしょう。私の声掛けに気付かず、ぼーっとしながら足取り重く歩いておられたのですから」

 「ですから、私の判断で今日はお迎えに上がった方がいいと思いまして」という男は、私を自身の膝に寝かせた。

「電車だと遠回りして行く職場ですので、私の車で行けば少なくとも電車二、三本見送っても間に合います。どうですか、会社に着くまで寝ていたらどうですか? 貴重な睡眠時間でしょう?」

 「もし、多少揺れがあった方が良いのでしたら、出勤時間までは車を走らせたままにしておきますが」と魅力的な提案をしてくる男。

 車の些細な振動で気絶するように眠りこける自信がある私は、電車でも立ったまま寝ていることもしばしばだ。
 だからこそ、如何にもアウトローな男の筋肉質な膝に寝かされている状況であっても、眠気が襲ってくるのは不可抗力である。

 「着いたらちゃんと起こしますから安心して下さい——おやすみなさい」私はそこで意識を手放した。

「起きて下さい、着きましたよ」

 男が声を掛けてくれる。本当に送り届けてくれたらしい。
 瞼に未だ重みを感じながら目をこじ開けると、男は寝る前の状態のままで、さらに私にコートを掛けていた。
 脱力した人間は頭だけであっても相当な負荷だったに違いない。

 ゆっくり硬くなった体を起こす。その際、スラックスの腿の部分に少しばかりのシミを見つけた。
 私はそのシミについて深く考えないことにした。

 そして、驚愕する。

「どうされました? 降りて下さい」

 降車を促されるが、どう見ても職場ではない。
 慌てて時間を確認すると、とっくの前に始業している時間だ。

「私の判断でお迎えに上がりました、と言ったはずです。貴女が行くべきところは、職場ではありません」

 ああ。やはりアウトローな男のやり口だった。

「失礼しますよ」

 一言断りを入れたかと思うと、強引に私を車から引っ張り出してそのまま抱き上げた。
「此処は私の家です。安心して下さい、人払いはしてありますから」

 男は自分の部屋だというだだっ広い寝室に私を寝かせ、「貴女が今すぐすべきなのは、しっかりとした休息です」という。

 一瞬でも身構えた私を男がコートを脱ぎながら「朝から期待していただいてとても有難いのですが、今は貴女の体が優先です」といわれ、ただただ呆気に取られる。

「いえね、貴女の家に戻すことも考えたのですが、私のベッドの方が大きいので寝心地を考えればウチでいいかなと思ってお連れしたんです」

 たしかに、私のシングルよりは大きい。遥かに大きい。
 だから、私のベッドのサイズがどうであろうと、この男のベッドの方が大きいと言えるのは当然だろう——「貴女のベッドは小さすぎます」。

「私と貴女二人でこの広いベッドで眠れたらどれほど良いかと思ってから幾星霜……本当は今日ではなかったんですが、少々早い段階でも貴女をお連れして正解でした」

 「……私が裏稼業の人間だと勘付きながらも睡眠を優先してしまうくらいには、貴女の思考力と判断力が低下しているのが見て取れました」と男の方が歯噛みして悔しそうにしている。

 男は大きな溜息を溢していう。「貴女は早く寝てしまいなさい。どうせ、こんな状況でも貴女は会社のことが頭から離れていないのでしょう。——あんなブラックな所から抜け出す、という思考すらも削ぎ落とされている貴女には何よりも睡眠が大事です」。

「貴女が身を粉にして働いて貰えた給料はいくらでしたか。大した額も貰えていないでしょう。あ、言わなくていいです。私が把握してますから。サービス残業は愚か、他の賞与や手当だってついていないことなんてザラですよね」

 男がさらに苦渋に顔を歪めて「——貴女だけ」と言葉を落とした。
 そこまで赤の他人から言われると、当の本人は感情の行き場に困る訳で。男の感情についていけない。

「っとすみません。たかが数十分の睡眠だけじゃ、何も回復されていないですよね。そんな貴女に色々話しかけてしまってすみません。どうせ、会社は無断欠勤扱いで減給されるんです。いっそ潔く寝てしまった方が良いですよ」

 そして、また男が「こんな時間に惰眠を貪るのはとても幸せだと思いませんか?」と甘言を垂れた。

 それから、私の瞼をゆっくりと下ろし「手は出しませんので、また安心して寝て下さい——おやすみなさい」と冷たい手で誘われた。
 私はこの言葉で、また出勤意欲を削がれてしまったのだった。

「相変わらず、寝付きが数秒って……。劣悪環境下の労働にも程がありますよ。貴女の職場は」

 「クソッ。もっと距離を詰めるのを早められたら、まだ何か他に策があったかもしれません——いえ、あの状態で私と距離を詰めることは初めから難しかったですね。だったら、今日みたく、少々強引にでも連れてくるのが正解だったのかもしれませんね……」男は一人ごちる。

 私は久しぶりに夢を見た。それも久方ぶりの恋人がいて、充足感に満ち足りた空間だ。それが徐々に一人の時間が増え、常に切迫感と焦燥感に苛まれるようになった頃、私は自ら意識を浮上させた。

「あら、起きられましたか」

 そういえば、そうだった。

「ふふ、私の部屋で本格的に二度寝をしたことをお忘れでしたね?」

 私は無言で肯定の意を返す。

「いいんですよ。健やかに眠っているのを見られただけで。私は十分です」

 そして、私は顔面蒼白へと顔色を変色させる。事の発端は、この男が職場まで連れて行くと見せかけて、自宅へ連れ込んだのだ。
 だが、一番の戦犯は、猜疑心の足りなかった私だ。

「そんなに溜息をつかれると、こちらもちょっとだけ罪悪感が湧いてしまいますね」

 「でも、たくさん寝て、頭がスッキリして、今自分の置かれている状況が少し異常だということに気づいたんですね?」とぐうの音も出ないことをいう。

 今回ばかりは、アウトローなストーカー男に非は殆ど無い。(全くないとは言わせない)

「だったら、あの会社さっさと辞めてしまいましょう」

 男はベッドに座り私の両肩に手を乗せて熱弁し出した。「正直、あそこは退職金も有給も何かとゴネて出しません。そうすることで、辞めることを辞退するのが狙いでしょうから。時間を奪う、とは思考力も生き方さえも、その人を縛りつけるものです。そこらへんの束縛の強い彼氏よりたちが悪い」。

「本来はあそこの会社を潰す算段でした。しかし、貴女の方が倒れる寸前だったので……」

 ここまで黙って話を聞いていれば、やはり運転手を従えるだけの権力をもった男らしかった。
 私とは無縁のアングラな世界に生きる人間のリアルを聞けて、新鮮な気持ちが勝っている。

「何よりも貴女最優先で、救出に向かった次第です」

 私は彼に伝えた。会社を潰すなど大層なことしなくても、遅刻を一日でもすれば、退職金ゼロのクビだ、と。
 もう、私は無職なのだ。

「なんと……。そんな腐れ外道な人間が裏社会でなくても、そこらへんにウジャウジャと潜んでいると思うと鳥肌が立ちます。貴女、そんな腐った社会の中で、よく一人で生きてこられましたね……よくがんばりました。もう、クビを切られても大丈夫ですからね」男は今度は許可を取らずに私をゆっくりと抱き締めた。

「私が一生養いますから」

 「ああ、びっくりしますよね、すみません。でも……こればかりは譲れないので、観念してください」男は抱きしめる腕に力を込める。

「覚えてないかもしれませんが、貴女は裏社会に生きる私に道を教えてくれたんですよ。たったこれだけのことですが、こちら側で生きる我々にとってカタギの方に優しくされるのはなんか擽ったいものなんです。今でも忘れませんよ。その時も目の下にクマを作っていて。心配になって見守るつもりで貴女を遠くから見ていたら、やはり、私に道を教えてくれるだけの人柄だなと確信しました。貴女自身の気質はとても懇切丁寧……それが貴女の強みであり、職場から逃げ出せない弱みでもありますが」

 男のスマートさはどこかけ消え失せている。それほど熱心に口説いている最中なのだろう。だが、どうも私にはその話も他人事のように聞いてしまう。
 もう何年もまともな生活を送れていないのだ。その間に救われた人間がいたとしても、申し訳ないが覚えていないものは覚えていない。

「もう一度言います。私のところに永久就職して下さい。貴女が主婦業としての金銭を要求するなら、見合う給金をお支払い致します。ですが、金銭授受があっても、貴女を愛していますからね」

 どんどん男の話がより具体的になっていき、ついには「貴女は運が良いのか悪いのか、極道の敷居をぼやっとした頭で跨いでしまわれた。そのおかげで、うちの人らに紹介は免れません。ですが、会社をポンと辞めても、帰ってくる場所はここにあります」と終始私を手厚く扱う男が、初めて明確な選択肢を与えてきた。

「すぐに結婚しろとは言いません。結婚を前提にお付き合いからでも良いのです。もちろん、貴女の寝相の悪さも考慮してこのサイズのベッドですので、一緒に寝ることは絶対です。それに、枕も複数用意しました。今朝車内で私の膝によだれがついていましたので、替えが必要かと思い貴女が寝ている間に揃えさせました」

 私が見て見ぬふりをしたシミがバレていた。あまりの羞恥に頭を抱える。「あ、よだれの件は生涯私の胸の中にしまっておきますよ」。

「どうされますか? もう外を見る限り、夕方です。今更会社へ行っても一言クビと言われて、終わりでしょうね」

 男の目に囚われてしまい、私はこくん、と頷いた。
 無職になったことを引き合いに出されると、今すぐに衣食住が確約する男の話がとても甘美な響きに聞こえてしまった。

「本当ですか!! 嬉しいです……」

 心底嬉しそうに口角を上げる男に、初めて違和感を覚えた。胡散臭い。
 だが、男は優しい。
 「起きてすぐ色々話し過ぎましたね。私も安心したら眠くなってしまいました。どうです? 三度寝、しちゃいますか?」としれ、と私の隣で横になり抱き寄せる。

 最近の悩みの種によって無職へと誘導されたとか、極道の仲間入りを果たしてしまったとか、色々なことが一日で起きたのに、男の優雅な「おやすみなさい」でまた眠くなってしまう。

 でこに唇を落とした男が、満面の笑みで私が眠りにつくのを見守っていた。

「また数秒で寝入って……本当に疲れていたんですね。可哀想に」

 「一度頭をスッキリさせたところで、異常性のある環境で選択肢を出されると、その中で選んでしまう傾向があるのは本当のようですね。別の選択肢を作るということは、頭から抜け落ちている」

 ほくそ笑む男は、その笑みが堪えきれず、クク、と漏らす。

「鳥籠の完成です」

——完——

ここまで読んでくださりありがとうございました泣

私の趣味がバレてしまったところで、肝心の台本ですが、演者以外の方が台本を見ても面白くないかなと思いましたので省略です汗

もし、気になっていただけましたら、下記より覗いてくださると幸いです!!

サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す