変化する歌舞伎町の今ー現代リベラリズムについて思うことー

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歌舞伎町を歩くとあちこちにホストの看板が目立つ。そんな中、一際目立つある看板に目を引かれた。「顔面エルメス」と謳うホストの顔は、大胆なキャッチーにも劣らず美しい造形をしていた。  

思うに、歌舞伎町において、昔のホストのそれに比べて顔も雰囲気も洗練されてきたようだ。昔は(といっても私は30代なのでそんなに昔を知らないが…)、「いかにも」なチャラ男が勢揃いで、どこか「成金」風を感じさせ、分かりやすく「異世界」を演出しているようであった。

しかしながら、今日のホストはどうだろう。醸し出す雰囲気も以前のそれとは違い、まずは見た目のクオリティをあげてきた感がある。自称「エルメス」を謳うのも頷ける。少なくとも、以前のチャラ男風の営業スタイルでは需要に限界があるとの認識があるのだろう。

ところで、昨今アイドル業界では韓国男子が米ビルボードで1位をとるなど、猛烈な勢いで人気を博している。BTSに見られるアジア人の快挙は、西欧における根強い人種差別に風穴を開け、政治/社会的領域にまで正の侵食を始めるに至った。

彼らを国連での挨拶に登壇させた韓国文元大統領の嗅覚と戦略は、韓国とその文化を喧伝する上で功を奏しているため、その機を逃さない策士のそれであったようにも思う。政治性を帯びるほどの活躍を韓国アイドルが成し遂げたことは、歴史的な快挙でもあるだろう。

それだけ韓国アイドルが支持される理由を考えるに、歌とダンスのレベルが高いことをはじめとして多岐にわたるだろうが、ここではそのビジュアルに注目することにしたい。

彼らのビジュアル、特にその造形は整っており、肌も極めて白い。メイクもバッチリ施されており、縄文時代に槍をもってマンモスを狩れるような色黒マッチョな「男」ではなさそうだ。いわゆる「優男風」なそれでいて、どこか中性的でさえあるメンバーもいる。そして激しい歌とダンスのパフォーマンスをするけれども、その前後での礼儀正しさを見ればどこか上品さすらも感じさせる。

現代では、このようなより品性高く、「脱男化」した中性的な男性が好まれるのだろう。私がホストクラブを経営するなら、多様性の時代風潮下で、バラエティに富んだメンバー構成にする。マッチョでワイルドイケメンから優男まで取り揃える。学歴も職歴も性格も趣味特技も多様に。

とはいえ、メインビジュアルは「韓国(韓流)風」でプチ整形とハイフ辺りで小顔矯正をしてメイクを施す。その美しいマスクで甘い言葉を投げ掛け彼女たちの承認欲求をくすぐれば、歌舞伎町界隈にいる若い女性は簡単に落ちるように思う。

歌舞伎町のホストたちも、韓国アイドルがもてはやされる洗練された美しさが需要とされる時代変化の例にもれず、より美しく、よりきめ細やかな上質さが求められるようになったのだろう。

しかし、そうしたものに心を奪われる女性への搾取の仕方までは、依然変化していないということが記事からうかがえる。いや、むしろ表面レベルが上がったことでより搾取が容易になった、とも換言できるのかもしれない。

このように、歌舞伎町ホストにおいて変わるものと変わらないものを見てきたが、問題はこの変わらない部分=搾取について、これまで同様、我々は見て見ぬふりのようなどこか「異世界のお話」で済ませるだけしかできないのだろうか。

直截的にいえば、「成人した女性がどのように自分のお金を使おうと我々には知ったこっちゃない」というのが現代リベラルの感覚だろう。
では、なぜわざわざそれがニュースになるのだろうか。

メディアがそうした実態を映し出すだけにしても、そこには記者の「よくないのでは?」とか「普通ではないのでは?」という倫理的認識が前提とされているのではなかろうか。はたまた、この記事をおそらく読むであろう世論の認識のどこかに「ホスト狂い女子」とそうした女子を産み出す日本社会に対して何らかの異様さを感じ取るものがあると想定されているからではなかろうか。

先日、「頂きりりちゃん」が逮捕されたが、彼女もまた推しホストのために金策に走った女性であった。若い女性をターゲットにする戦略は、市場における若い女性の相場と価値を知る者からすれば旨味が大きい。

若い女性たちは、自分たちが今世間でどのように価値づけされているのか、そしてそれを巧みに利用しようとする者がいることに警戒しなければならない。
というのは簡単で、成人した彼女たちの自由な権利を咎めることは誰にもできない。

このような言説が正当化されうるリベラリズムが跋扈する今日の日本社会の中で、我々がそれでも「記事にする」「記事を読む」ことだけが、我々に許された問題と認識する事象とのある種の関わり、誤解を恐れずに言うと、小さな抵抗なのかもしれない。

頻発するホストクラブの高額請求とそれに纏わる問題を受け、新宿区をはじめ関係機関は対策に乗り出したという報道があった。具体的には、売掛金に上限を設けたり、売掛金を抱えた女性や家族への無料弁護士相談の開放、女性が安心して話せる場所の構築などである。

記事の中で、とあるNPOのトップが「自己責任だと責めず安心して話せる環境を」と述べているように、ホスト狂いによる問題のベースには自己責任という隠れ蓑により彼女たちが孤立化しやすいということも問題視される。

諸問題を受け、行政がやっと動き始めてはいるものの、リベラリズムが隆盛する現代日本において、我々一人ひとりの良心がどのような形で、どの程度において、こうした社会問題に対して発露可能なのか興味深いものである。


参考ニュース記事:
(元記事のURLを貼ろうとしたのですが、どうしてもupできないため記事の見出しのみ載せておきます)

産経新聞
「『推し』ホストに金も体も捧げる客待ち女性たち カオス化する東京・歌舞伎町の今」

NHKニュース
「歌舞伎町 ホストクラブ高額請求相次ぎ 新宿区など対策へ」
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