不妊治療助成金 支払いにあたり実施施設の「治療成績等」の開示を要求

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厚生労働省は、不妊治療を受けた夫婦に支払われる費用助成について、治療件数や費用の情報を開示している医療機関での実施を条件とする方針を固めた。都道府県などが医療機関から情報を集め、4月にもホームページで公開し適用する。政府は少子化対策の柱として不妊治療の負担軽減を掲げており、自由診療で実態が見えにくかった治療の透明化を進める。
                                                                               (2021.1.27 読売新聞)
 今年より都道府県が行っている不妊治療助成金に関し、昨年末までは、初回が最大30万円、2回目以降は同15万円支払われていた不妊治療助成金を今年1月からは、2回目以降も、初回と同額の30万円に引き上げました。
 助成回数も患者1人に対し6回までの制限を設けていましたが、子ども1人あたり6回に見直し、夫婦の所得制限も撤廃し、新たな助成金制度を拡充するとともに、2022年度より公的な健康保険での適用を踏まえ、実施施設への治療内容などへの透明性を求めたという形です。
 記事では医療機関に開示を求める内容として以下を挙げています。

【必須項目】
① 生殖医療専門医の有無
② 治療の種類
③ 年間の治療件数
④ 治療費
⑤ 安全管理マニュアルの策定の有無
⑥ 治療履歴などの管理の有無

【任意項目】
昨年1年間の35-39歳の女性に対する治療成績(採卵回数、妊娠数、出産数、出生率など。年間の年齢別患者数)

ではこうした情報開示に対し、私たちは何を基準に施設選びを行っていったらよいのでしょうか。また開示された情報の意味は?など、必須項目と任意項目に分けて、考察していきたいと思います。


1.生殖医療専門医の有無(必須項目①)

不妊治療クリニック(日本産婦人科学会の認定施設)の開院において、医師が生殖医療専門医の認定を持っている必要はない!!の事実。

 え、うそでしょ?と思われた方もいらっしゃると思いますが、実は日本産婦人科学会は、体外受精実施認定施設の開設に、生殖医療専門医は必須とはしていません。これは学会ホームページに記載されている、施設認定申請書類からも読み取れます。そもそも生殖医療専門医は日本生殖医学会が認定しており、管轄外なのかもしれません。
実際、私も体外受精施設の立ち上げにかかわりましたが、当時、生殖医療専門医がおらず、実施責任医師とした医師は1年間、日本産婦人科学会認定の研修施設で研修をしてきた医師でした。しかも週一回、アルバイトに行っていたのみ。
 それでも、研修施設が「1年間当院で研修いたしました。」とすれば、それをもって日本産婦人科学会に体外受精実施施設認定の書類は通りました。
 個人的にはせめて指導医という立場においても院長(施設管理者、実施責任医師)は生殖医療専門医であってほしいというのが本音です。
 産婦人科医であると標榜している医師は、‟産婦人科”の専門医であるのですが、生殖医療専門医かどうかは、日本生殖医学会のホームページで確認することができます。
自分の主治医や、大きなクリニックでよく診察に当たる医師が生殖医療専門医かどうかは学会のホームページで検索してみるとよいでしょう。

2.治療の種類 ・年間の治療件数(必須項目②、③)

治療の種類に関しては専門的な部分もあり、患者さんにとって判断材料にするには難しい内容になるかもしれません。端的に言えば、治療の種類が多ければ多いほど、治療に選択肢が多いと考えてよいでしょう。

 例えば、不妊治療クリニックに検査を受けに行って、男性不妊を指摘されたとしましょう。受診した施設Aでは、「男性不妊に対しては顕微授精(ICSI)やその周辺の体外培養オプションが用意されています。」と書かれていれば、体外受精のオプション治療がメインになり、ご主人に対する内科・外科的な治療はしていない、またはできないと読み取れます。
 こういう場合は、男性不妊に精通した医師がおり、ご主人の精密検査も行ってくれる施設を探せばよいでしょう。

年間の治療件数にはトリックがあるので注意です。「年間の採卵件数が多いから人気のクリニックなんだ。」と思うのは、ちょっと誤解している部分があります。
 クリニックの中にはあまりお薬を使わず、採卵数を少なくして治療を行うポリシーのクリニックもあれば、お薬を使い、1回でできるだけ多く採卵するポリシーのクリニックもあります。
 そうすると、採卵数を少なくしているクリニックは、治療のキャンセル率も高くなる傾向があるため、必然と採卵回数が多くなります。
 逆に卵を多く採るクリニックは、1回に採れる卵が多いため、治療のキャンセルは減り、採卵回数自体はそんなに多くはなりません。

 最近の胚移植は「凍結胚盤胞移植」(受精5‐6日目の受精卵を凍結し、新たな生理周期で凍結胚盤胞を融解して戻す方法)が主流なため、あくまでも私が考える治療成績の良いクリニックは「採卵件数と移植件数に大きな差がないクリニック」ということになります。(基本的には採卵件数<胚移植件数になります。)
 即ち、採卵件数と移植件数に大差がないということは、1回の採卵でとれた卵で、1回目の移植で妊娠できる確率が高いということです。
 しかしながら、凍結胚移植の中には2人目のお子さんの妊娠のために、数年前に凍結した胚で移植される方もいらっしゃいますので、一概にこの理論が成り立つわけではないことをご了承いただきたいですが、一つの指標になることは確かです。

3.治療費の公開(必須項目④)

 他の記事によれば、体外受精の費用は16-96万円とかなりの差があり、都市部で高額になっている傾向があるようです。
 確かに都市部ですと家賃が高く、そもそも産婦人科は開業に他科よりもお金がかかります。そこに体外受精に特化した高額な機械類、培養室の設置、培養士への人件費、特殊な消耗品などを考えると、確かに患者様への負担額は多くならざるを得ません。
 これは聞いた話なので、へ~と思っていただく程度にしていただきたいのですが(笑)、東京都心部で体外受精クリニックを開業する個人の医師は、1億円以上の借金をして開業にこぎつけているようです。
 体外受精が保険適用化されると、クリニックの事情にかかわらず、診療の一部が国の決めた値段になるため、異常に高額な値段設定をしているクリニックや、借金の返済中のクリニックの中には、資金繰りが滞る可能性も無きにしも非ずです。
 これは私の予想ですが、保険適用後はオプション治療で利益を上げていく傾向になっていくと思います。今まで選択制だったオプション治療が必須になったりして、保険適用で減る分を補っていくことになると思います。事実、そういった準備を行っているクリニックも出てきています。
 ただ、混合診療(保険診療と自由診療を一緒に行うこと)は、現在は差額ベッド代など一部でしか認められていないので、今後どうなるのか注目です。

4.安全管理マニュアルの策定の有無 ・治療履歴などの管理の有無(必須項目⑤、⑥)

この件に関しては日本産科婦人科学会の実施施設認定を受ける際に、必須とされることなので、改めて開示して、実施施設でこうした対応がとられていることを示すためのものでしょう。
 ちなみに体外受精で子供を授かった場合、母親の診療記録(カルテ)は20年間保存することが義務づけられています。

5.昨年1年間の35-39歳の女性に対する治療成績(任意項目)

 なぜ35-39歳なのでしょうか?これには施設間での治療成績に、隔たりをなくすためのものかと思われます。
 日本産婦人科学会のデータにもあるように、日本における体外受精を行っている患者さんの年齢の中央値は40歳を超えてしまいました。ご存じの通り、40歳を超えるとさらに妊娠率は下がり、流産率が上昇します。
 また地方のクリニックの場合、患者さんの年齢層が比較的若く、都市部では高いという傾向がみられます。
 クリニックによっては患者さんの年齢の中央値が43歳という場合もあり、「ある施設の治療成績」という形で算出してしまうと、施設間による隔たりが大きくなってしまうことが考えられます。
 ですので、体外受精で妊娠例が出る、ぎりぎりの年齢層での妊娠率を開示させることで、患者さん側の施設選びの指標にしてもらおうという狙いがあるのかもしれません。

 ただ不可解なのは、記事によれば、これらの治療実績は各体外受精施設からの自己申告を求めているようで、第三者の監査などの仕組みに関しては言及がありませんでした。ということは、簡単にデータの改ざんや専門医の名前貸しが行われてしまう可能性があるのも事実です。

 また、各体外受精施設の正確な採卵件数、移植件数、妊娠率などに関しては、日本産婦人科学会が正確なデータを持っているはずなのに、なぜそれを公開するという方法をとらないのか、疑問です。

 アメリカではアメリカ疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)のホームページで各施設の治療成績が詳細に公開されています。
 患者さんが助成金をもらう際に、申請書に記載されている‟E”から始まるIDは、日本産婦人科学会のオンライン登録で症例報告がなされているという証拠です。日本でもこれらのデータを公開し、施設選びの一つの基準にできるよう、情報公開すべきと考えます。

最後に

 いかがでしたでしょうか。個人的な考えでは、患者さんのためというよりも、体外受精実施施設の診療実態が不明瞭であったために、慌てて作ったルールのようにも思えます。
 また今後、保険診療開始とともに、適応基準も厳しくなる可能性があります。即ち、いままで可能であったセックスレスや超高齢者、社会的な理由(仕事が落ち着いたら胚を戻したいなど)による体外受精では保険は認められない可能性が出てきます。
 体外受精の保険適用化の議論開始で、患者さん側にも朗報であるように思われがちですが、公的資金を使う以上、実施施設側にも、責任ある取り組みをしてくださいというのが、今回の施設側への情報開示の義務付けだったのではないでしょうか。

 菅総理は遅くとも2022年度、できれば前倒しでの保険適用化を国会で述べています。今後の動向に注目ですね!!

 生殖医療カウンセラー★Yuri
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