考えない投資のためのデータ分析 〜 IPO分析ノート

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マネー・副業

0. はじめに

0-0. IPOとは

IPOとは、"Initial Public Offering" の略で、企業が上場して新規に株式を公開することです。
株式投資の中でもIPO株への投資はリスクが低く、初心者でも気軽に始めることができます。
IPO株の公募価格は、証券会社が計算した適正株価から20~40%程度の割引をした価格に設定されているので、事前に公募価格で購入したものを上場日に初値で売れば、多くの場合利益が出るためです。

0-1. この記事の目標

しかし、もちろんすべての銘柄で利益が出るわけではありません。
また資金量や申し込み中の資金拘束も考えると、すべての抽選に申し込むには資金が足りない場合もあるでしょう。
資金が十分あっても、余力をどの銘柄により多く使うべきか考える必要があります。
ただし、銘柄ごとに個別に分析するのでは通常の個別株投資と同じ労力がかかり、また判断するためには会社や業界の勉強も必要になります。
そこで、この記事では過去のIPOのデータを分析して上がる銘柄のルールを探し、ルールに従って考えずに投資できるようになることを目指します。
今回はこの分析シリーズの始め、2017年編です。

0-2. 追加分析

株式市場が開くのは平日のため、初値で売るためには通常平日の朝に作業を行う必要があります。
社会人だと平日の朝に作業をするのは難しく、IPO投資を諦める場合もあるのではないでしょうか。
そこで、上場日に初値ではなく、その日の終値まで持っていた場合にはどうなるのかも分析に加えました。

さらに、IPO株の購入のための抽選は倍率が非常に高く落選することが多いため、落選時にもできる、逆に初値で買って終値で売る作業をした場合はどうなるのかも考察してみました。
また、初値の決定が翌日以降に持ち越した場合、初値から終値の価格推移にも影響があるのかも併せて分析しました。
(売り買いどちらかの注文が一方的に多い場合、翌日に持ち越しになります。IPOでは人気銘柄で買いが多いことによる発生がほとんどです。)

1. 2017年総括

1-1. 概況

2017年に東京証券取引所で新規株式公開した86社について分析しました。
(以下、数値は小数第3位を四捨五入したものです)

86社の平均公募価格は1976.1円、平均初値は4158.16円です。
また上場初日の終値は平均4185.45円でした。

最高公募価格はティーケーピー(3479)の6,060円(初値10,560円)、最低公募価格はソレイジア・ファーマ(4597)の185円でした。
最高初値はヴィスコ・テクノロジーズ(6698)の15,000円(公募価格4,920円)、最低初値はソレイジア・ファーマ(4597)の234円でした。

公募価格の合計は169,945円、初値の合計は357,602円でした。
仮に全銘柄を100株ずつ買って初値売りをしたとすると、約1,877万円の利益を得られたことになります。

下の画像は公募価格から初値の騰落率のベスト3、ワースト3をまとめたものです。
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ベスト3
1. トレードワークス(3997):+518.18%(公募2,200円、初値13,600円)
2. ウォンテッドリー(3991):+401.00%(公募1,000円、初値5,010円)
3. ビーブレイクシステムズ(3986):+361.08%(公募1,670円、初値7,700円)

ワースト3
1. 西本Wismettacホールディングス(9260):-6.00%(公募4,750円、初値4,465円)
2. LIXILビバ(3564):-5.02%(公募2,050円、初値1,947円)
3. スシローグローバルホールディングス(3563):-4.72%(公募3,600円、初値3,430円)

ベスト3は超大幅な増加である一方、ワースト3でも小幅な減少に留まっています。
公募価格割れは86件中8件(9.30%)でした。

1-2. 上場市場

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市場区分の割合を示したのが上のグラフです。

JASDAQ:19件(22.1%)
マザーズ:48件(55.8%)
東証二部:8件(9.3%)
東証一部:11件(12.8%)

過半数をマザーズが占め、JASDAQも含めた新興市場が3/4以上と多数を占めています。

1-3. 公募価格

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公募価格を4種類に分け、割合を示したものが上のグラフです。

~999円:10件(11.6%)
1,000~1,999円:37件(43.0%)
2,000~2,999円:29件(33.7%)
3,000円~:10件(11.6%)

全体の8割近くが1,000~2,999円という結果でした。
30万円ほどの資金があれば、全体の9割近くの銘柄は100株買うことができます。

2. 値動き

2-1. 価格推移

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公募価格から初値、初値から初値決定日終値の平均価格の推移が上のグラフです。

市場によって大きな差があり、JASDAQ・マザーズの新興市場は公募価格から初値で大きく値を上げる一方、東証一部・二部は小幅な上昇に留まっています。
どの市場も初値から初値決定日終値までには大きな値動きはありません。
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値動きを公募価格別で見たのが上のグラフです。

公募価格から初値はいずれの価格帯も上昇しています。
初値から終値の変動は大きくありませんが、3,000円以上の高価格帯では終値へ向け上昇している様子が見受けられます。

2-2. 公募価格~初値 騰落率

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公募価格から初値の騰落率を市場別、公募価格別それぞれの平均で比較したのが上のグラフです。
実数は以下の通りです。

JASDAQ:+134.01%
マザーズ:+140.63%
東証二部:+16.53%
東証一部:+9.22%

~999円:+128.86%
1,000~1,999円:+105.13%
2,000~2,999円:+134.10%
3,000円~:+73.68%

市場別ではJASDAQ・マザーズは平均的に公募価格の倍以上になる大きな上昇、東証一部・二部は1割前後の小さな上昇をしています。

公募価格別では市場別ほどの大きな差はありませんが、3,000円以上の高価格帯では比較的騰落率が低くなっています。
ただし公募価格が3,000円以上の銘柄は2017年全体で10件と少なく、偶然誤差による可能性もあるため、今後翌年以降のデータも合わせて見ていく必要がありそうです。

2-3. 初値~終値 騰落率

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初値から初値決定日の終値まで騰落率を市場別、公募価格別それぞれの平均で比較したのが上のグラフです。
実数は以下の通りです。

JASDAQ:+0.42%
マザーズ:+0.89%
東証二部:+4.07%
東証一部:-2.39%

~999円:+0.99%
1,000~1,999円:-0.02%
2,000~2,999円:-0.58%
3,000円~:+4.66%

また全体の平均は+0.67%でした。

市場別ではいずれも小幅な変化ですが、東証二部が比較的大きめのプラス、東証一部は比較的大きめのマイナスになっています。
ただし、これも東証一部が全11件、東証二部が全8件と少ないことから、この1年のデータだけでは有意な差とは言い切れません。

公募価格別でも小幅な変化ですが、3,000円以上の高価格帯では比較的騰落率が高くなっています。
これも前述の通り、件数の少なさから判断保留の今後の要注視項目です。

3. 初値持ち越し

3-1. 市場別 初値決定日の割合

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初値決定日が2日目以降に持ち越しになった銘柄の割合を、市場別にまとめました。
実数は以下の通りです。

JASDAQ:19件中6件(31.6%)
マザーズ:48件中22件(45.8%)
東証二部:8件中0件(0%)
東証一部:11件中0件(0%)

JASDAQでは1/3近く、マザーズでは半分近くの割合で発生している一方、東証一部・二部では1件もありませんでした。
東証一部・二部のIPOが想定以上の人気を得ることはないことが分かります。

3-2. 初値持ち越し時の価格推移

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JASDAQ・マザーズにおいて、全体と初値持ち越し時の価格推移の差をグラフにしました。

初値持ち越しの発生はほぼ買いの殺到によるものなので、どちらも初値は大幅に上昇しています。
JASDAQでは、公募価格もやや高めの銘柄で発生した場合が多いようです。
マザーズでは公募価格にほぼ差は見られません。

3-3. 初値持ち越し時の初値~終値 騰落率

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続いてJASDAQ・マザーズにおいて、初値から終値の騰落率の、全体と初値持ち越し時の差を比較しました。
実数は以下の通りです。

JASDAQ初値持ち越し時:+1.66%
JASDAQ全体:+0.42%

マザーズ初値持ち越し時:+0.62%
マザーズ全体:+0.89%

JASDAQでは、初値を持ち越したときには初値から初値決定日の終値の騰落率も高い結果になりました。ただし6件での結果なので翌年以降のデータで要経過観察です。
マザーズでは初値持ち越し時のほうが終値の騰落率は低くなりました。こちらのほうが22件と件数が多いためか乖離は少なくなっています。

3-4. 公募価格別 初値決定日の割合

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初値決定日の割合を公募価格別に見てみたものが上のグラフです。
実数は以下の通りです。

~999円:10件中3件(30.0%)
1,000~1,999円:37件中10件(27.0%)
2,000~2,999円:29件中12件(41.4%)
3,000円~:10件中3件(30.0%)

2,000~2,999円の価格帯が若干多めではあるものの、初値決定日の持ち越しは概ね公募価格には左右されていないことが分かりました。

数少ない初値持ち越し銘柄をさらに4分割すると、1区分あたりの件数が少なすぎて有意な分析にならないため、個別の価格推移と騰落率の詳細は割愛します。

4. 結論

4-1. 買うべきルール

・市場
JASDAQまたはマザーズ。東証一部・二部は避ける。
(2-1, 2-2参照)

・公募価格
問わない。
特に注力するものを選ぶ場合、3,000円以上の高価格のもの以外にすると良い可能性がある。
(2-1, 2-2参照)

4-2. 売るべきタイミング

必ずしも初値で売る必要はない。むしろJASDAQ・マザーズでは平均的に終値は微増している。
一日のうち自分が作業できるタイミングで売っても問題はない。
(2-1, 2-3参照)

4-3. 初値買い

公募価格で買えなかったからと言って、初値で買って終値で売ってもあまり利益は見込めない。
ただし2017年のデータでは、東証二部及び公募価格3,000円以上の銘柄に絞ると+4%以上のパフォーマンスが得られた。
(2-1, 2-3参照)

4-4. 継続観察項目

公募価格→初値の騰落率が、公募価格3,000円以上は低い(2-2)
初値→終値の騰落率が、東証二部は高い(2-3)
初値→終値の騰落率が、公募価格3,000円以上は高い(2-3)
JASDAQでは、公募価格が高めのほうが初値を持ち越しやすい(3-2)
JASDAQでは、初値持ち越し時のほうが初値~終値の騰落率が高い(3-3)

4-5. おわりに

これは2017年の1年間だけのデータに基づく分析であるため、偶然または当時のトレンドなどによって、現在でも同様とは限りません。

今回の結論は翌年以降でも有効なのか、傾向の変化が出てくるのか、この先2018年以降のデータの分析も行っていく予定なので、興味を持っていただけた方はフォローをお願いします。
4-4で上げた項目もまた次回観察します。

また、ボリュームが多くなったことから市場と公募価格だけの分類に留めましたが、今後他の軸での分析も行って、より解像度を上げることも検討したいと思います。
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