言葉にならない。
2021年3月19日、株式会社ココナラは東証マザーズに上場した。
人前で話したり、文章を書いたりするのは好きな方なのだが、ココナラが上場するにあたっての想いを何か書こうとしたら、どうにも呼吸が浅くなる。
なんというか、とうとうここまで来たなという感覚はあるのだが、色々な感情が襲ってきて、どうにも言葉を与えることができない。
・・・深呼吸して、振り返りから始めてみる。
思えば2011年4月、東日本大震災直後の緊張感が残る日々の中で、後に一緒に創業することになる友人のめいちゃんとチャットしながら思わずヘルスケアの話題で盛り上がった。
「僕たち、起業しちゃおっか」とか言って興奮したあの日。
あれが僕らの物語の始まりなんだろうか。
あるいは、その年の夏、ヘルスケアビジネスの創業チームに巻き込んだ友人の新明くんから、「ヘルスケアも良いのだが、オンラインでスキルを売り買いするプラットフォームって面白いと思うんだよなー」と、今のココナラのアイデアを聞かされた時。
その時から始まった物語なのかもしれない。
(2012年6月:初めて借りた11坪のオフィスへの引っ越し日)
あるいは感覚的には、起業する前にNPO法人「ブラストビート」や「二枚目の名刺」を始めた時。
個人のエンパワーメントというテーマに魅了され、同時に、本業とは別の組織で自分の得意が生きていく瞬間、あるいは誰かの役に立ったフィードバックがダイレクトに帰ってくる瞬間を楽しみ始めたことから、全てが繋がって来た気もする。
もっと言ってしまえば、その前、2009年頃にオックスフォード大学にて、自分なりにどう社会と関わっていくかと自問自答した日々が出発点であるような気もしてくる。
・・・どんどん、思い出が、さかのぼって蘇る。
会社が上場するという、言わば通過点でしかないタイミング。
単に会社の株式が市場で売買されるようになるというだけの節目。
そこで、なぜ銀行やファンドでがむしゃらに働いていた頃からのあらゆる思い出が断続的に蘇ってくるのか、不思議といえば不思議だ。
キャリアのひとつの集大成ということもあるのだろう。
ただ、もうちょっとその先にあるものというのかな・・・自分が世の中に対して成し遂げたかったこととか、こんな組織が作れたらいいなという思いとか、そういったこれまでの人生の上に成り立っている何か。
それが世の中に認められたという感覚が、そうさせているのかもしれない。
だから、嬉しいかと言われれば嬉しいのだけど、ヒャッホーと飛び上がりたい気持ちというよりは、空を見上げてじんわりと胸が熱くなるような喜びなのだ。
もちろん、まだ長い道のりの第1フェーズがやっと終わって第2フェーズに入るくらいのことであり、色々とこれから、ではある。
ほんと、ここからだ。
でも、僕らを信じてこれまで応援してくれた投資家の皆さんや、ココナラの立ち上げのために頑張ってくれたすべての仲間のことを思うと、これまでの活動が一旦世の中に認められたのだということが、素直に喜ばしい。
震災直後、前職を辞めてからちょうど10年。
まあ、長い期間ではあるよね。
さて、投資家の皆さんへの感謝は別途どこかで書きたいし、仲間への感謝は直接伝えるとして、ここで書くべきは、これまでココナラを支えてくれた、そしてココナラを大好きでいてくれる、ユーザーの皆さんへの感謝なんだろう。
ただ、その前にひとつ、最初の投資家であった佐々木さんと柴田さんには、改めてお礼を書いておきたい。
事業はこれからも続いていくけれど、立ち上げのために投資していただいたことについては、まさに上場で区切りになるので。
本当は、佐々木さんがご存命のうちに上場を果たしたかったと、その点においては心から悔しかったりするのだけど・・・。
最初の投資家のお二人に偶然の縁が重なりお会いしたのは、2011年の暮だった。
アイデアはあったもののコードも1行も書いておらず、プロダクトは影も形もない時期であり、また、創業者3人の貯金の底が見えてきた時期でもあった。
初対面だったし、どこまでココナラのアイデアを理解してもらえたのかはよくわからなかったけれど、「どうせ失敗すると思うけど、やってみたら?いくら欲しいの?」と、パワポだけの説明に対して、お二人で2,000万円の投資をその場で決めてくれた。
こんなことがあるのかと、心から驚いた。
色んな会社に投資されている感じでもなかったけれど、「バリュエーションも好きにしたらいい、君が勝手に決めてくれていいよ」という、まさにエンジェル投資家の名にふさわしいエンジェルっぷりだった。
その後、会えばニコニコしながら話を聞いてくれるものの、あれから一度たりとも「その後どう?」と向こうから連絡がくることはなかった。
本当に、ただただ見守ってくれていた。
彼らがいなければココナラはなかったし、僕も起業を諦めて、今頃どこかでサラリーマンをやっていたと思う。
2011年頃はそれくらい、初期投資家を見つけるのが難しい時期だった。
いまココナラがあるのは、過去の社員も含めてたくさんの関係者の尽力のおかげだけど、彼らお二人がいなければ、ココナラは影も形もなかった可能性が高い。
その意味で、本当に大切な功労者。
昨年ご逝去された佐々木さんに、上場のご報告を直接できなかったのは心から悔しい。
どこかで見ててくれているといいな。
僕も彼らから助けていただいたように、これからチャレンジしようとする起業家をサポートするのも、彼らへのひとつの恩返しなんだろうと思っている。
(2016年12月:佐々木さん宅を訪問時)
さて、最後に、ユーザーの皆さんへの感謝を。
ココナラを運営していて、何度も何度も大変なことがあったけれど、結局ここまで頑張ってこれたのは、ユーザーさんからたくさんの喜びのお声をいただけたからだと思う。
これまでココナラは数多くのユーザーイベントをやってきた。
その都度、ココナラがあったおかげで人生が変わったんだよという言葉を、出品者さんからも購入者さんからもたくさん頂いた。
おかげで、何度も何度も疲れが吹っ飛んで、頑張ってきてよかったと毎回活力が湧いた。
初期の頃なんて本当に使い勝手が悪かったのだと思うけれど、色々な意見をいただいて、それが改善されていくたびに喜んでくれて、この笑顔のために頑張っているんだなーと思えた。
そんな笑顔が、全国にたくさんあるのだと思うと、本当にいつも仕事をしていて楽しかった。
(2017年11月:オフィスでのユーザーイベント。オンラインイベントもよいけれど、直接話せる日が早く来るといいな・・・)
ココナラは、twitterでの投稿もココナラへのお問合せメッセージも全社員が目を通すような文化なので、皆さんの一喜一憂が手にとるように伝わってくる。
なんというか、一緒に新しい文化を作ってきた仲間のような感覚すら持っている。
ご迷惑をおかけしたユーザーさんもたくさんいるんだろうと思うけれど、いつかまた「すげー良くなったじゃん」と言ってもらいたいと頑張ってきた。
実際、数年ぶりに使って「見違えるようになった」というコメントをtwitterなんかでみかけると、心から嬉しくなるものだ。
今はまだ、出品者さんが誰かにココナラでの活動を伝えた際、「え?なにそのサイト?聞いたことない」と言われることも多いだろう。
同じように購入者さんが会社で稟議を上げるときに、「え?このサイト知らないんだけど」とか言われることもまだまだ多いんだと思う。
でも、今回の上場で、ひょっとすると「でもココナラって上場企業なんだよ」と言えることでちょっとだけ伝えやすくなったりするのかなーなんて思って、そんな場面を想像すると少しニヤニヤしてしまう。むふふ。
同時に、そういった皆さんの期待を裏切らないようにと、気持ちも新たに引き締まる。
もっともっと、あって当たり前のインフラのように、自然と皆さんの生活に溶け込むところまで持っていかないと。
ココナラを支えてくれたユーザーの皆さんに、ココナラを使うことを誇りとまで思っていただけるように、これからも頑張っていきたい。
さて、過去の思い出しついでに、前職で好きだった経営理念のひとつをあえて引用しておこう。
「我々は顧客に対し、常に尊敬の気持ちを有し、最大の付加価値を提供する。我々は、献身すべき真の顧客が誰であるか見誤らない。我々が受け取る報酬は、すべて顧客が支払って下さるものであり、我々は、業務時間内の各瞬間で各自が行っていることが、本当に顧客への付加価値提供に直結しているか、常に確認する。」
これまで、本当にありがとうございます。
これからも、ココナラをよろしくおねがいします!
2021年3月19日
株式会社ココナラ 代表取締役会長
南 章行