公立病院の役割

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コラム
公立病院改革ガイドラインが示されたのが2007年です。その後このガイドラインは大きく更新されていません。しかしながら、かつてのいろいろと問題のあった公立病院は、このガイドラインが出てからは、大きく変わって来ています。

かつての公立病院の状況は、記憶をたどると以下のようなことがありました。
 1) 人件費率が高く90%を超えているところが珍しく無かった。
 2) 入院している患者数が少なくて、地方では保有しているベッドの半分程
   度しか機能していない。
 3) 救急患者の受け入れをしない。
 4) CTやMRIの検査待ち日数が長くなっているのに改善されない。長く
   なることで診断が遅れ診療に支障を来している。
 5) 接遇などのサービスが民間病院と比べ大きく劣っている。
 6) 予算の決め方が前年度を基準とし、獲得した交付金が余ると次年度減ら
   されるので、使いもしない機器などを購入し、高額な機器が倉庫で眠っ
   ている。
 7) 病院の新築工事期間が長く、その間に部長クラスの人事異動があり、新
   しい部長が計画を変更し工事期間が伸びたり、それが原因で建築費用が
   大きく追加となっても問題にならない。

一部を羅列した感じですが、問題だらけだったと言えます。それがこの公立病院改革ガイドラインが出てから明らかに変わりました。このガイドラインの中では、➀公立病院改革の必要性 ②改革プランの策定 ③改革プランの実施状況の点検・評価・公表 ④必要な財政支援 などが示されました。特に数値目標まで示されたのですから、公立病院としても変わらざるを得なくなりました。

この対策のため、外部からコンサルタントなども導入しその改革に取り組んで行きました。その結果として私の所属していた事務長会でも以下のような事が話題となりました。
 ➀ 患者サービスとして、診療開始時間になると医師や看護師などのスタッ
   フが各受付などに並び、本日もよろしくお願いしますと挨拶する。
 ② 患者サービス改善と人件費比率の低下を目指した業務委託の拡大。
 ③ 救急患者の受け入れを積極的に行うようになった。
 ④ 入院患者の積極的な受入れを行い、入院患者数が増加している。
民間病院としては一つの脅威となって来た訳ですが、患者側の立場で考えると嬉しいことには違いありません。

しかしながら、これらの改革は上から求められた改革であり、公立病院自身が患者側の立場で考えてやっているのかという点では疑問があります。
先日交通事故で民間病院を利用していた知人が、専門的な治療が必要ということで公立の大学病院を紹介され、紹介状を持って受診に行ったのですが、交通事故は取り扱っていないと受診を断られたという事でした。

公立病院の役割としては、このガイドラインでは次のように記載されています。
 1. 山間へき地・離島など民間医療機関の立地が困難な過疎地等における一
   般医療の提供
 2. 救急・小児・周産期・災害・精神などの不採算・特殊部門に関わる医療
   の提供
 3. 県立がんセンター、県立循環器病センター等地域の民間医療機関では限
   界のある高度・先進医療の提供
 4. 研修の実施等を含む広域的な医師派遣の拠点としての機能

つまり民間病院では出来ない、不採算な医療や高度・先進医療の提供をすることが求められています。公立病院が取り扱う保険の違いにより求められた医療を提供しないというのは、基本的に間違った姿勢です。応需義務違反とも言えると思います。また経営効率を求められ、民間病院と患者獲得競争をするという病院も出てきています。民間病院は自分達の税金で運営されている公立病院と競争を強いられるというのはおかしい事です。役割分担や棲み分けを行い、地域住民が安心して医療の提供が受けることが出来ようにしないといけません。

改善されたと言っても、まだまだ課題がたくさんあります。行政から求められる数字だけを改善するのでなく、地域住民や現場で働く医療従事者の声にしっかり耳を傾けて病院改善に取り組んで欲しいと思っています。

先ほどの保険の問題もそうです。また、CTやMRI検査などの撮影待ち日数をモニタリングし、長くなれば短くする努力努力が必要です。ある病院では撮影待ち日数を短くしようと、業務時間外にも一時的に枠を作ったところ労働組合が反対して出来ないかった聞きます。私の知人でCTの検査待ちの間に静脈瘤破裂で亡くなった人がいます。この労働組合は何か考え違いをしているのでは無いかと思います。

また公立病院では、看護師が退職などで少なくなっても、年度の途中で正式採用し補充することをしません。採用しても嘱託です。そのため退職することを見越して、春に大量に採用し足りなくなっても次年度まで待つということが当たり前になっています。病院にはそぐわないやり方です。年初と年度末で大きく人の数が異なると、提供する医療の質も変わります。医療事故なども発生しやすくなります。もちろん人件費も掛かります。

公立病院改革が進められるのはいいことですし、必要なことだと思います。しかし患者不在であったり、改革で求められることだけを取り組むというのはおかしいことだと思います。
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