カルテ開示②積極的カルテ開示の必要性

記事
コラム
カルテ開示というと医療訴訟をイメージされる方が多いと思います。実は私もそのイメージが一番強いのが正直なところです。これは現状の運用が結果的にそうなってしまっているので仕方無いと思っています。

そんな一方で、平成15年に作成された「診療情報の提供等に関する指針」では、診療情報の提供を「患者等が疾病と診療内容を十分理解し、医療従事者と患者等が共同して疾病を克服するなど、医療従事者等と患者等とのより良い信頼関係を構築することを目的にするもの」と記載しています。これには、カルテ開示も診療情報の提供の一つと位置付けられています。

カルテ開示は独立した概念では無く、診療情報の提供の一つの形として捉えられています。またその指針の中では、「診療情報とは、診療の過程で、患者の身体状況、病状、治療等について、医療従事者が知り得た情報」と定義されています。

ここで一番大切な事は、「医療従事者と患者が共同して疾病の治療にあたり、信頼関係を構築する事」とされている点です。治療内容についての疑問に対し、法的な判断を行うような情報提供の有り方はむしろ本来の趣旨ではありません。医療機関も患者も、もっと積極的な意味で、カルテ開示を含めた診療情報の共有ということを意識する必要があります。

<診療情報共有の具体的なメリット>
1)患者は病気の事や診療内容をより具体的に理解することができるようになります
普段診療を受ける中で、皆さんはどの程度診療内容について理解されているでしょうか。いつも通院されている方の診察は医師から簡単な質問や説明を受け、投薬内容の確認で終わります。このやりとりは、当然口頭で行われ医師はカルテに記載しますが、患者側は頭の中に入れるだけです。そのため、患者自身が余り考える余裕もありません。ご家族から診察の結果を聞かれても、余り変化が無いとか、少し進んでいる、塩分を控えるように言われたとかで、プロセスが無く結果だけを聞かされる事になります。しかもどこまで正しいか分かりません。

「医療従事者と患者が共同して・・・」という事であれば、共同した経過「患者の訴え」「診察で分かった現在の患者の状態」「その症状の原因は何と思われるか」「そのためにどんな方法があるか」「今回はどんな方法で進めるのか」と言った事を共有して行く必要があります。その共有が出来れば、少なくても今の状況について医師がどう判断しているか、療養上気を付けないといけない事など、記憶ではなく事実として認識する事が出来ます。また、言い忘れた事、医師が言った事で分からない事、改めて疑問に思った事などが出てくるはずです。

そういう診療の中で、病気に対する理解が深まり、より患者に密着した診療になっていくと思います。

2)診療情報を関係者で共有出来ます
今は医療の連携も進んでいますが、それはまだ細切れの情報の共有だと思っています。患者を取り巻く状況という事では、病病・病診から始まり調剤薬局や訪問看護・介護事業所、介護施設、ケアマネージャーなど多くの事業者があります。これらの事業所が患者の状況を正しく認識出来てこそより適切な対応が出来る訳です。
ところがそれぞれの事業所は、自分の事業所の情報以外は必要な時にそれぞれに問い合わせるという 事をしていますが、多くは制度上(診療報酬上とか入所時等)しか出来ていません。また調剤薬局では、調剤するお薬は分かりますが、病名が分からないのでチェックや指導の内容も限定されたものになります。ご家族にしても、患者から診療内容を詳しく聞けるはずがありません。患者自身がよく分かっていないからです。食事の制限についても食事を作る方が理解してこそ、その工夫も出来るはずです。患者を取り巻く多くの人で診療情報を共有する事が必要です。

3)リスク対策
カルテ記載は、すべての医師が同じ記載の仕方をしている訳ではありません。POMRとかSOAPと言ったカルテ記載の手法もありますが、まだまだ医師の記載としては看護師ほど定着していません。医師法では、「医師は、診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない」と記載されているだけです。しかしながらカルテに必要な事がモレ無く、正確に記載されているかは極めて重要な事です。そして患者にその内容がモレ伝えられている事も重要です。リスク対策として少し具体例を上げてみます。

➀レントゲンを読影した医師の所見を主治医が見ていなかった
TVのニュース等で皆さんも見た事があると思いますが、こういった所見の見逃しも、患者にも読影などの診断結果をモレ無く説明すること、共有し見れるようにする事で、この手の見逃しは確実に減ります。今は医療機関の中でしか工夫されていません。

②部位の間違い
レントゲンや処置を反対側の部位に施行したというニュースも時々見ますが、これも必要な書類を患者と共有する事で減るはずです。私が不思議なのが、紹介状などが封をしたまま渡され、患者本人が中身を知らせない形で持って行く事です。写しを患者に渡しておけば、間違って記載されていた場合もチェックされるはずです。ところはまだまだそういう所が殆どないのが現状です。

③カルテに必要な記載がされているか
医療訴訟では、何がどこまで記載されているかで、有利不利が当然出て来ます。正しい判断が行われるように、可能な限り原因、理由、対策、その結果等がモレ無く正しく記載される事が求められます。正しい事をしていても、その事が記載されていなければ、正しい事をしていない事になります。

また以前こんな経験をしました。パワハラで会社に行けなくなり、精神科にも通院するようになったと相談を受けた事があります。相談を受け更に弁護士にも相談し、訴えを起こそうという事になりました。そのため、通院している精神科にカルテ開示を求めました。ところがカルテの内容を見てみると、その会社でどんな事があったとか、酷い事を言われたとかを医師に訴えていたのですが、カルテにはそんな記載は一切なく病状と投薬の内容しか記載されていませんでした。そのため、パワハラが原因で会社に行けなくなったという医学的な証明が出来なくなり、泣き寝入りという事になりました。労災や訴訟絡みでは患者側もカルテ記載に関心を持つ必要が特にあるかも知れません。

こういったリスクも診療情報を積極的に開示する事で、減らす事が出来るはずです。医師にとっても患者にとっても有益な事だと思います。

④カルテ記載が正確になり、充実し、より正しい診断や治療に結び付きます
上記➀~③のように多くのメリットが考えられます。更に患者に開示するとなると、見せる事を意識して記載しますので、自分だけが分かればいいという記載は出来なくなります。更により分かり易くするためにという事では、カルテ等の記載方法を統一することで、診断や治療のプロセスも統一化される事になりより正しい診断や治療が出来る事にも繋がります。

電子カルテも普及も進み、また診療内容明細書も義務付けられ、必要とする患者にはすべて発行されるようになっています。そこにその日の診療内容も追加する事はもう簡単な時代になりました。また、医療機関によっては進んで患者に提供しているところもあります。更にクラウド型の電子カルテを導入しているところも多く、お家でカルテを見れる環境も整いつつあります。

 カルテ開示、診療情報の共有が進む事を期待したいと思います。次回は診療情報の開示について書いてみたいと思います。
サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す