埋没原価と株式トレード

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マネー・副業
埋没原価とは埋没費用またはサンクコストとも言い、goo辞書によれば、「すでにある案に費用を支出したあとで他の案に変更したとき、その費用のうちもはや回収できなくなった部分。」のことを指します。

分かり易い例で例えるならば、ハコモノ行政で建設された赤字施設が挙げられます。これらの莫大な建設費用は埋没原価であり、今後の運営方針には一切の影響を与えません。「これだけ金を掛けたのだから」という考えは意味がない、ということです。

結局、今後の維持管理費が、どんなに合理化しても赤字であるならば、その施設は存在するだけで税金を浪費していくお荷物です。そこには「閉鎖するのはもったいない」という考え方は、本来入り込む余地はありません。

ただし、これは「設立時の目的に沿って」という条件で考えた場合です。例えば、巨大な保養施設をリゾートマンションに改装して民間に分譲する、などという場合は、異なった会計処理が必要となるでしょう。

もちろん、経済を度外視してでも明確な存在意義があるならば、それもまた別に考える必要があります。

さて、株式トレードにおいて、損失の発生は避けて通ることのできないものです。例えば、ある株式を購入した後に株価が下落した場合、どうしたらよいでしょうか。

この時、株式の購入に要した費用はすでに支払われており、今さらどうすることもできません。すなわち、これは埋没原価と捉えることができます。

現在の収支は、株価の値下がりにより赤字になっているとします。しかも、株価は地を這っており、完全に塩漬け状態となっています。すなわち、近い将来において収支がプラスになる可能性はほとんどありません。

この状態で、他の銘柄を購入したところ、そちらは順調に利益を伸ばしています。この利益の出ている銘柄の今後の処置について、どのように考えるべきでしょうか。

A:塩漬け株の損失とセットで考え、トータルでの黒字化を目指す。
B:あくまでも利益が出ている銘柄のみで考える。

分散投資という考え方を尊重する人は、Aの案を採るかもしれません。ポートフォリオ全体での損益を重視し、損失が出ている銘柄があっても、それ以上に利益が出ている銘柄があれば、全体として利益が出ているため良しとするわけです。

もちろん、定期的な見直しは必須でしょうが、売買戦略は常にポートフォリオ全体で判断することになります。すなわち、塩漬け株の値動きにも、常に注意を払っていることになります。

なお、年末になると、あちこちのブログや掲示板で損益通算の話題が出てきます。株式譲渡益税を少しでも減らすため、評価損が出ている株式と評価益が出ている株式とをセットで返済し、実現利益を少なくする手法です。

これは、その年度における節税にはなるかもしれませんが、株式を相続対象にせずに、いつかは全て換金売りするのであれば、最終的な課税額はほとんど変わらないように思われます。

もっとも、税金の支払いを後回しにすることで浮いたお金を再投資に回し、複利効果を高めるという考え方もあるでしょう。結局どの方法が得なのかは、各人の投資スタイルに依存するということかもしれません。

一方、埋没原価という考え方を尊重する人ならば、Bの案を採ることになるでしょう。塩漬け銘柄は埋没原価であり、今後の利益を考える上では必要ないわけです。

もちろん、塩漬け銘柄も多少の値動きはあるでしょう。しかし、売却するという前提に立たない限り、評価損の変化に一喜一憂しても意味がないのです。

あくまで、利益が出ていて売るタイミングを計っている銘柄のみで考えればよいわけです。すなわち、その銘柄の利益が塩漬け銘柄の評価損額に遠く及ばないとしても、その銘柄を購入した時点のシナリオから外れたと思ったら、売るべきなのです。

そもそも、銘柄毎にシナリオを設定して、そのシナリオに従って売買の判断をしていれば、塩漬け株など生じるはずがないでしょう。塩漬け株が生じる理由の一つとして、過剰なポートフォリオ信仰があるのかもしれません。

ところで、以上の議論では、塩漬け株を埋没原価として扱ってきましたが、塩漬け株は埋没原価ではないという考え方もあるでしょう。

埋没原価は通常、新たな利益に関与しない部分を指すわけですが、塩漬け株だっていつかは利益が出る可能性がある限り、埋没原価とは成り得ないというものです。

これは、自分の投資スタイルと照らし合わせて考えるといいでしょう。

自分が長期投資家ならば、確かに埋没原価の敷居は高くなります。しかし、普段は短期トレードを中心に行なっているにも係わらず、たまたま売り損ねて塩漬けになった株を保有している場合は、これを埋没原価と見なす方が理に適っていると考えます。

なお、塩漬け株を、例えば100万円で買った株と捉えるのではなく、100単位の株券と捉えると、また違った考え方になります。

100単位の株券は、株式分割でも行なわれない限り、いつまで経っても100単位の株券です。すなわち、この株券を使って日銀券を買い(すなわち株券を売り)、日銀券の価値が高まったところで日銀券を売れば(すなわち株券を買戻せば)、差額分の日銀券が手に入ります。

すなわち、この100単位の株券は、いつでも日銀券を入手できる可能性がある原価ということになり、埋没原価ではなくなるわけです。
これは、かなり以前から証券アドバイザーの若井武氏が提唱する、現物繋売という手法です。

以上のように、一口に埋没原価といっても、置かれた状況や考え方によって、その対象は様々であり、一意的に決定できるものではありません。
ただ、常にこの埋没原価という考え方を意識することにより、株式トレードにおいてより合理的な判断が可能になるのではないかと考えます。 

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