「次郎、明日は正月だからね。早く寝なさい」
次郎が、風呂から上がると、母親は、そう言って次郎を寝床に追いやった。渋々、次郎が布団の中に入り横になると、除夜の鐘が鳴り始めた。
「一つ、二つ、三つ……」
次郎は目を閉じて、鐘の音を数え始めた。だが、なかなか、眠れない。そうして、とうとう、百八つまで、数えていた。
ゴーン。
「あれ」
次郎は、驚いて目を開けた。次郎は、ちょっと不思議な気がしたが、また、目を閉じて、鐘の音を数え続けた。
…二百…三百…四百…五百…。
…二千…三千…四千…五千…。
どれだけ、時間が経ったのだろう。
鐘の音は、九千百八十で、鳴り止んだ。
ふと、次郎は目を開いた。
なぜか、体が重くなっているような気がした。暗闇ながら、寝床の様子も何か違う。
襖の向こうから、知らない男と女の声が聞こえてきた。
「この除夜の鐘が、親父にとっては最後だな。あと三ヶ月って、医者から言われているからな」
「シィ。あなた、お父さんに聞こえるわよ」
次郎は、言い様の無い寂しさを感じたが、また目を閉じた。
完
《蛇足》
以前、ネット上で公開していた拙作オンライン小説です。