夢は夢のままが幸せな場合もある?

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コラム
今回は夢や願望について、名著の引用を参考にしながら「実は叶えたくない」という心理的な視点からお伝えします。 

これは、夢や目標を抱いたのに、それに対して積極的に行動しない場合、実は「隠れた本当の思いがある」と考えられるからです。 

一つ目は、ベストセラーとなった著:岸見一郎の「嫌われる勇気」という著書からお伝えします。
これはアドラー心理学について、とてもわかりやすく伝えてくれる名著です。 

内容は、主人公である「哲人と青年」の対話がメインとなっています。 
哲人はアドラー心理学をベースとした主張を持ち、青年はそれに反論するという構図です。 

その中で「願望実現」というテーマに関して「なるほど」と思わされた部分があったので、それを紹介します。 


以下、引用
哲人:私の若い友人に「小説家」になることを夢見ながら、なかなか作品を書き上げられない人がいます。 
彼によると、仕事が忙しくて小説を書く時間もままならない、だから書き上げられないし、賞の応募に至らないのだそうです。

しかし果たしてそうでしょうか?

実際のところは、応募しないことによって「やればできる」という可能性を残しておきたいのです。
人の評価にさらされたくないし、ましてや駄作を書き上げて落選するという現実に直面したくない。 
時間さえあればできる、環境さえと整えば書ける、自分にはその才能があるのだ、という可能性の中に生きていたいのです。 

おそらく彼はあと5年10年もすれば「もう若くないから」とか「家庭もできたから」と別の言い訳を使い始めるでしょう。 

青年:彼の気持ち、わたしには痛いほどよくわかりますよ。 

哲人:賞に応募して、落選するならすればいいのです。そうすればもっと成長出来るかもしれないし、あるいは別の道に進むべきだと理解するかもしれない。 
いずれにせよ、前に進むことができます。
今のライフスタイルを変えるとはそういうことです。 
応募しないままでは、どこにも進めません。 

青年:夢は砕け散るかもしれませんね。 

哲人:でもどうでしょう。シンプルな課題、やるべきことを前にしながら「やれない理由」をあれこれとひねり出し続けるのは、苦しい生き方だと思いませんか? 
小説家を夢見る彼の場合、まさしく「わたし」(自分)が人生を複雑にし、幸福に生きることを困難にしているわけです。 

青年:厳しい。先生の哲学はあまりにも厳しい! 

哲人:たしかに劇薬かもしれません。 
ここまで引用
******* 

どうでしょうか?この対話から何を感じるでしょうか? 

私は、自分にもそういった「夢のままにしておく、保留にする」という側面があることに気が付きました。 

例えば「片思いのままでいい」とか、「いつかはお金持ちになる」とか、「世界中を旅したい」といった「いつか、きっと」という夢の保留状態をいつの間にか選択していることに気が付いたのです。

そしてアドラー心理学は、自分の目指すライフスタイルに対して「過去は一切関係ない、目標に対してどうあるべきか?」を問いています。 

つまり自分が「どう在りたいか?」が今の生き方を現しているということです。 

これは原因論ではなく、目的論になります。 

もし夢や目標を持ったのなら、どんな記憶や背景も関係なく、行動して体験することを推奨しているのです。 

これこそが「嫌われる勇気」ということです。
これは「ライフスタイルを変える・選び直す」とも表現されています。 

過去は影響しないし、いつでも新しい生活を選べる、と言っているのです。

たしかに哲人の言うことはわかります。
それができれば、誰もが行動して成果を手にするはずです。 

でも私達は青年のような感覚も持っています。 
傷つきたくない、厳しいよそれは」という感覚です。 

つまり行動せずに、夢を夢のままで持ち続けることも「必要だ」と、心のどこかで思っているのです。 

壊されたくない、現実を見たくない、玉砕したくない。 

このような不安や恐れがあると、たしかに動けなくなります。 

また発明王エジソンの有名な言葉でも、成功しない実験を繰り替えすことについて「失敗はない、9999回の経験をしただけだ」といった名言があります。 

たしかに成功に至る過程の経験は、すべてが必要なものだし、それを失敗とするかどうかは自分自身の判断です。 

これはエジソンのメンタルが強いのではなく、捉え方がそうだというだけです。
失敗を経験と捉えることができれば、必要以上に恐れることもありませんから。

でも私達は失敗したくない、損をしたくない、という恐れを強く持っています。
これは別の言葉でいうと、「変わりたくない」とも言えます。



さて、似たような話がもう一つあるので紹介します。 

こちらは、著パウロ・コエーリョの世界的なベストセラー「アルケミスト 夢を旅した少年」という名著からの引用です。

主人公の羊飼いの少年が、ある時に宝物が手に入る夢を見て、それを叶えるためにピラミッドを目指して旅をするという物語です。

そしてその中で、夢を持つ、それを叶える、または叶えないということについて、考えさせられる場面が出てきます。

場面は、ピラミッドを目指す旅の前半で、スリにあって全財産を失った少年が、生きるためにクリスタルグラスを扱う店で雇ってもらい、そこの店主との会話になります。 



以下、引用 
店主:二日前、おまえさんは、わしが旅することを夢見たことがないと言ったね。
回教徒の第五の義務は巡礼だよ。少なくとも一生に一度、聖なる都市メッカを訪れなくてはならないのだ。
メッカはピラミッドよりずっと遠いところにある。わしが若かった頃、わしの望みのすべては、お金をためて店を始めることだった。

いつか自分が金持ちになれば、メッカに行けると思っていた。
わしはお金を貯め始めた。
しかしわしは、他人に店を任せて出かけることが、どうしてもできなかった。クリスタルはとても壊れやすいものだからだ。

その間、人々はいつもわしの店の前を、メッカに向かって通り過ぎていった。
ある者は金持ちの巡礼者で、召使いとラクダを連れて旅をしていた。

しかし巡礼者のほとんどは、わしよりも貧乏人だったよ。

メッカに行ってきた連中は、巡礼ができて幸せそうだった。
彼らは自分の家の門のところに、巡礼に行ったしるしをつけるのだ。 

その中の一人で、長靴を修理して生計をたてている靴直しは、ほとんど一年掛けて砂漠を旅したが、買った皮をかついてタンジェの通りを歩くほうが、よっぽど疲れると言っていたよ。

少年:ではどうして今、メッカに行かないのですか?

店主:メッカのことを思うことが、わしを生きながらえさせてくれるからさ。そのおかげでわしは、まったく同じ毎日をくり返していられるのだよ。

棚に並ぶ物言わぬクリスタル、そして毎日あの同じひどいカフェでの昼食と夕食。
もしわしの夢が実現してしまったら、これから生きてゆく理由がなくなってしまうのではないかと怖いんだよ。

おまえさんも羊とピラミッドのことを夢見ているね。
でもおまえはわしとは違うんだ。

なぜなら、おまえさんは「夢を実現しようと思っている」からね。

わしはただ、メッカのことを夢見ていたいだけなのだ。

わしはな、砂漠を横切ってあの聖なる石の広場に着いて、その石に触る前に七回もその周りをぐるぐると回る様子を、もう千回も想像したよ。
わしのそばにいる人や前にいる人、その人たちと一緒に語り合い、祈る様子も想像した。

でも実現したら、それが自分をがっかりさせるんじゃないかと心配なんだ。
だからわしは夢を見ている方がすきなのさ。

~この会話の後、少年はクリスタルの販売方法を、より効率的にすることを店主に提案する。その理由は、少年が旅を再開するために、一刻も早く資金を稼ぎたいからであった。~

店主:わしはな、この店を30年間やってきた。クリスタルに関することは全部知っている。もしクリスタルに入れてお茶を売れば店は大きくなるだろう。
そうすると、わしは自分の生活の仕方を変えなくてはならなくなる。

少年:でもそれは良いことではありませんか? 

店主:わしは今の生活にもう慣れきっている。
おまえさんがここに来る前は、わしは同じ場所で時間を無駄にしているのではないかと、いつも思っていた。

一方、わしの友達はここから移って行って、ある者は破産し、ある者はずっと暮らし向きが良くなった。
わしは時間を無駄にしたと思って、とても落ち込んだものだった。

でも今は、それもそう悪いことじゃあなかったと思えるようになったのだ。
今の店は、わしが欲しいと思っていたちょうどその大きさだ。
わしは何も変えたくない。
どうやって変化に対応したらいいかわからないからだ。

わしは今のやり方に慣れているのだ。

~少年はなんと言ってよいかわからなかった。~ 

店主:おまえさんは、わしにとって本当に恵みだった。今まで見えなかったものが、今はわかるようになった。
恵みを無視すると、それが災いになるということだ。
わしは人生にこれ以上、何も望んでいない。

しかし、おまえはわしに今まで知らなかった富と世界を見せてくれた。

今、それが見えるようになり、しかも自分の限りない可能性に気が付いてしまった。
そしておまえが来る前よりも、わしはだんだんと不幸になってゆくような気がする。

なぜなら、自分はもっとできるとわかっているのに、わたしにはそれをやる気がないからだ。
以上、引用
*******

この店主の気持ち、わからなくもないです。 
私も夢や願望を語る人に「どうしてやらないのか?」と疑問を持つことが度々ありました。

たしかに私達は、少年のように夢を持ったらそれを実行に移すという生き方を選べます。

ですが、ある程度生き方が決まって安定してくると、今度はそれを「変えたくない」と感じるようになるのです。

でも何かを手にするためには、何かを手放す必要があります。

クリスタルの店主の場合は、本当にメッカに行きたいのなら、何かを手放さなくてはなりません。

それは何でしょうか? 
また手放した先に待っている「現実」を恐れていては、行動することもできません。

店主は夢を追うことと現実の変化を天秤にかけて、失うものに注目しているかもしれません。

このような不安や恐れといった「幻想」に、私達は支配されてはいないでしょうか? 
実はこの主人公の少年も、最初は羊飼いという生活に満足し、変化を求めてはいませんでした。

でも夢を持ってしまったことで、それを手に入れるためには変わらざるを得なかったのです。


今回は以上になります。

哲人の話、自分にそう言われたら残酷な印象も受けるかもしれません。
「傷つきたくないから保留にしてるんだろ」と。

もし、夢を旅する少年から、なぜあなたは夢に向かわないのか?と問われると答えられないかもしれません。

でも、もしかすると、その中にこそ自分の本当の思いが隠されているのかもしれないのです。
つまり本当は小説家になりたいのではなく、小説家を夢見るライフスタイルを送ることが目的だったという可能性はあります。

また夢や目標を口にすることで、今の自分を正当化したかったのかもしれません。
私の人生は空虚ではない、夢や目標を持っている、と。

自分の夢や目標を見つけて、それを引き留めるようなイメージが湧いたら、自分の中にある「本当の想い」を知ることができるかもしれません。

変わりたいのか?
それとも変わりたくないのか?

それでは最後まで読んでいただきありがとうございました。

引き続き、願望実現や生き方について、お届けしてまいります。 

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