癌のターミナルケア1(余命宣告)

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コラム
現実的なことが書いてあるので、受け入れられない人は読まないで下さいね。














私は元々酒は1杯位しか飲めないのだが、視野を広げようと居酒屋に通い始めた。
私より年上のママさんが一人でやっている、8人しか座れないカウンターのみの居酒屋だ。
「この店だったら、女一人で行っても大丈夫だよ」と友達に連れて行ってもらった店だった。
その後一人でも時々行くようになり、常連さんとも顔見知りになり色んな人と話をするようになった。

いつも一人で寡黙に飲んでいる、私より少し年上の男が居た。
たまたま隣あったので、話しかけてみた。
ママからは奥さんが病気で大変らしいのよ・・と言うことは聞いていたが立ち入るようなことを聞くわけでもなく、私も祖母の介護をしていたんだよ。とだけ言うと、ぽつぽつと男は話し始めた。

奥さんが入院していて、毎日奥さんから呼び出されて病院に通っている、薬も男が飲ませないと飲んでくれない、仕事(自営業)があるのに身動きが取れないという内容だった。
介護と仕事の板ばさみはは大変だからね・・と私の経験上の当たり障りの無い返事をしていたが、店が0時で終わると「話を聞いてもらえますか?」と別の店に誘われ同行した。

チェーン店のBOX席だったので、知り合いに話を聞かれることも、顔を合わせることも無い。そこで男は本当の悩みを話し始めた。

一昨年の秋からコンコンと咳をしはじめ急に痩せたから、病院に行ったほうが良いよと言ってたが行くこともせず、仕事が空いた去年1月に無理やり連れて行ったら肺がんの脳転移・骨転移で余命は6ヶ月だと告知された。
男は月単位で全国出張の多い仕事なので、去年急に痩せた時に、無理にでも一緒に行ってあげれば良かったと悔いていた。

すでに医師からはホスピスを探すか、ターミナルケアを自宅行うか決めて病院を出て行って欲しいと言われているが、受け入れ先を探しているが見つからない、動けない奥さんを自宅に一人で置いて仕事に行けない、入院していてくれれば安心だけど、毎日のように奥さんから電話があり病院に行っている、と仕事が出来ないと現状を訴えてきた。
話が混乱していたので、まずは状況判断が付くように順を追って説明してくれる?と言ったら、男はその事に気がつき順を追って話を始めた。

去年1月に告知された後、ホスピス・ターミナルケアを勧められたが、何故治療してくれないと医師に食ってて掛かったら、抗がん剤を2クールしてくれた。その後医師は転勤になり違う医師が担当になり、何故こんなに強い抗がん剤を使ったのか?と聞かれ前担当医師に怒りを覚えていたこと、現担当医師からは退院を促され、自分で八方塞になっていることなどを話し始めた。

※クール 抗がん剤による治療は、薬の種類によって変わりますが点滴を1~4週間に1回、三日間連続などの方法で投与した後、一時中断します。投薬から中断期間合わせて1ヶ月を1クールと言う単位でくくり治療します。

私は静かに話し始めた。
病院と言うところは治療をするところであって、治らない病気に関しては治療を中断する事が殆どだから、前医師の勧めは正しい事なんだよと。
男は少しでも治る見込みがあるのなら、治療をするのが病院でしょうと怒りを露にした。

医師は色んな症例を見ているから、病気の進み具合でどの治療が最善か、中断するのが最善かを判断してるんだよ。
抗がん剤は身体にすごく負担のかかる治療だから、少しでも体力を温存しておいて、QOLを保つほうが良いと判断したんじゃないの?と言うと、俺が治療してくれと言ったのはいけないことなのか?と聞き返されたので、それは誰でも思うことなので、いけないことではないよ。愛する人に生きていてもらいたいと思うのは当然の事なのだから。と答えた。
じゃ、なんで俺を責めるような言うんだ?と男は怪訝そうな顔をして言った。

※QOL Quality of Life 残りの人生を患者が自分らしく納得のいく生活の質の維持を目指して生きる事。(症状や治療の副作用などによって治療前と同じようには生活できなくなる場合に選択する)

はっきり言うよ。と断った後、通常骨に転移した場合は助からない。医師はその事を分かっているから、奥さんの年齢(男より12歳上で、男はお母さんと呼んでいた)を考えて、少しでも苦しみを減らし、体力を温存しながら生きて欲しいと思ったんじゃないの?と答えた。

男は驚き「骨に転移した場合は助からないの?」と聞きなおした。
放射線治療などもあるけど、進行を押さえる事はできても治る事はないよ。先生はその苦しみを、奥さんに与えたくなかったんじゃないの?抗がん剤にしても放射線にしても正常な細胞にダメージを与える治療である以上、年齢や体力を考慮するのも一つの判断になるんじゃないの?と答えた。

「助からないなんて医師が言ってない、知らなかった」と男は訴えた。
医師だって人だから、言いづらい事もあるでしょ。だから余命と言う形で言うんじゃないの?とだけ答えた。
男は黙ってしまったので、言葉を続けた。
通常病気になり治療をすれば、誰でも治ると思うのは当然の事だけど、癌に限っては、この治療をすればどういう副作用が出て苦しむか、この治療しても効かないかもしれない等、人によってかなり治療結果に違いがでるから、患者の年齢と体力とを勘案して先生が相対的に判断してホスピスかターミナルケアを勧めたんじゃないの?と。

男はハッとした顔をして「治療をしてくれと言ったのは、俺のエゴだったのか」と言った。
「エゴではないよ。知らなければ誰でも治療をすれば治ると思うのは当然なんだから。自分を責める必要はないんだよ」とだけ答えた。
苦悶してた顔は我を取り戻し、自分の望んだ事が最愛の人を余計に苦しませてしまった事、前医師を逆恨みしてしまった事等、恥じるように話し始めた。
男が一通り話した後、「誰も悪くはない、その人その人の思いや判断が上手くかみ合わなかっただけだから。今は奥さんにとって最善の方法を考えれば良い事なんだから」とだけ答えた。

男は我を取り戻し、先を見られるようになった。
「何がお母さんにとって最善なのか、今度一緒に考えてください」と言った。
そして、チェーン店を後にした。

家族が余命宣告された、顔見知りの人へのアドバイスを掲載しました。

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