本のタイトルは、「脳を知る・創る・守る2」(「脳の世紀」推進会議編 伊藤正男、養老孟司、小田稔 他)です。編集:「脳の世紀」推進会議、発行者:松田國博、発行所:株式会社クバプロ、定価2000円+税。
それでは、脳の世紀シンポジウム講演収録集2について簡単に紹介いたします。
講演収録集2は、「脳の世紀」推進会議の主催により開催された第3回および第4回「脳の世紀」シンポジウムでの講演を収録したものです。第3回シンポジウムは1995年9月13日に、第4回シンポジウムは1996年10月2日に東京の国立教育会館・虎ノ門ホールにて開催されました。
第3回シンポジウムの故伊藤正男先生のはじめの言葉(思い)を紹介します。
「脳の世紀」という言葉には、21世紀は脳の世紀だという私どもの強い想いが表現されています。現在、いろいろな学問分野が興隆してきています。生命科学とかライフサイエンスと呼ばれる分野が今世紀後半急速に発展し、次の世紀にも大いに栄えると思われます。そのなかでも特に、生物の機能の最高峰に属する高度な構造でもある脳を解析することは、学問的にも社会的にも非常に重要です。それを推進することが、「脳の世紀」推進会議の大きな旗印です。・・・・・「脳の世紀」推進会議では、産・官・政の各方面にわたる方々のご参加をお願いして、脳の研究内容はもちろん、その重要性、将来の社会に対するインパクト、世界人類にかかわる重要性などについて、ご理解してもらうことを目指しています。
わが国の研究体制について考察してみると、まだまだ弱点がたくさんみられます。特に、脳研究のような境界領域、いわゆる物理学、化学、生物学などの古典的に確立した学問分野を貫通する新しい新興領域に対するわが国の学術体制上の対応は非常に悪く、遅い点が心配されます。特に、情報科学、環境科学や生命科学分野での立ち後れが目立ちます。ご存知のとおり、米国では 1990年に、今世紀の最後の10年を脳の時代として格段の推進を図ろうという上院決議が行われましたが、わが国ではそのような大きな運動を興すことがなかなかできずにいました。そこで、私ども「脳の世紀」推進会議では、5年ほど遅れましたが、10年ではなく、次の世紀を視野にいれ、大いに脳研究の推進を図りたいと考えております。「脳の世紀」推進会議議長 伊藤正男
脳を知る・創る・守る2の目次
はじめに
Ⅰ章 特別講演
1 脳と社会 養老孟司
2 宇宙から脳へ 小田稔
Ⅱ章 脳を知る
1 神経細胞の形づくりと物質輸送の機構について 廣川信隆
2 脳発達と学習 津本忠治
3 脳と運動 丹治順
Ⅲ章 脳を創る
1 ロボットとニューラルネット 浅川和雄
2 脳型コンピュータ開発と心の理解 松本元
3 脳とカオス 合原一幸
4 神経回路網モデルによる気象予測
-学習コンピュータの研究開発 曽根原 登
Ⅳ章 脳を守る
1 アルツハイマー病 -研究の現段階 井原 康夫
2 ミトコンドリア脳筋症 埜中 征哉
3 脳血管障害の医学 柳原 武彦
4 免疫性神経疾患の医学 田平 武
Ⅴ章 パネル討論 脳の世紀を迎えるにあたって
以上です。
この当時、伊藤正男先生から伺ったことは、日本神経科学学会の会員は5000人程度であるが、米国神経科学学会の会員数は3万人ぐらいであり、学会大会も規模も大きな差があるということでした。
一時期、脳研究に政府の研究費支援がありましたが、最近は大分削減されました。脳研究にもっと戦略的な支援を継続的にしてほしいものです。