高津から放たれた言葉は……なお話:助けた相手はご令嬢ep16+【朗読動画】

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youtubeにて「語り部朗読BAR」というチャンネルを運営しております。
自身で小説を書き、声優さんに朗読していただいたものに動画編集をして公開しております。

今回ご紹介の朗読動画は、「助け相手はご令嬢ep1」2018年エブリスタ大賞優秀賞受賞作品のエピソード16、高津から放たれた言葉は……なお話です。
良かったら聴いていただけると嬉しいです。

・朗読動画もご用意しております。
・文字をお読みになりたい方は、動画の下に小説(文字)がございます。
◉連続小説ドラマ
 助けた相手は御令嬢

作者 北条むつき
朗読 悠奈ゆかり

第16話 後悔しますよ (百合《ゆり》編)

「いいのか? そんな事をして。後悔するのは君だけじゃないんだぞ!」

 ホテルのロビー。高津の声がこだまする。
 私は契約書を握り締め、このロビーからの出口を探した。
視線は、家族らしき人たちが和気藹々と入ってくる方へと向けられた。
 そこが出口だとすぐにわかり足取りは一段と早くなる。

 また高津の声が響く。それに混じって数名の呼びとめる声もだ。父の声も混ざっていたような気もするが、気のせいと言い聞かせ、走ることを止めなかった。
 もう少しで、玄関口だ。

 どうしてこんな行動に出たのか。いや、こんな行動が出来たのか。
 自分自身に驚いていた。

 父の制裁を受けた後、平静を装い会場に戻った。
 父の挨拶はすでに済んでいて、会場は歓談ムードになっていた。

「どこにいたの? お父様の挨拶も聞かずに」

 母の問いかけに、無言で頷き、席に着いた。
 蓮は関係ない顔をして、ジュースを飲んでいる。
 家族で話している最中、何人もの関係者達が、お祝いに来た。それが途切れた頃、再び父が高津を連れてやってきた。

「いかがですか? お昼からのお酒もそれなりに楽しんで貰えてますか?」
「まあ、一応」

 あからさまに不愉快に返す。

「百合。その言い方は、何だ」

 父の言葉を高津は手を掲げ制し、私を諭すように話し出した。

「百合さん、先程はすまなかったね。私も言い方が悪かった。だがこれは君のためでもある。私と一緒になれば、何も困ることはない。それに、ご両親だって安心させたいだろう?」

 返す言葉が見つからない。素直な言葉は、この場を壊してしまうだろう。
 私が躊躇していると、父が空気を察したのか、その場を和ませるような会話をしはじめた。
 数分後父は、私に席を立つよう促す。
 そして高津に誘われるがまま、2人きりになる。

 再度、ウインドウ越しの乾杯をした。
 2人きりになった高津は饒舌になり、私の心には何も響かない言葉を繰り返した。

「百合さん、僕と君は今日ここで会うことが約束されていたんだよ。君と僕は出会う運命だったんだ」
「……」
「今日は今までの君の誕生日の中で、1番記憶に残る誕生日になる」
「どこでそれをお知りになったのですか?」

 感情を隠しながら、端的に聞きなおす私の言葉を、聞こうともせず高津は続ける。

「何も不自由をしない生活と何も心配いらない家庭を約束しよう」

 和やかに笑う高津がいる。真逆の感情を持つ私がいた。
 出会うためとか、運命とかは、好きなもの同士が使う言葉。私の気持ちを何も考えずに、そういう話を躊躇せずに使う高津に、嫌悪感しか覚えなかった。

 十八時。アナウンスが流れた。調印式の挨拶らしい。高津が壇上に上がる。そして、話し始めた。

「調印式の前に、皆様にお伝えしたいことが、あります。」
 ざわつく会場。

「本日は、合同調印に立ち会って下さる、三隅様の長女、百合様の誕生日です。皆様、拍手をお願いします。」

 拍手の中、嫌がる私の背中を母が押す。仕方なく、壇上に上がる。
 握手を求められ、スタッフが持ってきた花束を高津が受け取り、私に渡す。

「おめでとうございます。そして、もう一つお話があります。」

「私、高津と三隅百合様とは、本日、婚約いたします」
「な……」
 驚く私に、ウインクで返す高津。
 私の中で何かがはじけた。
 高津が持っていた契約書を奪い取り、マイクに向かった。

「そんなことは何も聞いておりません。皆様。これは不正調印です。父はこんな調印、望んではおりません。もちろん私もです」
 言い終わると私は、契約書を持ったまま走り出した。
 ざわめく会場に壇上からの高津の声がする。

「そんな事していいのか。君は後悔することになるぞ!」

 響いている高津の声を無視して、会場から出る。
 私を止めようとしている高津の声が、余計に私を急がせた。
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