おはようございます。こんにちは。こんばんは。ブログを閲覧いただきありがとうございます。
youtubeにて「語り部朗読BAR」というチャンネルを運営しております。
自身で小説を書き、声優さんに朗読していただいたものに動画編集をして公開しております。
今回ご紹介の朗読動画は、「助け相手はご令嬢ep1」2018年エブリスタ大賞優秀賞受賞作品のエピソード5、居なくなった三隅百合のことを考えてしまう主人公恭吾の心の内側のお話です。
良かったら聴いていただけると嬉しいです。
・朗読動画もご用意しております。
・文字をお読みになりたい方は、動画の下に小説(文字)がございます。
◉連続小説ドラマ
助けた相手は御令嬢
作者 北条むつき
朗読 悠奈ゆかり
第5話 独り言
仕事終わりの店長室で朝方もらったメモを見ていた。メモには三隅百合《みすみゆり》と名前と携帯番号が書かれてあった。
朝方そのメモをもらった時に、菊池さんに見つかり「連絡待ってるんですね? ちゃんと連絡してあげてください?」と窘められた。しかし俺は迷っていた。
人生に於いて彼女がいなかった訳ではない。高校時代も確実に付き合ったと言えるのかわからないが彼女らしき人物はいた。
そして就職して二十代前半には一年半付き合った彼女もいた。それなりに、人並みに恋は経験して来たはずだ。数は少ないけど……。
だが、今回は全くの別物。単なる偶然、出会い頭の事故と言ってもいいぐらいのもの。ただそれが本当に恋に繋がるかと言うと疑問符が付く。
全くのタイプではないとは言えない。むしろ美人は好きだし、どちらかといえば面食いな方だ。
だがしかしだ。出会い頭の事故で知り合った男女がうまくいくとは思えない。しかもまだ知り合ってまともに話もしていない。
これが出会いと言うべきものだろうとも思ったが、心が少し躊躇していた。好きと言えるのであれば俺もガツガツと彼女のことを知りたいと思える。
だが今回は違うのだ。メモをもらったが連絡をつけようかと迷い、ただずっとメモを見ていた。
「お疲れ様」
そこに現れたのは、同年代の長谷部さんだ。おもむろにこのメモに気づき声をかけてくる。そして「この間の噂の彼女のメモですか?」と端的に言う。軽く頷くとまだ彼女じゃないんですねと一言放った。
「私はてっきりもう付き合ってるのかと思ってましたけど?」
「えっ? そんなんちゃうよ」
「ふーん、じゃあ何で助けんですか?」
「えっ?」
「きっと彼女もそう思ってるはずだと思いますけど?」
「そうなの?」
「あれ? 副店長って女心わかってないですよね? 普通なら助けてもらってその場でお礼を言って終わり、だと思うけど、今回は違ってます」
「う……ん」
「じゃあ、どう言う事かお分かりでしょう?」
「……」
「まっ、私には関係ないですけど、どうなろうとね。アハハハハ! もう何年も彼女いてないんだし、ってかね。鶴見さん? 幾つなのよぉ! 私と同じ歳でしょう? 子供だなぁ? あぁ嫌だ嫌だ」
手を嫌そうに振りながら長谷部さんは帳簿を置いて店長室を出て行った。
俺も店長室を後にしてカバンを持ち家路につく。京阪四条駅に向かうために高島屋前の交差点で信号待ちをしていた。思い出すのは、朝の彼女の言葉だ。
「私が何故追われてたか気にならない?」
そうだ。何故追われていたかだ。助けた後も何も聞かずに
「いいよ別に、たいした事してないし」
などとちょっと格好をつけてみたものの、少し気にかかる。
そもそも京都の人間がなぜ神戸で追われていたのか。ただのナンパからの逃げならばあそこまではならないはず。
「しっくりこないなぁ」
モントロンダのご令嬢ともあろう女性が一人で、スーツの男二人に追われていた。腑に落ちない。何かが隠されている。
「そうやわ……それ」
俺は信号待ちで独り言を発した。だから俺も通常の出会いとは違う不安感があり、三隅百合の事をそこまで立ち入りしたくないのかと気づく。
帰ろう……。これで最後と諦めると言っていたのは三隅百合の言葉だ。俺が連絡をつけなければもう店にも現れる事もないだろう。
そう思い俺は、一目散に周りの人間など目にくれず京阪四条駅へと急いだ。
そして電車に揺られ家路に着いたのだった。
次の日、案の定三隅百合は現れなかった。
ただ安心感とは別にちょっとポッカリと心に穴が空いたような感覚がした。
いつもの光景が見えない。三隅百合が座っていたテーブル席には太っちょのおばさんがサンドウィッチを頬張っている姿だった。
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