【朗読/女性声優】小説詰め合わせ【作業用/睡眠用】せせらぎと朗読 欲に満ちた世界まとめ②まとめ13本

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おはようございます。こんにちは。こんばんは。ブログを閲覧いただきありがとうございます。

 youtubeにて「語り部朗読BAR」というチャンネルを運営しております。
 自身で小説を書き、声優さんに朗読していただいたものに動画編集をして公開しております。
 たまに作者自身の北条むつき朗読もございます。

 今回ご紹介の朗読動画は、せせらぎと朗読詰め合わせ13本、欲に満ちた世界まとめ②です。
 良かったら聴いていただけると嬉しいです。

・朗読動画もご用意しております。
・今回は小説(文字)は動画下部からお読みいただけます。
◉連続小説ドラマ
欲に満ちた世界

作者 北条むつき
朗読 いかおぼろ

◉第13話 褒めと酔いの夜

 大阪駅から電車で数駅いった駅にある、とある提灯街。その一角の居酒屋が今回、私がお呼ばれするジャパンリビングで働き始めた歓迎会の場所だった。
 部署内での歓迎会。若干8名だったけど、私のために集まってくれてたことにとても感慨深かった。
 見崎《みざき》部長が少し遅れてきたものの私の歓迎会は乾杯の音頭で始まった。開口一番、山江係長が、部下でもある富沢さんをいじろうと「この子はねえ、」などと始まったら、関西弁の山江さんの素のボケと富沢さんの上司いじりのツッコミが軽快で、楽しく飲んでいる席でのことだった。

 朝井主任が、私に向かい笑顔になりながら口伝えした。

「伊月さん、あなたすごいわよねえ。感心したわ。1日目は力が入るもので、あんなに上手に私の言葉を噛み砕いてデザインに表現くださるんだもの。すごいと思ったわ」

 唐突に話すように、酔いも回ってきた頃、色目づかいの少し雰囲気のある目つきで私を見つめ、褒め称える。まるでその褒め方は、男性が女性を口説くかのような物言いで、私の酔いを少し覚まさせた。

 と、その様子を見ていると、山江係長が、朝井さんを見て、私に口添えし出した。

「危ない。あぶない。気をつけなや〜。伊月さん。この朝井、そっちの気もあるみたいやから……クシシッシ……」

「えっ……」

 びっくりした顔をしていると、もう酔いが回ってきたのか、朝井さんが反論する。

「な〜に〜。人が真剣に褒めてんのに、その気になったらどうするのよお〜!?」

「こらこら、朝井。それぐらいにしときなさい」と見崎部長の声。
「そうそう、新人いじめは初日だけにしとかへんと、バチ当たるで」と山江さんが冗談っぽく言い放った。

「でも朝井の言うように、伊月さん、あなたのやり方すごくいいと思うの。今日だけじゃなくて、これからもずっとその調子でお願いね?」

 そう言う見崎部長は何やら訳ありかのように答える。その言葉の後から、富沢さんと山江さんの掛け合い漫才のように以前働いていた人の愚痴大会が始まった。

「そう! 以前の人とは大違いなのよね。伊月さんってこんなに素晴らしい人が来てくれて、とても嬉しいの」

 と答えた富沢さんの後に山江さんが口を出す。

「そうやなあ。あれは伊月さんが入る少し前やっけ? 僕ここには不要みたいなんで、仕事しません。なあ〜んて、突然言い出す新人いたもんなあ!? クッシシシ……」

「えっ、そうなんですか?」

 返す私に色々以前の人の事件報告の如く、あがる奇行の数々を聞かされた。

 入社初日から「今日からですか?」と電話を始業前にかけてくる変な新人だったと皆んなで大笑いしていた。
 私とは違い、結構勇気がいることをする新人さんだなぁと話に聞き入っていると、あっという間に2時間の歓迎会は終わりを迎えた。

 見崎部長から最後に締めの一言があり、最後に改めての挨拶と歓迎のお礼を言うと歓迎会はお開きになった。

 私たちは提灯街を抜け、みんな駅へと帰る。私はこの提灯街の隣駅が最寄駅だ。駅も一駅なのでゆっくりと歩いて帰ろうと皆さんと駅で別れ、私は一人ほろ酔い気分で家路をゆっくりと帰る。

 少し飲み足りない気分でもあったため、姉マンション近くのコンビニに寄り、ほろ酔いと焼酎数本を購入し、誰もいない姉のマンションに帰る。
 今夜は和姉も出張でいなく、子供の和馬くんも幼稚園のお泊まり会だ。

 そして旦那さんも朝まで飲み会と言うことで、大阪に移住するために越してきた二日目にして、一人のマンション暮らしのような気楽で姉マンションに帰ってきた。

 鍵を開けて、千鳥足気分で、ヨタヨタと自室の、以前は和馬くんの寝室を間借りする形で昨日からお世話になっている部屋へと帰ってきた。

 カバンを適当に置きテーブルにコンビニの袋をガサッとガサツに置いて、女らしくなく、胡座をかいた。ほろ酔いと焼酎でグビッと喉を鳴らす。
 ひとりになればこんなものだと、歓迎会でかしこまっていたところもあり、ひとりの大阪……。開放気分を存分に味わう夜の23時も回る頃、マンション近くから犬の遠吠えが聞こえた。

 ほろ酔い気分で、そろそろ眠りにつこうかと思っていた。酔っているのもあり、お風呂はシャワーにしようか、朝にシャワーでも浴びようかと着の身着のまま、ウトウトしていた。

 ガチャ……。という扉が開いたような音がした。

 誰が帰ってくるのだろうか。この深夜の時間帯。今日は誰も帰るはずのないこの姉マンションに女ひとりの私。姉はもちろん、和馬くんのはずもないと思い、さっき鍵はかけたはずの扉が開いたと言うことは、ここの住人以外の誰でもないはず。

 もしかして旦那の由雄《よしお》さんなのかと少し不安になり、寝たふりをしてやり過ごそうとした。

 足音がこの和室に近づく。引き戸をゆっくり引いて廊下の明かりが部屋に入ってきた。机に顔を埋めながらも、腕から半目を覗かせてみると、影になりながらもそこに立っていたのは、和姉の旦那の由雄さんだった。

◉第14話 酔い覚めと声かけ

 ガラッと開いた襖から見えたのは由雄さんが無造作に部屋の入り口で立っている姿だった。
 半目を開けたが、恐怖を感じた私は一瞬目を閉じた。どうしよう……。どう接したらいいかわからない。私どうなるんだろう……。と、不安に感じていると、由雄さんの小さな声が部屋に響いた。

「寝てるか……」

 と言った後、足を擦りながらこちらに近づこうとしているのがわかった。どうしよう。ここでびっくりして起きるのも変だ。どうしよう……。と思っていたら、私の肩に手か何かが当たった。

 まずい……。このまま私、変なことされたら嫌だ!

 そう思った瞬間、ムクっと起きて、私は小さな和室の部屋の隅に体を捩った。

「何するんですか!? 由雄さん?」

 私は身を捩り、胸元を隠しながら、恐怖な顔つきになり由雄さんをみた。すると由雄さんは、酔っているのか、赤ら顔で躊躇することなく、「どうしたの? 何もしないよ?」と私に近づいてきた。

 私は、由雄さんの目つきの危うさに膝下の、枕を握りしめ目を瞑った。

「大丈夫……。姉には黙ってて……」

 あまりの違和感とその言葉に恐怖を感じ、身を捩った。

 赤い由雄さんの顔が私に近づく。由雄さんの目付きのおかしさに、私は立ち上がり、枕を由雄さんに投げつけ、何も持たずに玄関に走りだした。

「何もしないよ! 大丈夫だから……」

 そう言われて、大丈夫なはずがないと思い、私は玄関のノブを回し、慌てて外に飛び出てマンションを後にした。
 あのまま部屋にいたら襲われる。そう思った私は必死にマンションを出て走り出した。まだ知らない街をどこに向かっているのかわからずに走っていた。

 姉というものがありながら、その妹に手を出そうする男の気持ちなどわかるはずもなく、私はイライラと恐怖を感じながら、大阪2日目の夜の街を疾走していた。
 どこに行くかも宛てもなく彷徨っていると、煌々としたコンビニの灯りを見つけた。
 思わずコンビニに駆け寄り、警察でも呼ぼうかと思って入ったが、まだ事件にもなっていないのに、事情聴取されるのも困ると思って思いとどまった。
 コンビニで軽く買い物でもしようと思い直したが、財布を持っていないことに今頃気づいた。
 やってしまった。慌てて出てきたものだから、何も持たずに時間を潰そうと店内を少し彷徨き、コンビニ前の駐車場スペースの灰皿付近でマンションに帰ろうかどうしようか戸惑っていた。

 今マンションに戻っても、変な目付きの由雄さんに、また変なことされる可能性もあると考え、コンビニ前のポールに座り、時間だけが流れていった。
 ボケェーっと夜空を見上げ、物思いに耽る。財布がないので、買い物すらできずに呆然と時間だけが経った。
 しばらくすると、灰皿付近で男性たちが屯ってタバコを蒸している。その少し横で私は呆然と空を見ていたら、タバコを持ちながら近づき声をかけてくる男性に出くわした。

「お姉さん? こんな夜更けに一人で何してんのん? 暇してるなら、俺たちとどっかいかない?」

 まだ見知らぬ街で、私を大学生かと間違えたのか、その男性は私にナンパをする感じで声をかけてくる。

「さっきからずっといるけど、夜更けに彼氏と喧嘩でもした? それとも暇してるのかな?」
「……いえ……」

 私は端的な口調で迷惑っぽく返事を返すと、男性はしつこく私に声をかけてくる。

「ねえ、ねえ、近所? それとも、家出じゃないのよね? 大学生でしょ?」

 まだ幼顔の私だからか、私を大学生に見間違えて声をかけてくる男性に私は迷惑がるように首をよそに向けた。

「おいおい、ちょっとぐらい質問に答えてくれてもバチ当たらへんで?」

 大阪弁で話す男性は由雄さんしか知らず、さっきの光景が脳裏に蘇って、私は目を見開きびっくりした顔つきになった。

「ごめんなさい。やめてもらえませんか?」

 そう返したはずが、男性はしつこい感じで家を聞いてくる。

「近所? もしかしてお金ないのとか? まさかぁ? ハハハッ!」

 素無視を決め込んでいようと思ったら、男性が声を張り上げてきた。

「おい! 姉ちゃんさ? 無視せんでもええやんけ! ワレ!」

 その口調に恐怖にを感じその場を動こうとした。すると腕が伸びて、私の二の腕を掴んだ。

 その行為に私は思わず悲鳴ならぬ声が出た。

「いやっ!」

 その声に前方から男性の声が聞こえてきた。

「おいおい! その辺でやめてやり!」

 一瞬その声色に懐かしを覚えて、顔を前方に向けると、そこには、なぜか神崎さんが異様な顔つきで立っていた。

「かっ、神崎さん……なんで?」

 私は、救世主に感じた。

◉第15話 強さと優しさ

 男は神崎さんの言葉にも躊躇せずに、まだ私に声をかけてくる。

「誰? 知り合い? ねえ、いいじゃん俺とどっか行こうよ?」

 男は私の二の腕を取りながら、強引に自分の車の方へ私の腕を引き寄せる。

「いやっ!」

 私は思わず小さく叫んだ。すると神崎さんの言葉が私たちの間に入る。

「やめてやれ。嫌がってる!」

 その言葉にも男は「チッ!」と舌打ちをして神崎さんに杭かかろうとした。

「何? あんた? 俺はこの子に用があんの。黙ってろや!」

 一色触発的な感じで男は私の腕を取り強引に引きづろうとする。

「いや……」

 その小さな拒否反応を示した時だった。距離あったはずの神崎さんが私たちの近くに急にダッシュして、私と男の腕の間に入り、男の肩に軽く手を当てた。そっと乗せたはずの神崎さんの手と指が男の肩をぐっと握った。

「……いってぇ……あんなぁ? 俺はこの子に……いぃ!?」

 男の叫ぶ声が聞こえた瞬間、神崎さんは、男に手を宛てたと思ったら、足を払い、男をその場に転がしていた。

 男も私も何が起きたのか、一瞬の出来事だった。男は無惨にもその場に転がり、肩を抑えて痛がっていた。

「なにすんねん! こいつ! ってぇーなぁ!?」

 男は神崎さんに叫んだが、神崎さんは、小さく「まだやる?」と男を睨みつけた。
 男は「チッ……」と舌打ちをした後、ゆっくり立ち上がる

「うっせーわ! ヤメヤメ! 男いたんかよ……くっだらねぇ……」
 そう言って男はその場からそそくさと立ち去った。

「大丈夫?」と声をかけたのは神崎さんの方だった。
「えっ、えぇ……、ありがとうございます」

 私はあっという間の神崎さんと男のやりとりにびっくりして、呆然と神崎さんが男の方を向いている横顔を呆然と見ることしかできずにいた。

 何この人、めちゃくちゃ強い……。こんな強い人だったとは思いもよらず、ボケェーっと神崎さんの顔を見ていると神崎さんが照れ隠しのように言う。

「えっ? 俺の顔、何かついている? どうしたのこんなところで何やってるの?」


 そう神崎さんは私に言ったが、その言葉を言い返したかったのは、私の方だった。まさか神崎さんがこんな大阪の地で、私を助けに来るなんて思って見ないシュチュエーションに私は呆然と神崎さんの顔を見るほか出来かなった。

「神崎さんこそ、こんな大阪で何やってるんですか? 何でいるんですか?」

 思わず出た口ぶりに神崎さんは、「まあまあ、落ち着こうよう」とズボンからハンカチを出し、私に渡してきた。

「大丈夫? こんな夜更けに、こんな駅のコンビニで出くわすなんてねぇ?」
「それを言いたいのは、私の方です。何で大阪にいるんですか?」
「ああ、出張だよ。昨日からずっと泊まりでこっちの事務所にきてるんだよね」
「そうなんですか……」
「ああ、飲み物買うけど、君もどう?」
「あっ……、すみません、私財布持ってなくて……」

 その言葉を言うと、神崎さんは「訳ありのようだね? どうしたの? ちょっと待ってて、買ってきて聞くから」とコンビニに入っていった。

 神崎さんが現れただけで、びっくりなのに、私の窮地を救ってくれたのは、2回目。その行動に私の胸はちょっとドキドキし出していた。
 なんでだろう。こんな夜更けにまさか、大阪の地で、仕事以外で神崎さんに出くわすなんて……。これは一体どういうことなんだろうと、神崎さんが戻ってくる数分の間に、私の感情は目まぐるしく変化していた。

「はい、どうぞ……」
 玄関口に待っていた私にペットボトルのお茶を渡す。神崎さんの手が私の目の前に伸びできた。

「いいんですか?」
「どうぞ……。なんか訳ありげに、こんなところで出くわしたんだから、話、少し聞こうかな?って、ごめん……。迷惑ならいいんだけど……」

 そう少し照れ隠しをしながら、恥ずかしそうに手渡しをする神崎さんに私は安心感を覚え、今日夜に起きたことを少しずつ話し始めた。

「姉の家に今泊まっていて、姉もその旦那さんも、お子さんも、今日泊まりでいなかったですよね……」
「うん、うん」
「で、今日初出勤の後、歓迎会をしてもらって、夜ほろ酔いで帰ってきたんです」
「へえ、歓迎会? いいねぇ」
「はい……でも、その後、一人家路について、家で一人晩酌をしていたんです」

 そう言って次の言葉を探していた。姉の旦那の由雄さんが帰ってきて、私を襲おうとしたと言いたい気持ちもあったけど、私はイケナイことを仕事関係のある神崎さんに話していいものか、戸惑い、何も言うことができずに首を横に振った。

 その行動を見た神崎さんは、小さく「辛いことがあったんだ……。話せないなら話さなくていいよ」と持っていたペットボトルのお茶をグビッと喉を鳴らした。そしてその後、私の気持ちを察してなのか、ある言葉を言って宥めてくる。

「帰りづらいんでしょ? 意味は知らないけど、怖いことあったんでしょ? 警察沙汰にもしたくないんでしょ?」

 そう聞く神崎さんの優しい言葉を読み取ると私は、小さくコクリと頷いた。

「じゃあ、ちょっと散歩でもして、気を紛らわそうか? 僕もね、ちょっと今日色々あって、寝付けなくて、一人のみでもしようと思って、コンビニにきたんだ……」

 私は神崎さんの横顔を見上げ、その上空に上がっている、まん丸い月があがる空を見つめて「そうなんですね。神崎さんも大変なところ、ありがとうございます」と神崎さんに向き直した。

 すると神崎さんは、「いやいや、イライラ溜まってたから、さっきあんなことしちゃったけど、普段はあんなに暴力的じゃないからね? ちょっとさっきのでストレス発散しちゃったよ……。こちらこそごめん……」と言った。続け様に私も言葉を出して続けた。

「いえっ、助けてもらえて、嬉しかったです。ってか、神崎さん何かスポーツされてるんですか? めちゃくちゃ強くてびっくりしちゃいましたよ」

「あっ、昔……、学生の頃、合気道と柔道やってたから……、ホラッ僕って鳩胸でしょ? ハハハッ……」

 そう、神崎さんははじめて会った頃から、細身だけど、ガッチリした体型だと思っていた。その謎が解けて少しホッとした。仕事の話をする以外の神崎さんを見ていると少し、さっき起こった出来事の怒りと悲しみも、どっかに飛んでいきそうな気持ちさせてくれた。
 なんでこの人はこんなに勇敢で、しかもこんなに優しいんだろう……。こんな男の人っているんだなぁ……と夜空を見上げクスクス笑う神崎さんの横顔が、すごく眩しく見える夜だった。

 そんなことを考えていると、神崎さんが思わぬことを言ってくる。

「意味は不明だけど、ウチに戻りたくないなら、僕が泊まってるホテルにでもくる? あっ、もちろん部屋はべっこだよ。アハハハハッ……、何言ってんだろう俺……」

 その言葉に、思わず声を殺してしまった私がいた。それに気づいた神崎さんは、弁解するような言い方で私を和ませた。

「いや、帰りたくないなら、ホテルにでも1日泊まってみるのもいいかと思ったからね? 別に無理にとは言ってないし、気分変えるのも手だと思うよ?」

 そんな言葉を発するとは思ってもみない言葉に私は、びっくりして思わず絶句をしたと同時に、歯を見せて笑ってしまった。

「どうしたの? 突然……、僕、おかしいこと言った?」

 私が何故財布を持たず、夜のコンビニ居るのか、事情を知ってか知らずか、謙遜気味に言う神崎さんの言葉の優しさが何故か、今夜は心地よかった。

◉第16話 泣きと私の気持ち

「あっ、でもお財布無いし……」
「アハハハッ、気にしないで良いよ! 今回は僕の奢り」

 夜も深夜になろうとする時間帯。
 私は財布も持たずに姉のマンションを飛び出して、コンビニでナンパにあった。そこで大阪に出張で宿泊している神崎さんに遭遇した。
 ナンパ男を撃退してくれた上、私は神崎さんに飲み直そうよと誘われた。

「軽く一杯だけ付き合ってよ」

 そう促され私は、姉マンション近くの最寄駅の居酒屋の暖簾《のれん》をくぐった。季節は夏が終わったというのに、まだ夜でも半袖でもいいぐらいの暖かさ。ムシャクシャしていた私は、神崎さんの誘いに乗った。

「伊月さんも羽伸ばそう!」

 そんな言葉を言われたら、お酒があまり強くは無い私でも、ちょっと人と話したい思いもあり神崎さんの誘いに乗った。

「いやぁ、でもビックリだよ。まさか伊月さんがいるなんさぁ。 僕もね、今日嫌なことがあったって言ったじゃない? だから、もう伊月さんに聞いてもらおうかなぁ?」

 居酒屋に入って、30分ちょっと、一杯だけと言ったはずの神崎さんは15分も経たないうちに2杯目、3杯目と注文して、ちょっと上機嫌になっていた。

 人材紹介の営業マンとしての立ち振る舞いと違い、これが神崎さんの素の姿なのかと思えるほど笑いながらも、ちょっとした愚痴をこぼしながら話す。

 神崎さんのそのちょっとしたおどけぶりというか、子供っぷりというか、二面性に私にも気を許してくれているのかなぁ? と思え、私も強くないくせに、2杯目の注文のオーダーを出していた。

 今日は会社の歓迎会も併せ、姉マンションでも少し晩酌していたこともあり、酔いがちょっとまわり、気持ちいい感覚に陥っていた。

「あー! 神崎さんも、言いたいことあるんですねぇ! 言っちゃいましょう!」
「ちょっと乗ってきた? 伊月さんもペース早いしぃ〜!」

 と、乗っけから調子の良い素振りで話していたと思ったら、急に神崎さんは真顔になった。

「でも、助かって良かったよ……」
「あっ、さっきは本当にありがとうございました!」

 私も、コンビニの件だと思い、その場で立ち上がりちょっと調子良く頭を下げた。
 すると……。神崎さんは、ちょっと神妙な面持ちで答えた。

「違うよ……。1ヶ月前の駅のホームでさ。電車に飛び込まなくて良かったってこと……」
「……」

 私はその言葉を言われ、ハッと自分のしでかしたことに、顔を赤《あからめ》た。そしてその場で頭を下げながら、真剣な眼差しを神崎さんに向けた。

「神崎さんのおかげで、今があります。ありがとうございます。あの時は私……」

 その言葉を聞いた神崎さんは手で私の言葉を制しすると、ビールジョッキを持ち、喉を鳴らす。そして私に真顔で言った。

「色々あったのはわかる。俺も同じように自暴自棄になったこともあるし、それに……」

 次の言葉を言おうとした神崎さんは、ちょっと感慨に耽った。

 どうしたんだろう……。いい気分で憂さ晴らししていたと思ったら、急に押し黙る神崎さん。私は次の言葉が気になった。

「無理して、言いたく無いことは言わないでおきましょう?」

 そう言った。私はそう気遣ったはずなのに、どうしてか神崎さんは、酔っていることもあったのか、その場で歯を一瞬食いしばったかと思うと、眉間に皺《しわ》を寄せて項垂れ泣き始めた。

「良かったよ……。ホント……良かった……」

「ごめんさなさい……。私……。本当にありがとうと思えるんです。泣かないでください。神崎さん……?」

 普段をあまり知らない神崎さんだったけど、お酒を飲むとこんなにも泣き上戸になるのか、それとも今日も色々あったためなのか。
 私といることで何かを思い出したのか。
 少し酔いが覚めたけど、私は神崎さんの歯を噛み締め泣く姿を見て、誰かと私を重ね合わせているのかと思った。
 この人は、私を助けるに至った経緯にも、何か訳があるんじゃ無いか。
 ちょっとそう感じた瞬間だった。私は意を決して聞いてみた。

「神崎さん、そんなに泣かないでください……。私は、あなたのおかげで元気です! 過去に、私を助けるに至った理由があるんですよね?」

 私は小さく諭すように言いながらも疑問を神崎さんに聞いた。すると……。

「いや、いいんだ。伊月さんは伊月さんだし……」

 その言葉に、やはり何かがこの人の中にあって、私を助けるに至ったんだと感じた。そんな思いで、私は急に神崎さんのことをもっと知りたくなった。
 この人の過去に何かあったことで、私の今……、命があるのならば、尚のこと神崎さんの過去を知りたいと感じた。だから私は、この男性をもっと知りたいと思った。

「神崎さん? 私でよければ、話してもらえませんか? 私、神崎さんのこと、もっと知りたいです……」

◉第17話救命と今の気持ち

 神崎さんはお酒を飲むと泣き上戸になった。いきなり私を助けた日のことを思い出したのか、歯を食いしばり、顔を歪めてその場に項垂れた。
 私は、その神崎さんの真意を知りたくなった。

「私、神崎さんのこと、もっと知りたいです……」

 そう諭すように言った後だった。神崎さんはゆっくりと口を開きながら、目頭を抑えながら話し始めた。

「ごめん……。思い出すつもりなかったんだけど、伊月さんと昔を重ねてしまったよ……」
「何があったんですか? 聞いていいものなら、私……。神崎さんの事をもっと知ってみたいです」

 普通なら、躊躇してもいいことなのに、今の私があるのは、この人のおかげだと思うと聞かずにはいられなかった。ゆっくりと神崎さんは話し始めた。

「僕が学生時代のことなんだ……。幼馴染を救えなかったんだ。あの駅のホーム。同じなんだよね……」

「……えっ……」少し戸惑い、私は思わず声に出した。

「幼馴染の同級生、サエって言う子でね。いじめられっ子でさ、ちょっとした自慢から、いじめられるようになってさ……。ずっと俺はそばでそれをみていたんだけど、何もできなかったんだ……」

「……」黙る私を見ながら神崎さんは続ける。

「ちょうどね、君を助けた次の日、サエの命日でさ、君にお礼を言われた後、墓参りしたんだよね……」

 サエって言う子なんだ。そうか。あの日、だからスーツだったんだ……。私は、営業するためにスーツで来たことに違和感を覚えたけど、違ったんだ。

「そしたらさ、あの日の墓参りでさ。不思議なことが起きたんだ。もちろん君を助けた日も不思議なことだったんだけど……」

「不思議なこと?」

「そう、墓参りでさ、空から急に『良かったね』って聞こえたんだ。これは偶然じゃ無いって俺は思った」

「えっ……。どう言う意味ですか?」

「あー。あの事故の日のこと、覚えてないんだ?」

 気になった。私はあの日、確かにホームから電車に飛び込もうとしたはずなのに、傷ひとつなく助かった。電車が来る風を感じた瞬間から、私の意識はなかった。
 どうしてあの日、病院で目覚めるまで、いや目覚めてからも、恐怖心はあったのに、体の異変はなかった。てっきり神崎さんが引き止めてくれたからだと思っていたのに……。違うってことなの……? そう思った私は神崎さんに聞き返す。

「神崎さんが助けてくれたんですよね?」
「ああ、引き止めたよ? でも、実際は少し違うかな?」
「えっ……? どういうことですか?」
「やっぱり、覚えてない?」
「……え、はい……」

 電車が来る気配と風を感じ、アナウンスも何かしら言っていたのを覚えている。でもそれ以外は全くだった。だから聞いてみようと思った。

「伊月さんは大丈夫? あの日の事を話して……。 大丈夫なら話すけど……」

 神崎さんはまた私のことを気遣ってくれた。私は少し迷ったが、あの日のことを知りたいと思い、コクリと頷《うなず》き答えた。

「あの日、伊月さん、君を見かけたのは、改札を入ってからだったんだ」
「えぇ……」
「僕も、残業で遅く帰ってた。もう深夜帯のに、ひとりトボトボと歩く君を見つけた時、感じたんだよね」
「感じた? 何をですか?」
「ああ、さっきも少し名前出したけど、サエの事……。サエもね、同じような歩き方しながら、毎日泣きながら電車に乗ってた……」

「……」私は黙ったまま少し神崎さんの話に聞き入った。

「それでね? 約2ヶ月前、君が飛び込む時と、同じ仕草をしていたサエの事と、僕は重ねてしまってさ。もしかしたら、この人、危ないんじゃ無いか? ってずっとホームに上がるのを近くで見てたんだ」

「そうなんだ……」

「そう。それでね? 学生時代のサエと同じ仕草で、一人ブツブツと呟いてた。サエと同じようにホームの前に立ち、いきなり屈《かが》み込んだんだ」

「えっ……」私、それ覚えてない……。

「その時思った、危ないって……。それで僕は叫んだ。サエと同じ仕草で、なんか、伊月さんがあの時のサエと同じ事するんだって思って、走って駆け寄って肩を持ち引き寄せたんだ。頭から落ちようとてたからね」

「えっ……」全く記憶にない……。そうだったんだ……私……。

「それでさ、もう数十センチのところを電車が通り過ぎて行ったんだ。君はホームで頭を打って気絶してたし、アナウンスもなって、駅員が近づいてきてさ、救急車呼んでもらったんだ」

「そんな状況だったんだ……私、全く記憶にない……」

「だろうね。僕も慌ててさ、合気道教室で習ってた救命措置をしてたんだ……。でも全然目覚めてくれなくて……」

 えっ……。人命救助って……。私、そんな事をしてもらってたなんて、初めて知った。急に恥ずかしさと、緊張感が私の中に押し寄せてきて、神崎さんの顔を見れなくなってしまった。
 私を見た神崎さんは、照れ隠しなのか、急に変な事を言った。

「あっ、救命措置だよ? キスとかしてないからね? アハハハ。あっ何言ってんだろ……俺……」

「いえ、そんなのどうでもいいです! 私、私を助けてもらっておいて、病院で変な態度をとってすみません。それにお礼の時も、もっとちゃんと言えずにすみません。私はなんてお礼を言っていいか……」

 私は慌てて、その場で立ち上がり、周りの目など気にもせずに、声を張って謝った。周りは私が立った事と声を上げた事で、私に注目する人もいた。でも、もうそんな事どうでもいいと感じた。だから私は心底優しい神崎さんの過去を知りたくなった。サエと言う、私を救うことになった人物の事を知りたくなった。

「あの、不躾《ぶしつけ》で、申し訳ないんですが、私、神崎さんの過去を知りたいです」

「えっ……」

 急にこんな事を言った私に戸惑ったのか、神崎さんはちょっと拍子抜けした顔になった。でもそのすぐ後、ニコリとして、私を見た。そして……。

「なんかね? 僕……、ってか、俺……。君を助けた時から、ずっと気になってるんだ」

その言葉を聞いた瞬間、私は、瞬間的に、顔が湯たんぽのように暖かくなった。多分見た目も、赤く染まったのは確かなはずだ。

「君ともっと話したいって、ずっと前から思ってたんだ。ずっと昔から知ってる人みたいな印象があるんだよね? なんでかな?」

「私も、もっと神崎さんを知りたいです! そのサエさんのこと、話してもらえませんか?」

◉第18話サエとの想い

「サエとは、幼稚園からの幼馴染でね。サエが亡くなる17歳の夏終わりまでずっと同じ学校だったんだ」

「へえ……。そのサエさんは、神崎さんのこと、好きだったとかですか?」

「いやいや、サエはどうだったかは知らないけど、俺は好意持ってた。あっごめん、いつも仕事では僕か私だけど、今は仕事じゃないから、俺でいい?」

「はい、いつもの感じで話してください」

 私は神崎さんが素で話す姿に好感を抱いた。営業マンの時はどこかしら、優しいけどよそよそしさを感じていたからだ。神崎さんは頷くと話を続けた。

「でさ、サエはおとなしいけど、人に優しい子でね? 気弱な子にも普通に接する子だったんだけど、その気弱な友達がいじめられ始めたら、その仲間ってことで同じようにいじめられ始めた」

「はい」

「で、期末テストの時、トップを取った後から、急にいじめはエスカレートしてさ」

「えぇ……!?」

「最初は、へっちゃらって顔してんだけど、日に日にいじめが横行して行ってさ、俺も間に入っていじめっ子を追っ払ってたんだけど、エスカレートするいじめに多分サエは無理してんだよね……」

「……」私は黙りながら、思わずうなづいた。

「亡くなる日は学校帰りでさ、俺もサエを慰めてたんだけど、サエは俺に『元気でね』って言い残して、ホームに飛び込んだんだ……」

「……」私は同じ事をしようとしていたことにびっくりして黙り込んだ。

「ごめん、こんなこと話すつもりなかったのに……。でも、伊月さんが、サエと同じ態度をとってホームいた時に感じたんだ。この子は助けないとダメだって」


「……」

 衝撃な内容に私は黙ってしまった。私は2杯目のグラスを一気に口に運んだ。すると神崎さんは私に笑顔を向けて言う。

「サエの時と同じ印象を重ね合わせちゃって、ごめん。でもあの駅のホームで、多分サエが君を自殺から救ってくれたんじゃないかって、俺は思ってるんだ……」

「えっ……?」

「だってさ、通常なら、死んでてもおかしくないはずなのに。あの時、君は電車にはぶつからずに頭を打って気絶してた。それは多分、サエが伊月さんを助けたんじゃないかって……。変な話だけど、俺にはそう思えたんだ」

「そうだったんですか……。ありがとうございます。今更だけど、なんてお礼……」

 私の言葉を聞いた後だった。
 神崎さんは、手を出し「いやいや、勝手に昔の友達と重ね合わせてごめん。でも墓参りの時に聞こえた『良かったね』の言葉は、本当なんだ。だからサエが伊月さんを助けたと俺は思ってる」と自分の言葉に頷く。

「そんな不思議な事があったんだ……」

「だから、もしかしたら、伊月さんは、サエの生まれ変わりじゃ……。あっ! 俺何言ってんだろう? ごめん……伊月さんは、伊月さんだもんね……ごめん……」

「いえいえ……。そんなことは……良くって……私も、神崎さんに助けられた事、偶然じゃないって思ってます。だって、さっきだって、こんな大阪の場所で2度目に助けられてるんですから。もう偶然じゃないですよ。これ……。って私こそ、何言ってんだろ? アハハハハ……」

 私も神崎さんも照れ隠しなのか、お互いに笑い合うと、少し沈黙になった。でも神崎さんの事が少し知れた気がした。
 今夜は由雄さんに襲われそうになってから、嫌な事が起きたけど、こんな偶然が世の中にあるんだって思えた。いや、これは偶然じゃない気もした。
 それに今日は、姉マンションに帰る気にもなれなかったし、一晩今後の事を考えるにはいい機会だと思えた。

「そう言えば、伊月さんは、何で家から出てきたの? 嫌な事があったって言ってたけど……」

「……」その言葉に私は少し言おうか言うまいか躊躇した。今この場で、姉の旦那さんに襲われそうになったなんて言ってもいいものなのか迷った。

 すると、神崎さんは私の言葉の詰まりように気づいたのか優しい言葉をかけた。

「あっ、そうだ。もし家に帰るのが嫌なら、コレでホテル泊まりなよ?」

 突然だった。サエさんの話を終えた後、急に神崎さんは、私の事情を知ってか知らずか、2万円を差し出した。

「えっ……、でもいただくことは出来ません……。悪いし……」
「じゃあ、貸しね? お財布持ってないんでしょ? 一泊して、気持ち新たにした方がいいよ? 迷惑じゃなかったら、俺が泊まってるホテル、多分空きあるだろうしね?」

「あっ、でも……」

 躊躇していると、私の手に2万円を握り渡してくる。

「ありがとうございます……」

 私はそこまでしてくれる神崎さんの好意を受け取ることにした。神崎さんも素直に受け取る私を見て笑顔になり、「お勘定!」とスタッフに声をかけていた。

 店を出ると、私たち二人はゆっくり神崎さんが泊まるホテルに向けて歩き出した。
 こんなまさかの展開に、私も忘年会と晩酌の後だからか、2杯目を一気に口にしたからなのか、酔いが回って少しよろけた。
 歩く神崎さんに寄りかかってしまった。

「あれっ……。伊月さん大丈夫?」
「ちょっと酔ったかな?」
 神崎さんは私の肩をそっと抱き、沈黙の時間が少し流れた。

 なんだろう……。由雄さんの時とは違うドキドキ感が私の中を占めた。私は肩を抱かれた神崎さんの手の暖かさを感じた。

「歩ける?」
「あっ、ごめんさない……」

 数百メートル先のホテルが見える駅前の路地で、私は忘年会後の晩酌と、そして2杯目の勢い任せな行動で頭がちょっと痛くなってきた。
 フラフラと歩く。いや歩かされながら、私と神崎さんは、ビジネスホテルに着いた。
 フロント前のソファに座らされると私は頭痛がしてきたのと同時にドキドキしてくる……。なんでだろう……?
「伊月さん? 行くよ?」
「あっ、はい……」

 まさか同じホテルに泊まることになろうとは……。ちょっとしたドキドキ感を味わった後に別の部屋とはいえども、男性と入るホテル……。
 明日出勤にも関わらず、酔いが回った頭痛とちょっとしたドキドキ感……。今夜、眠れるかな? 

 神崎さんと同じ階層。エレベーターを降りると、神崎さんはよろける私の肩を抱きながら、私の部屋のルームキーを回す。

「大丈夫? ちょっと誘ったの悪かったなぁ?」
「いえ……すみません。ちょっと……あっ!」

 部屋に入ると私をフラフラとベッドに運ぶ神崎さん。
 このまま押し倒されそうな格好になった。
 なんだろう。由雄さんの時と違うドキドキが私を占めた。

「神崎さん……」私は小さく彼の名前を呼んだ。

 しばらくの沈黙……。いや、一瞬だった……。

「じゃあね? 俺は向こうの部屋だから……。ちゃんと寝なよ?」

 そう挨拶をすると神崎さんは、私が横になるベッドから離れ手を振った。

「あっ……はい、ありがとうございます」

 思わず正気に戻り、神崎さんに挨拶をした。神崎さんは、ゆっくり私の部屋を出て行った。
 神崎さんが私を助けるに至った真意を聞いた後、私は、同じ屋根の下にいる男性に想いを馳せながら、ホテルのベッドに横たわった。

「久しぶりだな……。こんなドキドキ……」

◉第19話ドキドキとタジタジ

 さっきまで一緒にお酒を飲み、そして過去を少し知った神崎さんと同じホテルにいると言うだけで、何故か私はドキドキしていた。
 こんなドキドキ感は、学生時代に付き合うか付き合わないかの寸前の同級生と、夏の花火を見た後のちょっと甘酸っぱい思い出以来だ。

 あの時と違うのは、私が完全に神崎さんの気持ちにおんぶに抱っこで、助けてもらっていると言うことだ。情けないとも思ったが、私は神崎さんの事をもっと知ってみたくなった。今日の彼のちょっと悲しげに話す顔と、その後に見せた笑顔のギャップが何故か気になって仕方がなかった。

 小さなビジネスホテルの一室。頭の痛さを感じながら、私は酔いを冷ますため、さっき軽くシャワーを浴びた。さっきまでこの部屋に神崎さんがいた様子を思い出す。

 ちょっと恥ずかしくなった。
 朝食付きとか言ってたな……。朝、また会えるのかな?
 なんて事を妄想していると、部屋の暖かさとは別の熱い感情が押し寄せてくる。
 どうしたんだろう。私、今夜はもう神崎さんにどっぷりだ……。

 サエさんのことを話してくれたからだろうか? いや、偶然とは言え、ナンパ男を撃退してくれたからだろうか? はたまた、さっき私がベッドに転んだ時に顔が間近に感じたからだろうか……。いやいや、そのどれも、私に取っては新鮮だった。

 どうしたんだろう……。さっきから本当にドキドキ感が押し寄せてくる。
 ただ同じホテルにいると言うだけで、何故か神崎さんの事が気になった。今夜、眠れそうにもないなぁ……。シャワーを出て、寝巻きに着替えると、いつもとは違うベッドに横たわる。

「やっぱりこれは偶然じゃないよね」

 神崎さんも言ってたけど、私……、サエさんの生まれ変わり? そんな訳ないか……。

 でも、2度目を救われるなんて、なかなかないものだ。気になって眠れないや……。今頃神崎さんは、ぐっすりなんだろうか? 私と同じ思いで眠れないで欲しいなぁ……。

※※※※

 気がつけば朝だった。

 私はいつの間にか眠っていたようだった。朝の光が小さな窓のカーテン越しから差し込んで目が覚めた。
 時計を見ると朝の7時が来ようとしていた。確かホテルの横にコンビニがあったはずと思い、軽く着替えるとコンビニでコスメセットを揃えた。
 神崎さんに借りた1万円を出し、会計を済ませると、私はホテルに戻る。軽く化粧を整えると、朝食を摂るべくサービスルームに出向く。

 するとそこにはコーヒーカップにコーヒーを注いでいる神崎さんの姿があった。

「あっ、おはよう、眠れた?」
「あっ、おはようございます。あっはい……」

 続け様に神崎さんは、いつものように優しく接してくれる。

「昨日は、ごめんね? お酒、付き合ってもらって」
「いえいえ、私も楽しかったです」
「僕、酔っ払って、変な事言ってないよね? アハハハッ……」
「酔ってたとは思えない態度でしたよ?」
「そうかい? 伊月さんはどうだった?」

 ドキドキしてました。なぁーんて言えるはずもなく、私は「大丈夫でしたよ?」と端的に答えた。すると神崎さんは、まさかの言葉を吐く。

「いやあ、あの後、なんでか中々寝付けなくてさ?」

 えっ? いや、私もなんですよね? ドキドキしてて、ずっとあなたのことを思ってました。なあーんて言えるはずもなく……。

「やっぱり昨日話した、サエと伊月さんを重ねちゃって……悪いよね?」
「えっ……?」
「ほらぁーそうやって、聞き返すところなんて、面談の時から思ってたけど、そっくりなんだよね?」

 えっ……。でも普通聞き返すでしょ? ってか、それで以前、変な笑みを浮かべたって事なの? 私は意を決して尋ねた。

「面談の時、変な笑みを浮かべてたのは、もしかして、サエさんと被らせたからですか?」
「あっ、バレちゃいましたか? すみません……」

 やっぱりそう言う事だったんだ。神崎さんの中で、サエさんは大きい存在なんだ……。そう思っていると、神崎さんは思わぬ事を言う。

「いやはや、可愛い人だなぁって思ってね?」
「えっ……」

 私は、その言葉に顔を赤らめた。そして、思わずコーヒーメーカーのコーヒーを注ぐグラスを水のグラスと間違えて注いでいた。

「あっ……」

「アハハハッ……。そう言うところも可愛いよね?」

 神崎さん、どうしちゃったの? 私は思わず、笑いながら近くの席に付き、小さめのクロワッサンをちぎり頬張る神崎さんに目をやった。

◉第20話ミスとミスリード

「ちょっと! 伊月さん? これ何?」
「はい?」

 朝井主任に呼び出された。

「私が言ったのは、新鮮さって言ったのに、何故赤なの?」
「えっ……? アピールポイントは価格じゃないんですか?」
「違うわよ……。何を聞き間違えてるの?」
「すっすみません……」

 今日の私はミスばかりだった。先日入社したばかりのジャパンリビング。初日こそうまく事が運んでミスなく、褒められたものの、2日目はミスばかりが目立った。それに苛立った朝井主任の注意を受けていた。

 やってしまった。昨日、由雄さんに襲われそうになった件とその後のナンパ、そして助けてもらった神崎さんのことなど、昨日から今朝にかけて色々ありすぎて、私は仕事が手につかない状態だった。

 反省の意味をこめて少し一息入れて、気合いを入れ直そうとドリンクコーナーへ、コーヒーを入れ行く。

 すると見崎《みざき》部長が打ち合わせが終わったようで、同じようにドリンクコーナーに現れた。

「あら? 伊月さん。どう? 慣れた?」と聞いてくる。
「あっ、まだちょっと、勝手がわからないところありまして……」

 2日目にして慣れるわけもなく、しかし見崎部長は「あなたすごいらしいわね? なかなか初日で、あのデザインを出すことできないわよ? 頑張ってね?」と私を褒め称え消えて行った。

「ありがとうございます」と、気合を入れ直した。

 しかし、昨日の神崎さんは魅力的だったなぁ……。あんなに強くて優しい男性が彼だったら、毎日ハッピーなんだけど……。って私は、また神崎さんのこと考えてる……。やばいやばい。これじゃあ、仕事の息抜きになってない……。

 それに今日、姉マンションに帰らないと、荷物も財布も置いてけぼりだし、今夜マンションで寝付けるかなぁ? 色々仕事以外にも心配事はいっぱい出てくるもんだと、コーヒーをクイっと飲み干すと、私はお手洗いを済ませ。部署の自席についた。

「遅い! どこ行ってたの? 修正早くしてちょうだいね?」

 あぁあ。また朝井主任に小言を言わせてしまったと、反省して「かしこまりました」と言うと、隣の席の富沢さんが小さく声をかけてくる。

「あんまり、気にしないことよ? 朝井主任、個人的なことあると、よく周りにアタルから……」

 そう言われると、私も色々あるのよね? と思ってしまい、思わずイライラしてもいいものかバチ当たらないかな? などと思ってしまう。

 ※※※※

 そんなやりきれない思いを感じた2日目の仕事はあっという間に終わった。残業とかと思った。
 だが「なるべく定時で帰れる時は帰りなさい」と見崎部長の一言で、私は定時を10分ぐらい回った時間に帰宅することができた。

 真っ直ぐ家路に着こうか、でも、鍵を持っていない私は、姉のスマホに連絡を入れた。

「あら? 美玲《みれい》じゃない。どこ行ってたの? 今日ご飯食べるの?」
「あっ、和姉《かずねえ》、家にいるの?」 
「ええ、家よ? どうしたの?」
「お姉ちゃん、出張はもういいんだ?」
「ああ、帰ってきたわよ?」
「ならいいの。由雄さんいる?」
「えっ……。あぁ、まだだけど、それがどうしたの?」
「うううん? いいの。じゃあ今から帰るね……」

 そう言って私は電話を切った。由雄さんがいない今なら、帰って荷物を持って出ていける! そう思った私は家路を急いだ。

 会社から姉マンションは数駅行ったところ。18時も少し回った時間帯、近所では夕食の時間帯なのか、芳しい食事の匂いが、姉マンション付近に立ち込めていた。

「ただいま〜」

 玄関の扉を開けて、1日振りに姉のマンションに着いた。
 玄関口からもう晩御飯の匂いが立ち込めていた。いい匂い……と玄関を抜けてリビングへ入った。

 あっ……。私は思わず体が硬直した。

「おかえり」

 そう言ってきたのは、姉の旦那の由雄《よしお》さんだった。なんで居るの? リビングにもキッチンにも姉はおらず、旦那の由雄さんは、一人キッチンテーブルの椅子にかけて、一人晩酌をしていた。

「どうしたの?」
「……」
「何固まってるの? 荷物置かないの?」

 何の違和感もなく聞いてくる由雄さん。私は一瞬でイヤ〜な空気感に囚われた。
 何でこの人、こんなに落ち着いて私に挨拶できるのよ……。少し怖いながらも、私は小さく「ただいまです……」と由雄さんに挨拶をした。
 居場所に困っていると、由雄さんが何食わぬ顔で聞いてくる。

「自宅に着いたんだから、服装、着替えなくていいの?」

 この人、私の何を求めてるのよ……。そう思い「いえ……。ところでお姉ちゃんと和馬くんは?」と端的に聞き返す。

「ああ、居ないよ? 今お泊まり会のお迎えに行ってると思う」
「……そっ、そうなんですか……」
「どう? 美玲ちゃんも一杯やりなよ? 仕事疲れたでしょ?」
「い、いえ……。私は……」

 そう言い返すと、由雄さんは、「じゃあ着替えないの? 家やで? 身軽な格好の方が落ち着くし……」と上目遣いで私の顔を覗き見るように見てくる。

 「あっ、いえ……」

 私は由雄さんの言葉と、ちょっとした上目遣いに恐怖心を感じた。
 和馬くんの部屋に荷物を取りに行こうと小さな和室に入る。電気をつけようと手をスイッチに伸ばした。するとスッと私のすぐ後ろに立つ由雄さんの気配を感じた。

「えっ……」

 私はびっくりして和室の隅に急いで身を縮み込ませた。

「なっ何なんですか?」
「フッ……」

 電気もつけずに由雄さんは、和室の襖《ふすま》を閉めた……。

 えっ……。ちょっとやだ……。何してるのよ……。この人……。

「ふたりだよ……」

 由雄さんの思わぬ言葉に、私は恐怖を感じた……。
 ゆっくりと閉めた襖から私の元へ歩み寄る由雄さんは、膝をついた。そして赤ちゃんがハイハイするように屈み込むと、頭を急に下げた。

「ごめん! 美玲ちゃん!」

「……」私は黙ったままだった。

 急に頭を下げて由雄さんは和室に電気もつけずに、私に膝をつき、土下座をするように頭を下げた。

「だから、ごめん……美玲ちゃん……許して欲しい」

 私は身を捩《よじ》らせながら、由雄さんの行動を見守った。

「幾ら酔っているとは言え、俺、義妹に女性を感じてしまったんだ。和美《かずみ》には黙ってて欲しいんだ! お願いします! 悪いと思ってる。でも俺……、美玲ちゃんのこと一人の女性として思ってしまったんだ……」

「えっ……」

 この人……何言ってるの? 正気なの?

 由雄さんの私へのあらぬ告白めいた言葉とは逆に、和姉の旦那を保っていたいと言うチグハグな思いがあることに私はこの男に気持ち悪さを覚えた。

 何言ってるの? この人……。義妹に手を出そうとしただけでもキミ悪いのに、ストレートに義理の妹に好きなんて言ってて恥ずかしくないの?

「美玲ちゃん……。君に女性を感じたんだ……。ダメなことぐらいわかってる! でもこの衝動は抑えられないんだ……」

 由雄さんは土下座をしながら、ゆっくりと私に近づこうとしてくる。

 いや……。こないでよ……。何なのこの人……。

「ヤメてよ。言い訳がましいこと……私……こわっ……こわっ……かった……」

 私は言葉にならない言葉を、由雄さんに浴びせた。
 すると由雄さんは、私に土下座をしながら、叫ぶように言った。

「ごめんなさい! 許してください!」

 この状況、私はどうすればいいのよ……どうしたらいいの?
「だから、君は悪くない……。悪いのは俺なんだ……。でも……、好きなんだ!」

 だから、何を言ってるのよ……この人。気持ち悪い……。

「だから!」

 由雄さんはそう叫ぶと私の両腕を掴もうとしてきた。

「イヤッ! ヤメてよ! 何なの……何なのあなた……。それでも和姉の旦那なの?」

 そう言うと私は、由雄さんの腕を振り払った。

「ちがっ、違うんだ……!」

 何が違うのよ! 何が! 私は怒りと恐怖を同時に感じた。この家にいると私がおかしくなると思い、和室の隅にあったスーツケースと財布、鞄を持ち土下座する由雄さんの横を通ろうとした。

 すると由雄さんは私の足にしがみついてくる。何? 何なの? この男……。怒り任せに私は、「ヤメてよ! 姉に言うわよ!」と言うと由雄さんの腕は私の足を持つのを辞めた。
 このままこの家にいることは、恐怖の生活があると思い、私は襖を開けるとリビングを抜けて玄関口に急いだ。

 その時だった。「ただいま〜」と姉と和馬くんの声がして玄関の扉が開いた。

 玄関で靴を履こうとしていると、姉が和馬くんを連れて帰ってきた。

「あらら? 美玲……どうしたの?」
「美玲、あちょ〜!」

 何食わぬ顔をしている姉が可哀想になり、私は無言で靴を履き、姉のマンションを後にした。

◉第21話相談と言葉の意味

 その日、私は姉のマンションを飛び出した。
 由雄さんのあのいやらしい目つきと言葉に嫌気がさした私は、帰ってきた姉の言葉など無視して出ていった。

 また数日ホテル暮らしでもしようと、駅前の昨日神崎さんと泊まったホテルに向かう。しかし今日は満室だということで、泊まることはできず、仕方なく私は大阪の繁華街をスーツケースを片手にウロウロとしていた。

 また神崎さんに出くわすんじゃないかとコンビニに立ち寄り、飲み物を買った。だけど、その日は深夜帯でもないためか、ナンパ男にも、ましてや神崎さんにもできくわすことはなかった。

 その時会社で考えていたことを思い出した。
 昨日神崎さんに借りたホテル代を返す段取りで、神崎さんにメッセージを送ってみようと、今朝のホテルの朝食後、別れ際に交換したメッセンジャーアプリを立ち上げた。

【お疲れ様です。昨日はありがとうございました。伊月です。昨日お借りしたお金を返却したいので、いつでもご連絡いただけるとありがたいです】

 するとすぐに既読が付いた。

「あっ!」と思わず声に出たら、すぐに返信が返ってきた。

【お疲れ様です。昨日はこちらこそお酒付き合ってもらえてありがとう。返却? いつでもいいですよ? それとも昨日の件でまた何かあったかな? 少し心配です】

 丁寧な言葉で返信が返ってくる。そして私は今会いたい思いが募る。私は意を決してメッセージを送ってみた。

【神崎さんは、まだ出張中ですか? お時間あれば、ご相談に乗っていただけませんか?】

またすぐに既読がついて返信が来る。

【大丈夫? 僕でよかったら、相談に乗るよ? 仕事はあと15分ぐらいで終わりだから、食事でもしながらどうですか?】

 私は神崎さんに頼りっぱなしになっているかな? と少し思ったけど、こんな心強い男性いないと思い、【お願いします】と返信すると待ち合わせ場所を指定された。

※※※※

 大阪梅田の繁華街。JR沿線沿い、ジャパンリビングの本社ビルにほど近い、食堂街で私と神崎さんは落ち合った。

「ごめんね? 遅くなって」と現れた神崎さんは、今朝と同じスーツ姿だ。
「いえ、こちらこそありがとうございます」と頭を下げると、昨日借りたお金を差し出した。
「あぁ〜、いいよいいよ」と言う神崎さんに対し、私は「ダメです!」と言い返す。

 すると「じゃあ、今日は食事奢ってもらおうかな? それでチャラで」ととぼけた口調で言ってみせた。

 こういう笑顔を、昨日あたりから見せてくれるようになったなぁ……と少しクスクス笑うと、「どうしたの?」と尋ねてくる。

「いえ、じゃあ、今日は奢らせてください!」と私は「こっち……」と神崎さんを食堂ビルに誘った。

 最上階まで上がると、景色の良いレストランがある。そこは以前姉とランチを食べた場所だ。そこで今日は神崎さんとディナーをすることになった。

「いらっしゃいませ」と黒ベストを着たウエイターが席に案内してくれる。男性とこういうお店に来るのは、ずいぶん久しぶりだなぁ……と私は相談事にも関わらずちょっとしたドキドキ感を味わう。

 席に案内され、注文、配膳されると、私たちは昨日と同様に「乾杯」とグラスを合わせた。神崎さんは、口に少しお酒を含むと私に尋ねてくる。

「どうしたの? ちょっとびっくりしたけど、やっぱり昨日の件で何かあったんだね?」

 私は意味ありげにコクリと頷《うなず》いた。

何と説明していいのか……。少し戸惑うと、まるで昨日の出来事もわかっていた様に私に尋ねてくる神崎さんの姿があった。

「お姉さんの……旦那さんだよね?」

 私が説明しなくとも、この人はわかっていたんだと思い知らされた。
 それにも私はコクリと頷く。すると神崎さんは、「警察沙汰にはしたくないんだよね?」と昨日と同じ言葉を吐いた。

 「……はい……」私は小さく頷き、神崎さんの目をみて言った。

 神崎さんは、額を指で掻いて、上を向いて「うーん」と唸った後、名案を思いついた様に「なるほど」と頷き直した。

「えっ……」

 私は、少し戸惑った声を出した。すると神崎さんは、魔法使いか霊能者の様に、私と和姉の旦那さんとのやりとりを口にする。

「旦那さんに、襲われて、怪我はない? そこが一番大事」
まるで見てきた様な物言いにびっくりしながらも私は「ありません」と答えると、もう一度上を見て、口を尖らせて考える仕草をした。

 また今度も思いついた様に手を叩くと、神崎さんは言葉をゆっくりと言う。

「家は出たほうがいいね。それに、嫌じゃなければだけど、間《あだい》に入ろうか?」

何もかもおんぶに抱っこの様な口ぶりに私はびっくりして、思わず答えた。

「神崎さんに何でもお世話になりっぱなし……。何でそこまでしてくれるんですか?」

 私は自分の言った言葉に戸惑い、次の神崎さんの言葉を思わず待ってしまった。

 神崎さんは戸惑うことなく、私に真剣な眼差しを向けて言い放つ。

「伊月さん……。君が気になるからだよ」
「えっ……」

 私は、その言葉に顔を赤《あからめ》た。


◉第22話思わぬ誘い


「伊月さん……。君が気になるからだよ」
「えっ……」

 ある種告白めいた言葉に私は顔を赤くした。だが神崎さんは続けて言う。

「嫁入り前の女性に、ましてや義兄の男が何をやってるんだか……。それでも男かよって思うんだよね。まぁ精神的に参ってると思うけど、体的には何もなかったのがよかったよ」

「あっありがとうございます」

「いわば犯罪だよ! ったく! 放って置けるわけないよ!」

「まあまあ……落ち着いてください。神崎さん! 落ち着いてください」

 熱く私のためと、必死に庇ってくる神崎さんの姿を見て、びっくりしたのと同時に少し熱くなり過ぎている神崎さんを私は正した。

「ごめん……。ちょっと熱くなり過ぎたかな!?」と神崎さんは私の言葉に落ち着きを取り戻したのか、小さく謝る。

「でもそこまでおっしゃってくれて、とても感謝します。私もめげずにいれそうです」

 そう答えると神崎さんはにこやかな顔つきになり、店員を呼んでビールのおかわりを注文した。

「でも神崎さんは何故私のことにそこまで親身になってくれるんですか? ちょっと前の神崎さんのイメージと違ってて……。嬉しいやらなんやらで……」

 と返答を返すと、神崎さんは照れ笑いをした後、私に向き直し真剣な目つきでこう言った。

「好きだからさ……放って置けないんだ」

 その言葉と神崎さんの顔を見た時、とても冗談で言ったいる風には見えなくて、ドキッとして、思わず下を向いてしまった。こんな真っ向から自分の気持ちを言ってくれる人が目の前にいる事に私の鼓動は高鳴った。

 どうしよう……。どう答えていいかわからないや……。私、今どきどきしてる……。

 夜景を望めるレストランで、雰囲気がいい音楽が流れるこのしっとりした空間で、男性にそんなことを言われるとは思っても見なかった。

 一昨日までの神崎さんはと全く違う印象を受けて、私はその言葉に微笑み返すと、神崎さんも微笑んで私に言った。

「誘ってもらったレストランでなんだけど、ちょっと話したいことがあるんだ。食事の後時間あるかな?」

「えっ……」

 私は固まった。どう答えていいかわからずにいると、神崎さんは続けて言う。

「ああ、あまり重たく気にしないで。ちょっと出張でいいところ見つけたんだ。一緒に行ってもらえるとありがたい」

 そう言われると、私はコクリと頷いた。するとテーブルに食事が運ばれる。

「さぁ、冷めないうちに食べよう。いただきまーす!」

 神崎さんは、私に向き直すと美味しそうにパスタを頬張り笑顔になった。私もテーブルに運ばれたパスタとお酒を少し口に含むと、夜景の見える食事の場を楽しもうとフォークとスプーンを手に取りパスタを食す。この後の神崎さんとの展開を想像しながらパスタを口にしてその空間を楽しんだ。

※※※※

 パスタを食べた後、私はお会計を済ませると、神崎さんの手招きでエスカレーターを上がる。上に行くのか、何があるんだろう? 姉と来た時は上には上がらず帰ったため、少し気になった。

 エスカレーターが上に上がっていくと、全面ガラス張りの大阪の駅周辺を一望できる夜景スポットらしい場所に連れてこられた。
 一面ガラス張りの、夜の駅を下方に望める場所。そして奥にはビルビルの間から山並みが目にできる場所。このビルにこんな場所があるなんて知りもしなかった。

 その場所で神崎さんは、ベンチに腰掛けるように促す。ここはカップル御用達の場所なのか、私たち以外の男女も数名いた。
 神崎さんは、ここに私を連れてきたかったらしく、「大阪支部のスタッフに聞いたんだ」とつぶやいた。

「わあ! 綺麗!」

 私は大阪の都心を一望できるこんな場所がある事に感激した。
 すると神崎さんは、「そのままでいいからちょっと僕の話、聞いてくれる?」とちょっと真面目な口調で話し出した。

「君が僕のことをどう思ってるかはわからない。でも、先日から伊月さん、君のことが気になって仕方ないんだよね。それに今回の旦那さんの件も助けになりたい。こんな俺で良かったら、付き合ってください」

「えっ……。どうして……。やっぱりサエさんと関係ありますか? 私はそんな出来た女じゃないし、つまらないかもしれない……。それに私はいつも助けられっぱなしだし……。そんな私の、そんな私の……。どこに……」

 そう返答をすると、神崎さんは、一段と優しい顔つきになり私に向き直した。
 そして……。

「この後少し時間ある?」

◉第23話問い詰めと土下座


「由雄さん、そして和姉……。聞いてほしいことがあります」

 先日姉マンションを飛び出し、その後神崎さんとの食事をした際、神崎さんのある提案で、今、神崎さんと姉マンションに由雄さんの事件の追求に来ていた。
 ちょうど由雄さんも姉もおり、私と突然訪れた神崎さんとで、姉はちょっと不穏な空気感を漂わせながら、ヨソヨソしくお茶をテーブルに置いた。

 私の一言で始まった対話形式の問い詰め。いわゆる先日由雄さんに襲われそうになった経緯を姉のいる状態で、私は話している。
 最初は躊躇したが、先日神崎さんとの食事をした後、私は神崎さんから告白を受けた。

「君を守りたい。サエと被ってしまい、迷惑かもしれない。でも俺はサエにできなかったことを今度は伊月美玲さん、君にしてあげたい。そんな思いでいっぱいなんだ。迷惑じゃなかったら、俺が君の支えになる。付き合ってくれないか?」

「えっ……」

「そして、今抱えている、お姉さんの旦那さんとのイザコザを収束させよう。俺ももちろん力になるから安心してほしい。それが終わったら、俺は君との付き合いが楽しみだ!」

 神崎さんに言われた言葉が私を勇気づけた。
 そして今日、この今、私は由雄さんを目の前にしても、躊躇することなく対話できると確信していた。横にはもちろん神崎さんもいる。

「由雄さん、先日、姉という存在がありながら、私を襲おうとしましたよね?」

「……」由雄さんは黙ったままだ。

「どうなんですか? 私は先日のやりとりを恐怖に感じ、もうこの姉マンションで住めません。実際、あなたを男性としては見れません。答えてください」

そう言うと、姉が間に口を挟む。

「本当なの? 美玲……。由雄さん……。あなたどういうこと?」

「……」

 由雄さんは黙ったままだ。

「あなた! 答えて! 美玲の言うことは本当なの?」

 和姉が今度は由雄さんを問い詰める。しかし由雄さんは黙ったまま無言を貫いていた。私は間髪入れずに突っ込んだ話をする。

「黙ると言うことは、認めると言うことですね? 由雄さん」

 そういうと由雄さんはやっと口を開いた。

「……君がいけないんだよ? 美玲ちゃん……」そう言うと今度は姉が口火を切った。

「穢《けが》らわしい! 私の妹のせいにしようって言う気? 由雄! あなた、ちゃんと真っ当なこといいな! あんたの女好きは今に始まっちゃいないからね!?」

 和姉が由雄さんにキレた。

「……言いがかりはやめてくれ! 俺は無実だ!」

「無実なら、何故美玲がこんな訴えを、わたしたちの前でするの!? ちゃんと答えな由雄!」

 更に和姉は由雄さんにキレて問いかける。由雄さんはダンマリを決め込んでいるようだったが、和姉は躊躇することなく、私の性格を知ってか、由雄さんに言葉のパンチを浴びせた。

「あんたねぇ! 他の女に手を出すんならまだしも。私の妹に手を出そうとしたあんたは不潔でゲスいよ! この事件、どうする気!? 美玲が警察に言わないのは、あなたを思ってのことよ!?」

 流石は元ヤンの和姉は由雄さんに食ってかかった。すると由雄さんは、観念したかのように首を項垂れ、ベソを描くように啜り泣きながら質問に答え始める。

「ごめん……。美玲ちゃん……。俺が悪かった……。許してほしい! どうすれば許してもらえるだろうか……。俺は、俺は、とんでもないことをしてしまったな……」

「本気で思っているなら、私にも、お姉ちゃんにも頭をついて謝ってください! 後の判断は和姉に委ねます。そして二度と私の前に現れないでください!」

  そういうと由雄さんは、和姉に向き直し、頭を擦り付けるように土下座をして謝った。

 その行動をみた神崎さんはある用紙を取り出し、由雄さんに見せた。

「念書です。金輪際《こんりんざい》、伊月美玲さんの前に現れないでください。そしてこの念書にサインをいただけますか? もし破った場合は、警察に通告します」

「……くっ……」

 由雄さんは、悔しいのか唇を噛み締めながら、わたしたちの要望に応える他ないようだった。その横で姉の和美は、ため息をつき頭を抱え込んで泣きそうな顔つきになっていた。それを見るとどうしても数姉に謝りたくなった。

「ごめん……和姉……。こんなことしたくなった……。けど、これしか方法が思いつかなかった……。ごめん……」

 そういうと和姉は何度か頷いた後、私に向き直し「アンタは悪くない、この由雄が悪いんだ……。美玲、アンタは気にしなくていいよ。こちらこそ迷惑かけたね……美玲……」と半べそになりながらも必死に怒りを由雄さんに向けている姿があった。

 念書を描き終えると、由雄さんは再度、私と和姉に頭を擦り付けながら土下座をしていた。

「ずっといいよと言うまで、アンタは頭を擦り付けときな! もう頭を上げるんじゃないよ!?」

 和姉の言葉通り、私と神崎さんが立ち上がり、帰り際もずっとその姿勢を続ける由雄さんがいた。

◉第24話 優しいくちびる

 あれから数日が過ぎたある日のことだった。その後数日間私は、ホテルに泊まっていた。そんな会社帰りの夜、和姉から電話がかかってきた。

「美玲……本当にごめんね? 私、離婚しようと思うんだ……。もし良かったら、私の家、部屋に空きがあるから、しばらくならいれると思うよ? ホテルだと高いでしょ?」

 心配の電話だった。でも私は、新居を探してると言い、断りを入れた。その時だった。姉は思わぬことを口にした。

「前に神崎さんと一緒に来た時に感じたんだけど、神崎さんと美玲、アンタ付き合ってるの?」

 思わぬ問いに私は少し口籠ったが、「うん……先日からね。神崎さんに助けられっぱなしなんだよね」と返事を返すと、姉は「良かったね! 大切にしなよ?」と、自分の辛さを隠すように私の応援をした。
 でも嬉しいはずのその言葉が妙に悲しくて、私は姉の言葉に「ごめんね……お姉ちゃん……」と謝ってしまった。

 すると和姉は、元気な声で「何言ってるのよ! 悪いのは由雄なんだから! アンタは気にしない! いいね!」と電話は切れた。

 姉の言葉に助けられている私がいる。それに今夜、神崎さんがまた大阪に出張で来る事になっていた。今夜、姉の家であった時以来、神崎さんに久しぶりに会う予定だ。
 今宵は大阪ミナミを散策してみようという事で、初めて難波に来てみた。北エリアと少し違う空気感にまた新しい大阪を感じている。道頓堀付近で待ち合わせだ。
 流石ミナミというだけあってか、人混みでどこから神崎さんがくるのか、キョロキョロと辺りを見回していた。今日は少し遅刻かな? それとも神崎さんも迷っているのかな? と思っていた。
 スマホに着信がないか、スマホを取り出してみたが、SNSアプリに着信が1件入っていた。
【もうすぐ着くよ! 戎橋の左側だよね?】
 神崎さんからだった。私はすぐに【うん。左の通路側ね】と返信を入れた。
 もう少ししたら神崎さんに会える!そう思った時だった。後ろから肩を叩かれた。

「神崎……さ……ん?」

 神崎さんだと思った……。でも後ろに立っていたのは神崎さんではなく、由雄さんだった……。

「えっ……なっ何ですか? あなた……」と言った時だった。

「君のせいだ。君が悪い! バイバイ美玲ちゃん、悲しいよ……」

 そう言われた時だった。横腹にグッと強烈な痛みが走った。一瞬の出来事で、何のことかわからなかった。下腹部には包丁が突き刺さっていた。

「えっ……由雄……さん……?」

 叫ぼうとしたが叫びにならず、私はその場に崩れ去った。

 由雄さんは慌てるように何処かへ逃げる……。周りが私の異変に気づいて、近寄ってくる……。
 神崎さんだ……。神崎さんが私の名前を呼んでいる。叫んでる……。応えたいけど、言葉にならない……。

 神崎さん……。どこへ行くの? 神崎さん? 

 神崎さんは由雄さんを見つけたのか、追いかけていく……。

 私……。どうなるの……。お腹は痛くない……。
 目の前が揺らいていく……。死ぬ時って……こんな感じなの……!? 
 自殺しようとしたけど……、今は死にたくない……。だって……。だって……。
 神崎さん……あなたがいたから死なずに済んだのに……。今更死ぬなんて……。
 いや……。いやだ……。私……。

※※※※

「伊月さん?」

 その言葉に気づき目を覚ます。白いカーテンに囲まれた一室。白色のナース服の女性が声をかけていた。左手首には名前を示すバンドと点滴の管が腕から天井部に伸びている。
 看護師が病室から先生を呼びに出て行く。私は、何度か瞬きをしながら、なぜここにいるのかを思い返そうとした。その瞬間だった。脳裏に浮かんだ由雄さんの言葉……。

「君のせいだ。君が悪い! バイバイ……」

 えっ……。私……。そうだ。神崎さんとの待ち合わせで、由雄さんにお腹を刺されて倒れんだ。体を触ろうとしたら、ゴツい包帯が撒かれてあった。

 脳裏に甦った最後の映像が私を恐怖に陥れた。体が硬直して拳をグッと握りしめた。唇が震えて、歯を食いしばった。

 そうだ。私、由雄さんに刺された……。神崎さん……神崎さんはどうしたんだろう……? と首を病室の扉へやった。

 ガラッと扉が開いた。医者と看護師、そして神崎さんと和姉が慌てて入ってくる。

「美玲ちゃん! 良かった! 目覚めてくれて……ああ! 良かった……」
「美玲……。本当に大変な事になってごめん……」

 その声と同時に先生も話し出す。

「とりあえず、手術は成功している。親御さんには連絡を入れているから、しばらくしたら着くと思う」

 和姉は私の横に擦り寄った。
「本当にごめん。元旦那がこんな事件起こすなんて……。美玲生きてて良かった……」
「由雄さんは……?」

「美玲ちゃん、大丈夫。由雄さんは、捕まえたよ。今さっきまで警察の事情聴取を外で受けてた」

「神崎さんが……捕まえてくれたの?」私は小さくつぶやいた。

「ああ! もう大丈夫。ゆっくりと体労って……」
「……神崎さん……。和姉……。ごめんね……」

「何でアンタが謝るのよ……美玲……。もうアイツは捕まえたよ。安心しな」

 その言葉を聞いたら、私は何故か体の力がゆっくりと抜けていく感じがした。ゆっくり目を閉じた……。

「ごめん。美玲ちゃん……。俺、君をこんな目に合わせてしまった……。本当にごめん、俺が出しゃばって、由雄さんを問い詰めようって言ったばかりに……本当にごめんね……」

「……神崎さん……。気にしないで……。私、生きてる。もう死のうとは思わない……。だってこれだけいろんな人に支えられてるんだから……あっイタタタ……」

 急に横腹に痛みを感じた。すると先生が小さく私に言う。

「まだ完全じゃない。あまり無理はしないように。ゆっくりと寝て回復することを考えて」

 聴診を当て終わり、脈を確認すると「大丈夫……ゆっくりと休んでください」と言って先生と看護師は消えて行った。

「もうちょっと寝るね……その前に神崎さん……安心が欲しい……」

 私は姉がいるにも関わらず、神崎さんの安心感が欲しいと唇を尖らせた。神崎さん、いや、修《おさむ》は私の唇に軽くキスをした。

「ちょっと寝るね……」
「もう終わったから、ずっとそばにいるから、心配しないで……」

修は私の手を握った。その顔は安堵に満ちていた。

その言葉に私は言い返す。

「これからが私たちの始まりでしょ!?」

「そうだね」

 告白された時以来の優しい修のくちびるを感じたあと、私はゆっくり目を閉じた。

◉第25話 最終話 その後のふたり

「修さーん、待って!」
「大丈夫? あんまり無理はダメだよ!? まだ完治してないんだから」
「大丈夫……。でもこんなに山の上だと思わなかったから……」

 私は神崎さん、もとい、修《おさむ》さんの幼馴染で、修さんの高校時代に亡くなったサエさんのお墓参りに一緒に来ていた。

 これは私が修さんに懇願したことだった。
 と言うのも、修さんに私の自殺を救ってくれてからと言うもの、立て続けにいろんなことが起こった。そして最悪、死にかけそうになった先日の由雄さんに刺された事件に於いても私は死なずにすんだのだ。

 医者の先生曰く「少しでも刺さった刃物がずれていたら死に至っていた。致命傷を負わずに済んだのも奇跡だよ」と言われたことで、これは何かしら助けてもらった修さんの幼馴染のサエさんとの繋がりを感じたからだ。

 実際、治療の入院中の夜、私はある夢を見た。それは笑顔で「良かったね」と囁《ささや》かれ、空の上に上がっていく女性の姿だ。
 そのことが気に掛かり、私は修さんに昔のサエさんの写真を見せてもらえるように懇願した。

 するとやはりだと言うべきか、高校生の時の写真を見た時に思った。夢で見たのはサエさんが私を呼ぶ夢だったと言うこと。

 退院した暁には、お礼を言いにお墓参りに来なくちゃと思っていたのだ。
 そして今日ようやく念願が叶った。しかしこんな山奥にあるお墓だとは思ってみんなかった。ようやくサエさんが眠るお墓に着いた時だった。

「ハァ! ちょっと修さん!」
「何? やっぱり手を貸した方がいい?」
「違う! 見て! 空ぁ!」

 私はある種祝福を受けたようにも感じた。お墓のある場所から見える海と山のグラデーション。そして海の方へと伸びるのは、さっきまでの雨が上がった後の大きな大きな虹だった。

「ねえ、修さん、私たちサエさんから祝福されてるね?」
「ああ! かもなぁ! 綺麗だな!」
「キレイ!」

 地平線に伸びる海沿いへと続く道へ山間から伸びる大きな虹。その虹に向けて鳥の大群が大空へと向かって飛んでいった。

 その時だった。私は頭の上から声が聞こえたように感じた。まるで夢と同じ情景のように、鳥が大空の天国へと上がる景色を見ている時だった。

【良かったね! おしあわせに!】

 小さく聞こえた声は、わたしたちを祝福しているようだった。

「あっ!? 今……。聞こえた!?」

 私は修さんに尋ねると修さんは小さく頷いた。

「ああ! 聞こえたよ! 祝福されてるね。俺たち……」

 そう……。祝福だ。そして二人の恋の物語が始まるんだ。……そう感じる瞬間だった……。


◆了◆

長い間ご愛読ありがとうございました。これにて完結です。









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