「小説の技法」Lesson21 「エスパー作者」は今もいる!

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 小説の代表的な人称。一人称と三人称ですね。一人称は、勿論、「私、僕、俺」など、小説の主人公自らが語り手となります。視点は自分。主人公が見たり、聞いたり、体験したり、思ったり、感じたりしたことを綴ることで小説は進みます。主人公は異能者でない限り、自分のことしかわかりません。「博美」が思っていることや考えていることはわかりません。だから、書いてはなりません。書いていいのは、「とでも思っているようだった」という推測までです。ここ、しっかり、心に焼き付けましょうね。相手の感情をぽろっと書いてしまう「エスパー作者」います。あなたは人の考えがわかるか? 厳禁なのは常識です。

 次に、三人称というものがあります。三人称は、実は二つに分かれます。知っていました?

 小説で飯食いたい人、真剣に読んで下さいよ。結構、難しい話です。
 一つ目は「彼、彼女、名前」など、主人公を客観的に書きだして進めていく小説ですね。「隆史は誰より早く走った。叫びたいほど嬉しかった」って形式です。皆さん、一般的に、よく使われるでしょう? 隆史の行動、感情、思考を追っていくことで小説は成立します。

 三人称の二つ目は、通称「神の視点」と呼ばれます。エラリー・クイーンとか、過去の推理小説などで使われています。この「神の視点」に限り、全員の思考、感情が書きだせます。「アガサは普通のことだと思った。ジュディも同感だということを示すため、アガサにウィンクして見せた。ジャックは、そのやり取りを見逃さなかった」。最近、あんまり使われませんよね? ミステリーでくらいしか利点がないです。難しいし。作者=神ですから、何もかにも書けるんです。注)章ごとに、主人公=視点が変わるのは、一つ目の三人称です。

 で、ここまで理解したら、うっすらわかってきませんか? やらかしたことのある人は。
そう、一つ目の三人称で、うっかり、なのか、規則を知らないのか、隆史以外に視点がずれる人いますね。大初歩のミスです。「隆史は誰より速く走った。叫びたいほど嬉しかった。それを見て、桃子は満足して微笑み、立ち去った」。はい、これが、皆さんがやらかす、独学だとやっちゃうミスなんです。これ、どこがおかしいの? わからない人、いるかもしれません。お兄さん、お姉さん、や、勘のいい人なら、あっちゃ~って、わかるはずです。

 隆史が主人公の小説なのに、映画のカメラがいきなりパンするみたいに、桃子の見ている光景や感情にずるんと地滑りします。一つ目の三人称を取っている場合、桃子の感情も思考も、同一章内で書いてはいけません。えー! じゃあ、何も書けない! そう、書けませんよ。当然の人には当然のこと。自然なんですが、BL系とかで昔多かったですね。どっちの恋心も書きたい人。それ、なんていうか、仲間内でやってて下さい。もしくは、作品を分けるか。「隆史は腹が立って、桃子に手を上げた。初めてだった。桃子は頬を抑え、悲しさのあまり声を上げて泣いた」さぁ、どこが間違いか? (答え:悲しさのあまり)です。

 要は、一人称と同じ。三人称でも、自分=主役の感情、思考しか書いてはいけません。最初は混乱するかもしれませんが、落ち着けば、間違えません、規則です。

 そんな拘束を受けたくない方、デビューして業界の常識を壊してみて下さい。
 明日は、そんな傑作を紹介しましょうか? まず、私たちは規則をマスターしてからです。 

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