丁寧なようで失礼な表現~日本の社会通念上の不適切さ

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コラム
秘書が社長に次のように言ってお茶を勧めたらどうでしょうか。
「社長、お茶を入れてさしあげましょうか?」
丁寧に言っているようでなんだか失礼なような、モヤモヤしてしまう言い方だと思います。
モヤモヤの原因は「~て差し上げる」という表現を直接恩恵を受ける相手に使っている点にあります。
「お茶を入れてあげる」「手伝ってあげる」「席を譲ってあげる」など自分が他の人に喜ばれる行為(恩恵的な行為)をすることを表す際に「~てあげる」という表現が使われますが、「~てさしあげる」はこれをさらに丁寧にした言い方(敬語の分類で言うと謙譲語にあたる)です。では、丁寧な表現を使っているのになぜ失礼な印象を与えるのかというと、自分自身が相手に恩恵的な行為をすることを相手の面前で言うことは日本の社会通念上、相手への配慮に欠けた失礼な行為ということになります。日本語では、自分でお茶を入れた場合であっても「お茶が入りましたよ」と言うように自分の行為を背景化してお茶が飲める状態になったという結果を言語化することがあります。冒頭の場面では、秘書が社長のためにお茶を入れるという自分の行為を社長の面前で言語化している点に違和感が生じるということです。「社長、お茶をお飲みになりますか」「社長、お茶はいかがですか」のように表現すれば何も問題がない。
 ただ例外として、自分が恩恵的な行為をすることを明言する場合でも、「お嬢ちゃん、荷物を持ってあげようか」のように年下の相手に対して発言する場合は社会的に失礼な言動とはみなされません。恩恵的な行為を受ける相手が目上の人で、且つその人が前の前にいる場合に直接「~てあげます、~てさしあげます」と言うと日本では失礼な言動になってしまうということです。
 「お茶を入れてさしあげましょうか」という表現は文法的には間違いではありません。二人の秘書が社長がお疲れの様子を見て、「社長にお茶を入れてさしあげましょうか」「そうですね。そうしてさしあげてください」などと二人の間で話すのはまったく問題になりません。このように文法的には正しくても、社会通念上不適切になってしまう誤用を「語用論的誤用」と呼びます。
 日本語が上手な人でも、日本の社会通念を身につけるには時間がかかります。したがって、「語用論的誤用」は日本語レベルの高い人にとって大きな問題となります。文法的に正しい日本語を使っているだけに、「こんなことを言うなんて失礼な人だ」などと人格の問題にされてしまう危険性があります。日本で働いていらっしゃる外国人の方、また日本で暮らして周囲の日本人と良い人間関係を築いていかなければならない外国人の方たちには、ぜひこのことを知っておいてほしいです。
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