中小企業経営のための情報発信ブログ300:経営はデザインそのものである

記事
ビジネス・マーケティング
今日もブログをご覧いただきありがとうございます。
さて、今日は、博報堂コンサルティング著「経営はデザインそのものである」(ダイヤモンド社)を紹介します。
近年、デザイン思考というものが経営において注目されてきています。デザイン思考というのは「デザインに必要な思考方法や手法を利用してビジネス上の問題を解決するための考え方」のことです。
特許庁もデザイン経営を推進しています。「デザイン経営」というのは、デザインの力をブランドの構築やイノベーションの創出に活用する経営手法で、その本質は、人(ユーザー)を中心に考えることで、根本的な課題を発見し、これまでの発想にとらわれない、それでいて実現可能な解決策を、柔軟に反復・改善を繰り返しながら生み出すことと言われています。
ここのところ流行ってきているデザイン思考、デザイン経営の先駆けと言っていい本が本書「経営はデザインそのものである」です。持続可能な成長を続ける会社には共通するポイントがあった、それがデザインだということです。本書は、良品計画社長金井政明氏、スマイルズ社長遠山正道氏と言う経営の最前線の声を交えながら経営にデザインを導入するための実践的方法が説明されています。
まず、本書では、共感を得て、指示される企業が持続的な成長を実現するとして、生活者から共感が得られるビジョンを策定し、様々な企業活動に落とし込んだ3社の例が紹介されています。その3社とは、ユニリーバ、トヨタ自動車、王子ネピアの3社です。この3社に共通していることは ①ビジョンが生活者と共有可能な3つの視点(経済性・文化性・社会性)を有していること ➁そのビジョンを具現化するための活動は生活者の共感・支持を得て、結果として事業成果につながっていることです。実際にこうした経営のあり方を導入しようとした場合の方法論が「デザイン」だというのです。
デザインを経営の中で最も重視している会社がアップルです。ジョブズは、「普通の人にとっては『デザイン』というのはベニヤ板さ。でも僕にとってはデザインというのは人工物の基礎になる魂のようなものなんだ」と言っています。アップルの経営におけるデザインの力は、①生活者も社員も共有し、共に目指したいと思える未来像を創ること➁その未来像を具現化するために、すべての企業活動に一貫性を持って落とし込むことという2点に集約されます。
これを前提に本書では、デザインとは「生活者が魅力を感じる未来像を構想し、形にする方法論」と定義づけられています。
経営にデザインを活用する5つのメリットが挙げられます。
Ⅰ:全人的な生活者から共感・支持を得られる
 Ⅱ:自社をとらえる視野が広がり、競合動向に囚われなくなる
 Ⅲ:経営に法等のリアリティが宿る
 Ⅳ:まだ世にない、新しい企業活動が生まれる
 Ⅴ:未来像実現に向けた活動を各社員が創発する
経営にデザインを導入する方法として、デザインの2つの機能に沿って、未来像を構想する「ビジョン・プロトタイピング」のフェーズと、ビジョン実現に必要な活動を検討する「アクション・プロトタイピング」のフェーズに分けるのが望ましいと言っています。自社らしいビジョンを描けるか、ビジョンに向けたアクションが描けるか。そして、生活者や社員が共感し、一緒にビジョンに向けて走り出せるか。生活者からの共感・支持を得て、持続的な成長をしなければならない中、経営者はよりよい未来を描くデザイナーになる必要があるのです。
経営にデザインを導入する方法論として「紀州梅効能研究所」「深川製磁」「東京都港区」の事例を取り上げて説明がなされています。
この3つの事例をもとに、デザインを経営に取り入れるための6つのステップが提唱されています。
まず、ビジョンに必要な発想法ですが、①事実を見る。➁選択する。③選択を組み合わせる の3つです。事実認識の中から選択し、意識的に選択を組み合わせることで自分なりの考えが構築されていくのです。その中から新たな発想が生まれてきます。
そして、先ほどの「ビジョン」と「アクション」の検討において、「構想し、形にする」と言うデザインの思考方法を活用するのです。すなわち、検討内容を言葉だけに留めず、可視化し、思考を形にしながら改善していくことが、まだ世にない自社らしいビジョン、自社らしいアクションの検討に有効になります。
「ビジョン・プロトタイピング」の3つのステップは、①論点化(生活者の暮らしを良くするための論点の特定) ➁言語化(自社が想像する未来の導出) ③可視化(自社が想像する未来のビジュアル化)です。まず、自社が属する産業と関わる生活者の暮らしを俯瞰するところから、ビジョンの検討は始まります。重要なのは「消費者」ではなく「生活者」としてとらえることです。消費者ではなく生活者、全人的な暮らしをとらえ、より広い視野を持って生活者と共有できる自社との接点を模索する必要があるのです。そのためにも自社の属する産業と関わるのはどういった生活者か、代表的な生活者像をイメージしその人の暮らしに自社が属する産業はどのようなかかわり方をしているのか、自分が生活者になりきって試行してみることが重要です。次に、生活者の暮らしを良くするための論点に対して、自社がどのような未来を築いていくことが最適な答えになるのか、生活者に対して自社が作りうる未来像を提示することです。そして、自社が想像する未来を言葉で表現するだけでなく、その未来像を、写真のコラージュやイラストなどを活用し、可視化するのです。未来の姿を具現化し、一度現実世界に置いてみることで、未来の方向性を検証し、その精度を高めることが出来るのです。
「アクション・プロトタイピング」の3つのステップは、①シナリオ化(未来の理想的な1日から必要な活動を逆算する) ➁可視化(多様なステイクホルダーに評価され、現実化する活動) ③体系化(活動の優先順位付け、時間軸での発展シナリオを作る)です。まず、自社が想像する未来を実現するために、何をどういうシナリオで行うかを設計します。ビジョン・ビジュアルで描いた暮らしのシーンを具体的な1日の行動として記述→現在の暮らしと上記の新たな暮らしのギャップを埋めるうえで最も変えるべき暮らし方を記述→自社が提供できる事業、商品・サービスのアイデアを列挙→新たに必要となる経営資源・活用可能な現在の経営資源を列挙と言う逆算で考えるのです。次に自社が目指す未来における暮らしに向けた活動案が導出されたら、それを可視化することで活動の内容をより精緻化できるようになります。そして、出てきた活動案を俯瞰して、どの活動から取り組むことが自社の創る未来像に近づきやすいかを判断し、優先順位を決定します。
ビジョン・プロトタイピングとアクション・プロトタイピングは相互に深く関係しています。そのため、アクションを検討する中で、ビジョンに修正を加えることが必要な場合があります。よりよい未来を創造するために、手を動かしながら前向きに更新をかけていくことも重要です。
経営者は、自社が作りたい社会と共有可能な未来像としてのビジョンやそのビジョンを具現化するための活動領域を構想し、社会に働きかける活動を意思決定していく主体です。絵が描けなくてもデザイナーであることが求められます。但し、経営者のみが構想し、情報発信していくだけでは、組織のダイナミズムは生まれません。組織内から横断的にミドルマネージャーを集めビジョン策定の実行チームとして組成することで、主体的にビジョン実現に向けて動く原動力を確立する必要があります。
経営にとって言葉や論理、数字は重要ですが、それだけでは心が動かされないということが多いのです。ビジョンとは、単なる夢や目標ではなく、鮮やかに視覚化された映像に近いものでなければなりません。具体的で魅力的なイメージを持てば持つほど夢に近づくことが出来ます。魅力的なイメージを描きにはデザインの力が極めて重要なのです。本書は魅力的な商品やサービスを生み出すためにデザインの力の重要性を説き、デザイン経営に取り組む方法を示してくれているので役に立つ本です。
サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す