中小企業経営のための情報発信ブログ267:世界は感情で動く

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今日もブログをご覧いただきありがとうございます。
今日はマッテオ・モッテルリーニ著「世界は感情で動く 行動経済学から見る脳のトラップ」(紀伊國屋書店)という本を紹介します。著者のモッテルリーニは、ミラノのサン・ラファエロ生命健康大学の論理学・科学哲学主任教授です。行動経済学について以前にも書いていますので参考にしてください。
アダムスミスに代表される経済学が扱う人間はホモ・エコノミクスで合理的な判断で行動するものと規定されています。しかし人間というのは合理的な判断に基づいて行動するものではありません。合理的な人間像を前提としていたのでは本当の経済を見ることはできません。そこに、これまでの経済学が現実とかけ離れていた机上の学問に成り果て現実と乖離した一因があるように思います。ダニエル・カーネマンが提唱した行動経済学は、ホモ・エコノミクスのように「完全な合理性」を持っているわけではなく、さりとてランダムにむちゃくちゃなわけでもなく「ある程度の合理性」の範囲内で決断しているとしています。
1.お金の価値は一定ではない
 例えば1万円というお金は誰にとっても1万円です。しかし価値は人それぞれ、また同じ人にとってもその時々で価値は違います。
 例えば、お金の価値はどのようにお金を得たかによっても大きく左右されます。パチンコや競馬などのギャンブルで得たお金と地道に働いて得た給料とでは価値が違ってきます。ギャンブルで得たあぶく銭の場合、「ラッキー」と思いパッと使ってしまう傾向にあります。一方で地道に汗水垂らして働いて得たお金はありがたく思え、価値を高く見積もっています。
 この本に挙げられている例ですが、
 Ⅰ:好きなアーティストのコンサートがあり、会場の入り口で2万円もしたチケットをなくしたことに気づきます。新しいチケットを購入しますか?
 Ⅱ:コンサート会場でチケットを買おうとして財布とは別にポケットに入れていた2万円がないことに気づきます。チケットを買いますか?
 最初の質問では買わないと答えた人が多く、後の質問では買うと答えた人が多かったのです。最初のケースでは、コンサートのチケット代は娯楽費に当たり、再度チケットを買うと4万円の娯楽費を支出することになってしまいます。しかし、後のケースでは、なくした2万円は娯楽費とは何の関係もなく、娯楽費として支出するのは2万円だけです。2万円か2万円相当のチケットをなくしたという結果は同じように見えても、その後の行動は大きく変わるのです。
2.人は行動を決めるもっともな理由が欲しい
 次のような例を考えます。
 Ⅰ:大変だった試験が終わり、その試験に合格しているのがわかった
 Ⅱ:大変だった試験が終わり、不合格だったことがわかった
 Ⅲ:大変だった試験が終わり、まだ合否は発表されていない
 上の3つのケースで、旅行のチケットを買おうと思いますか?
 1番目と2番目ではチケットを購入しようと思うのに、3番目のケースではそんな気分にならないというのが一般的な回答です。
 合格なら「合格へのご褒美」、不合格なら「自分を慰めるため」という理由が見つかるのですが、合否の発表がない状態では旅行に行くもっともな理由が見つからないのです。
3.引く時期を遅らせれば、引き返せなくなる
コンコルドの誤謬と言われるものです。
 例えば、自社で開発している商品があり、ライバル会社が一足早く、同じような商品を販売しました。しかも自社が開発している商品よりも性能がいいのです。これでは自社が商品を販売してもライバル社に負け、売れない可能性が高いのですが、ここまで多大な時間と多額の投資をしているのであとに引くに引けず、突き進んでしまうのです。
 この場合、商品化を辞めて撤退した方が損失も抑えることができるのに、負けを覚悟で突き進んでしまいます。
 こうした事例は枚挙に暇がありません。例えば、この本で挙げられている例ですが
 Ⅰ:スキー旅行を予約しかなり高い金額を支払っています。当日は猛吹雪です。スキーに行きますか?それとも温かい家で過ごしますか?
 Ⅱ:状況は同じですが、スキー旅行は景品で当たったものです。スキーに行きますか?それとも温かい家で過ごしますか?
 この違いは自分でお金を出したか、景品で当たったものかという違いです。後のケースではスキーに行かないと答えた人出も、最初のケースでは行くと答えるのです。荒天でスキーに行ってもスキーができない可能性が高い、さらには遭難の危険もあるのに、「自分でお金を払った」という事実を無視できず突き進んでしまうのです。
4.先入観という魔物
 人間は、正しい選択に役立つ情報のすべてを分析することはできません。思考の近道に頼らざるを得ないのです。誰でも、合理的な几帳面な自分と大雑把で機械的に素早く決めたい自分が存在します。
 人はついつい、大雑把で機械的に素早く決めようとします。つまり、直感に頼るのです。重要な決断をするときには、こうした直感に頼ろうとする自分を抑えて、合理的で几帳面な自分を全面に出さなければなりません。
 人は過去の習慣や悪しき因習にとらわれています。先入観をいかに排除できるかが重要なのです。
 目立つ出来事や身近な出来事が続くとその出来事が起こる確率を高く見積もってしまいます。例えば、殺人事件や暴力事件がニュースで放送されると、人はそれに引っ張られてしまい、治安が悪くなったと思い込みます。
 また、人は、何かが起こると、そこには必ず理由があると思い込みます。そして秩序を妄想し始めるのです。単なる偶然の産物で秩序のないところに、無理に秩序を見いだそうとして、無理矢理秩序を作ります。ありもしない意味を付け加えてしまうのです。
 また、過ぎ去ったことを振り返ると、起こるまで想像もできなかったことが予測できたと思えるのです。これは「後知恵」といわれるものです。後からなら何でもいえるのに、最初からそう思っていたと勘違いするのです。誰でも評論家になれるのです。
5.人はやる後悔とやらなかった後悔、どっちがマシ?
 次の例を見てみます。
 Ⅰ:A社の株を持っています。A社の株を売って上がると思ったB社の株を買ったところ、A社の株は上がり、B社の株は下がりました。
 Ⅱ:A社の株を持っています。B社の株を買いたいと思っていますが、まだA社の株を売らず、B社の株も買っていません。A社の株は下がり、B社の株が上がりました。
 どちらの方が大きく後悔しますか? 最初のやってしまった後悔の方が大きいと答えた人の方が多いのです。やってしまった後悔は短いスパンで後悔し、やらなかった後悔は長いスパンで後悔を引きずるのです。何もしないと「あのときこうしていれば違ったかも知れない」という妄想が広がるのです。
6.悪いと思っていてもそのときの感情が勝つ
 人間の行動は、情緒と認知の相互作用によって、またはそれに対応する脳の部位のシナプスの駆け引きによって方向付けられます。適切な決定をするにはどうしたらいいのかを知るだけでは足りないのです。身体がそれを感じ取らなければなりません。
 多くの場合、合理的で几帳面な自分が司令塔となって行動していますが、情緒で対応できそうなときには大雑把で機械的に素早く決めたい自分に任せようとします。つまり直感に委ねようとするのです。例えば、禁煙中なのに友人から出された煙草を断れずに吸ってしまうのです。ダメだ、悪いことということはわかっているにもかかわらず、情緒が認知を邪魔して、感情が勝ってしまうのです。
7.怠け者な脳
 脳には物事を考えるとき2つのシステムがあります。
 Ⅰ:操作はスピーディで無意識で、大まかな連想を駆使し、調整も修正もきかないもの
 Ⅱ:作業はゆっくりと順序を踏み、意思によってコントロールされ、習得可能な規則によって潜在的に管理されているもの
 難しい作業を行なうときはシステム2によって行なわれます。しかし、毎日同じ作業を繰り返していると慣れが生じ、システム1に移行します。これによって作業のスピードは速くなります。
 人間の脳は「努力を最小限にしたい」と考えています。難しい問題でもできるだけシンプルにしたいと考えるのです。
 ある程度難しい問題やかなり知恵を絞らなければならない問題に直面すると、できるだけ問題を単純化しようとします。これは必ずしも間違っていません。難しい問題をシンプルな問題に切り替えて考え、それをもとに本来の問題の答えを見つけるのは正しい方法です。しかし、大抵の場合、シンプルな問題に置き換えて(すり替えて)、その答えを出して終わっているのです。それでは、中途半端で、本来の難しい問題の答えにはなっていないのです。
この本の中には、多くの事例が挙げられて、行動経済学の基礎をわかりやすく学べる良い本です。
人間は合理的な行動を常にとっているわけではなくときに不合理行動をとります。人(顧客・取引先など)がこうした不合理な行動をとることを前提にマーケティングを考えなければなりませんし、経営戦略を考えなければなりません。行動経済学はビジネスパーソンにとって必須の学問だと思います。
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