中小企業経営のための情報発信ブログ72:失敗の本質

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今日もブログをご覧いただきありがとうございます。
年末年始(12月29日~1月3日)は、経営にも役に立つと思われる本の紹介をしていきます。
今日は、戸部良一、野中郁次郎他著「失敗の本質 日本軍の組織的研究」(中公文庫)を紹介します。この本は、戸部良一氏(政治外交史専攻)、寺本義也(組織論専攻)、鎌田伸一氏(組織論専攻)、杉之尾孝生氏(戦史専攻)、村井友秀氏(軍事史専攻)、野中郁次郎氏(組織論専攻)の6氏が、経営学と歴史学の両面から太平洋戦争での失敗の原因を探り、組織としての日本軍の失敗を現代の組織にとっての教訓、反面教師とすることを狙いとしています。
本書は、小池百合子都知事、新浪剛史サントリーホールでイング社長、杉山博孝三菱地所会長、など各界のリーダーが絶賛している名著です。特に、新浪氏は「会社組織の経営に常に必要な”戒め”を学べる指南書」と言っています。
まず、日本軍の失敗がどうして現代の組織にとって関連性を持ちうるのか、また教訓になり得るのかについてです。
これは、日本軍が戦前日本において最も積極的に官僚制組織の原理(合理性と効率性)を導入した組織であり、しかも太平洋戦争で合理的組織とは矛盾する特性、組織的欠陥を発現させたとすれば、同じような特性や欠陥は他の日本の組織一般にも、程度の差はあれ、共有されていたと考えられるからです。
ところが、このような日本軍の組織的特性や欠陥は、戦後において、あまり真剣に取り上げられることはなく、多くの場合、日本軍の失敗の原因は当事者の誤判断といった個別的理由や日本軍の物的劣勢に求められてきました。
確かに日本軍の組織原理や特性は、平時において不確実性が相対的に低く安定した状況の下では、ほぼ有効に機能していたと言えるかもしれませんが、危機的状況、すなわち不確実性が高く不安定かつ流動的な状況では、有効に機能したとはいえず、さまざまな組織的欠陥を露呈したと言えます。
本書で、「日本軍の組織原理(官僚制組織原理)を無批判に導入した現代日本の組織一般が平時的状況の下では有効かつ順調に機能しえたとしても、危機が生じたときは、大東亜戦争における日本軍が露呈した組織的欠陥が再び表面化させないという保証はない」と言っています。これはコロナ禍という危機的状況で組織的欠陥が露呈したことからも当たっています。
だから、太平洋戦争における日本軍の失敗を現代の組織一般にとっての教訓として活かす意味があるのです。
本書の第1章では、⑴ノモンハン事件ー失敗の序曲 ⑵ミッドウェー作戦ー海戦のターニングポイント ⑶ガダルカナル作戦―陸戦のターニングポイント ⑷インパール作戦ー賭けの失敗 ⑸レイテ海戦ー自己認識の失敗 ⑹沖縄戦ー終局段階での失敗と言う風に太平洋戦争の流れの中で失敗の事例研究がなされています。
第2章では、戦力・組織における日本軍の失敗の分析を行い、米国軍と比較しつつ失敗の本質が浮き彫りにされています。簡単に戦略・組織特性をまとめると次のようになります。
1.戦略
・目的      日本軍ー不明確         米軍ー明確
・戦略志向    日本軍ー短期決戦        米軍ー長期決戦
・戦略策定    日本軍ー帰納的         米軍ー演繹的
・戦略オプション 日本軍ー狭い(統合戦略の欠如) 米軍ー広い
・技術体系    日本軍ー一点豪華主義      米軍ー標準化
2.組織
・構造      日本軍ー集団主義        米軍ー構造主義
・統合      日本軍ー属人的統合    米軍ーシステムによる統合
・学習      日本軍ーシングル・ループ    米軍ーダブル・ループ
・評価      日本軍ー動機・プロセス     米軍ー結果
第3章では、日本軍の失敗の本質と今日的課題を結び付け、日本軍の失敗から何を学ぶか失敗の教訓が示されています。
日本軍の失敗の本質というのは、簡略化すれば、組織としての日本軍が環境変化に適合して自らの戦略や組織を主体的に変革することができなかったということにつきます。戦略的合理性以上に、組織の融和と調和を重視し、その維持に多大なエネルギーと時間を投入してしまったということです。そのため、組織としても自己革新能力が欠如したのです。なぜ日本軍が組織としての環境適応に失敗したのかと言えば、過去の成功への「過剰適応」が挙げられます。日露戦争での勝利が帝国陸海軍に過剰学習されることになったというわけです。
日本軍の環境適応の失敗についての分析では、環境、戦略、資源、組織構造、管理システム、組織行動、組織学習という7つの概念で行われます。これは、企業を含めたあらゆる組織の環境適応の分析手法で取り入れられているものです。組織の環境適応は、仮に組織の戦略・資源・組織の一部あるいは全部が環境不適合であっても、それらを環境適応的に変革できる能力があるかどうかがポイントになります。
組織が継続的に環境に適応していくためには、組織は主体的にその戦略・組織を革新していかなければなりません。このような自己革新組織の本質は、自己と世界に関する新たな認識枠組みを創り出すこと、すなわち概念の創造にあります。しかし、既存の秩序を自ら解体したり既存の枠組みを組み替えたりすることは、最も苦手なところです。
今日のコロナ禍においても国はもとより多くの企業も過去の栄光にしがみ付き既存の秩序や枠組みを解体することができず、更に危機的状況を引き起こしています。
本書では、「自らよって立つ概念についての自覚が希薄だから、いま行っていることの意味が分からないまま、パターン化された『模範解答』の繰り返しに終始する。それゆえ、戦略策定を誤った場合でもその誤りを的確に認識できず、責任の所在が不明なままに、フィードバックと反省による知の積み上げができないのである。その結果、自己否定的学習、もはや無用もしくは有害となってしまった知識の棄却ができなくなる」と言っています。
企業活動に関して言えば、日本は高度成長によって意図せざるうちに先行集団を走るようになってしまいました。それまでは「欧米に追いつき追い越せ」をスローガンとして先行モデルや真似るべき目標が存在しました。しかし、フォローすべき先行目標がなくなり、自らの手で秩序を構成しゲームのルールを作り上げなければならなくなったのです。
日本の政治組織については、日本軍の戦略性の欠如がそのまま継承されています。日本政府の無原則性は、これまでの国際社会においては臨機応変な対応を可能にしてきました。しかし、今回の新型コロナ禍においては、環境変化への適応能力を失い、すべての政策が後手後手に回ってしまいました。これは縦割りの独立した省庁が割拠し日本軍同様に統治能力を欠いてしまっているからという面もあります。
日本企業における戦略も同様で、帰納的戦略策定を得意とするオペレーション思考で、継続的な変化への適応能力はありますが、急激な変化への適応能力が欠如しています。
企業を始めあらゆる領域の組織は、主体的に独自の概念を構想し、フロンティアに挑戦し、新たな時代を切り開くことができるかということ、すなわち自己改革組織としての能力が問われているのです。
本書は1984年に刊行され、1991年に文庫化された名著です。コロナ禍の現代においても読むに値する本です。

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