Jアラートとオオカミ少年

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先週の木曜日、朝食を食べ終わってぼんやりとニュースを見ていると、もうすぐ8時になるという頃、突然「地域の有線放送」がけたたましく鳴り、「緊急放送」なるモノが放送された。
ほぼ同時刻にTV画面でも同じ情報が放映され、NHKのすべての番組が「緊急放送」一色に塗りつぶされた。

何事か!と思いきや「北朝鮮のミサイルが北海道に墜落しそうである⁉」という内容のJアラートが発令された、といった報道が繰り返しなされた。
その数分前に「北朝鮮が飛翔体を日本側に向かって発射した」という、報道がテロップでながれていたので、その「飛翔体」の向かった先が「北海道エリア」である、という事に成ったようである。

その報道が事実であるならば、広い北海道やその周辺の海域に北朝鮮の飛翔体なるモノが墜落する可能性があるのか!
という考えが頭をよぎり数分間その「緊急放送」を注視した。

しかし2分、3分と経過しても、Jアラート発令により映されていた日本海側の諸都市/地域に、設置されていたカメラ映像には何の変化もなく、そのまま時が流れて行った。
私はその間TV画面を注視しながら、「北朝鮮が北海道を狙ってロケットを発射するメリット」について、考えていた。
「果たして北朝鮮が北海道、更には日本を攻撃するとどんなメリットがあるのか」について考えてみたのである。

もしこれが事実だとすると「北朝鮮は日本と戦争状態になり、日米安保条約によって日本及び米軍の攻撃を受ける」事態に発展するだろう、と推測することが出来た。
そしてその北朝鮮のロケット攻撃の目的が、ロシアの「ウクライナ攻撃」の様に北海道を自国の領土にする意思があるからなのか?と自問してみた。
しかしその可能性は現時点ではゼロであろう。との答えが出た。

それとも、まだ核開発の途上である北朝鮮が、現時点で日米韓を敵に回して 一戦を交えたいと思っているからであろうか・・。
しかしそれらの可能性は、やはり極めて少ない・・。
というのがその短時間に私が考えた「結論」であった。
その自ら出した結論にのっとって私は、速やかにTVを消して、自室に戻った。

そして結果的にはその後何の事態も生ずることが無く、時が流れた。
結局は「北朝鮮のロケットが北海道に到着した」、という事実を確認する事は無かった。
その後のヤフーニュースでも昼のNewsでも、結果的には「誤報」であった、と報道されたのであった。

北朝鮮ミサイル.jpg


昼食時に見たお昼のNewsを見ていて私が思い出したのは、「確か去年の秋ごろにも同じような事があったな」という事であった。
その時起こったのは、今回と同じく北朝鮮の飛翔体が日本に向かって発射され、私の棲む「北海道」と共に、「東京都の小笠原諸島」がミサイル墜落の可能性があるから警戒する様に、というJアラートの「警報」であったはずだ、と思い起こした。

その時の私は「北海道」と「小笠原諸島」の1,500㎞以上離れたエリアが、何故同じ飛翔体の攻撃や落下地点の対象になるのか、全く理解できなかった。
そして「Jアラート」に対する不信感が募った事を、私は思い出した。
結果は「小笠原諸島」への警戒発令が、「誤報」であるという事で終わった。          
そして今回の事態である。

こういうことが半年の間に何回も続くと、「Jアラート」が発する情報や警戒予告に対して、私などは信頼性や信憑性を失う思いが定着し、逆に疑念を抱いてしまうのである。
精度の高い情報に対する信頼度は、それが有益な情報であれば高まるが、逆の場合信頼度は弱まり、信憑性は失われてしまうのである。
これは私一人が感じることではなく、多くの国民や大げさに言えば人類が感じる事だと私は確信している。

そして私は「イソップ物語」だかの、有名な「オオカミ少年」の逸話を思い出してしまうのである。
「オオカミが来たぞ~⁉」と連呼した少年の発する虚偽の言葉が信を失って、村人たちが彼の発する発言や言葉を軽視し、無関心になり、ついに無視するように成ってしまった。
その後実際に彼が本物のオオカミに襲われた時に、誰にも相手にされず少年は結果的にオオカミに食べられて命を失ってしまう、といった話を思い起こすのである。

その後行われた、「日本政府のスポークスマン」である松野官房長官の記者会見での発言は、今回のJアラートの誤報を擁護していた。
しかしこの様なただの「情報の垂れ流し」を政府の見解として、マスメディアを使って繰り返し発令し放映し続けるのは、日本の「危機管理」能力の低さや「情報分析」の未熟さ/拙さ、対応のまずさを宣伝するようなものである、と私は認識してしまう。

私はNewsには「情報」「報道」「ジャーナリズム=インテリジェンス」の三種類があると思っているが、これまでの経験や実績から判断するにJアラートの発信は、一番精度の低い「不確かな情報」でしかないのだ、という想いを抱き始めている。

「日本国民」や今回の様に「北海道民」に対して、すべてのマスメディアを通じて発せられる「警報」を、このままずっと「不確かな事実レベルで、垂れ流し続ける」のであれば、Jアラート自体が「オオカミ少年」と同じ扱いを受ける事に成るのではないか、と想っている。
「不確かな情報や事実を、そのまま垂れ流す」だけなら、「質の悪い情報番組」や「信用のおけない報道番組」と大して変わらない、のである。

「国家の危機に類する情報」や「国民の生命と財産に多大な影響を与えうる情報」を、政府なり国家の名に於て公共放送を通じて発する場合は、単なる「不確かな事実や情報の、可能性を垂れ流す」だけであってはならないのである。
政府の「危機管理体制」がまともに機能するのであれば、「情報を精査」し「情報の中身を的確に分析」し、専門家や識者の知見等を加味した上で出される「インテリジェンス」でなくてはならない、と私は強く思っている。
さもなくば日本政府の発するJアラートは、「オオカミ少年」と同程度の扱いを受ける運命に陥るのは、目に見えているのである。


国会議事堂.jpg


政治家の「口先だけの言葉や約束」と同様に、Jアラートの発する「危機管理に関わる大きな情報」に関しても、信頼を失ってしまうのは残念至極でしかない。
更にはそれらを運営するシステムの構築と維持に使われる、少なくない国家予算や、官僚たちの仕事内容に実の伴う「費用対効果」を強く求めるのである。
少なくない国家予算を使って「Jアラート」を構築する「優秀」な官僚たちに、しっかりまともに働いてくれ!
と切に願うばかりである。
今回の「Jアラート事案」は、将にその様な思いを抱く結果を招いてしまったのである。

因みに今回の「Jアラート」を聞きながら私は
「ウクライナの国民たちはロシアが行うロケット攻撃にさらされ、毎日の様にこういった警報を受けながら生活しているのだな・・」と、思った次第である。
今回の「Jアラート騒動」はプーチンの行っている「ウクライナ戦争」の現実を、「自分事」として、考えるきっかけに成ったのは確かであり、ウクライナ国民の抱えている日常や恐怖に、短い時間であるが想いが至ったのは数少ない教訓の一つであった。


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