自分で創る自分の車 No.2

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ハンドリング 2/2

・体重移動
上記の特性は、車両が加速、旋回、減速を始めるときに集約されます。
これらの運転操作はそれぞれ、何らかの方法で車両の運動量を変化させることを求めています。
・加速するということは、車両に前進方向への勢いを強めることです。
・減速するということは、車両の前進方向への勢いを弱めることです。
・旋回するということは、勢いのある方向を変えることです。
それぞれの変化は、タイヤが路面と接触することによってもたらされます。
タイヤが変化を起こし(回転を速くする、減速する、曲がる)、車両の残りの部分がその変化に反応し、タイヤがグリップを最大限に発揮できるように支援します。これが体重移動の役割です。

・加速時の重量移動
加速時の重量移動については、下図の車両(後輪駆動)を例に説明します。
重心(CG、車の質量の中心となる点)は、常に地面の上にあります。
また、前輪と後輪のタイヤの間に位置します。
アクセルペダルを踏むと、リアタイヤは前方に加速します。
前方への加速の反動で、車両の質量(CGポイント中心)が後方に移動し、その質量が後部の唯一の行き場であるリアタイヤのコンタクトパッチに移動します。
例えるならば、CGポイントがリアタイヤのコンタクトパッチに向かって "落下" するようなものです。
いずれにしても、質量が移動することで、リアタイヤに重量とトラクションが加わります。
WT1-2.png

加速の過程では、車両の質量が後方に移動することで、前輪の重量も同じように "持ち上がる" のです。
フロントタイヤが失った重量は、リアタイヤが獲得します。

・減速時の体重移動
加速時の重量移動とは逆に、減速時にも重量移動が起こります。
下図は、上図と同じ車両を示しています。
CGポイントは同じ場所にあり、車両に勢いがあるので、その勢いをブレーキで減衰させたということ以外は何も変わっていません。
WT2-2.png

ブレーキペダルを踏むと、4つのタイヤが減速してマイナスの加速度が発生します。
マイナスの加速度に対する反応として、車両の質量(CGポイント中心)を前方に移動させ、その質量が唯一移動できるフロントのポイント、つまりフロントタイヤのコンタクトパッチに移動させます。
質量の移動は、フロントタイヤに重量とトラクションを加えると同時に、リアタイヤの重量を "持ち上げる" ことになります。

・旋回時の重量移動
車両が曲がるときには、横方向(車幅方向)と縦方向(ホイールベース方向)の両方の重量移動が発生します。
ここではわかりやすくするために、横方向の重量移動だけを取り上げます。
前述の加速・減速と同様に、重心(CG、車の質量が中心となる点)は常に地面の上にあります。
また、重心は常に左右のタイヤの間(トラック幅内)にあります。
以下の上面図と正面図を用いて、旋回による重量移動を見てみましょう。
ここでは、車両が直線的に前進していると仮定します。
(上面図黒矢印の部分)
ステアリングを回すと、タイヤは直進からステアリングの角度に変わります。(黄色の矢印)
勢いのある車両の質量は直進したいと思っていますが、つながっているタイヤが強制的に回転させています。

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上正面図で示すように、車両が曲がるときには、前進の勢いで車両の質量が唯一の行き場である外側のタイヤに移動します。車両は外側のタイヤに "転がり"荷重をかけてトラクションを高め、同時に内側のタイヤから "浮き"荷重をかけてトラクションを下げます。

・なぜ重量移動が重要なのか?
クルマのタイヤがグリップを発揮するのは、タイヤに垂直方向の荷重がかかっているからです。
一般的には、タイヤにかかる荷重が大きいほど、トラクションも大きくなると考えられています。
しかし、タイヤは垂直方向の荷重に対して直線的に摩擦力(牽引力)を得られるわけではないので、一概にそうとは言えません。
タイヤは垂直方向の荷重に対して直線的に摩擦力(けん引力)が得られるわけではないので、重量が増えれば増えるほど、けん引力の増加は緩やかになるという "収穫逓減の法則" が働くのです。

下図の架空のタイヤの例では、このようにトラクションの増加が徐々に抑えられていきます。
WT5-2.png
これが重要になるのは、4つのタイヤがあり、できればそれぞれのタイヤが可能な限り最大のグリップを発揮するようにしたいからです。
その為、最大のグリップを得るためには、"無負荷"のタイヤから、"負荷"のタイヤに最小限の重量を移すように車両を設計する必要があります。
重すぎると、"無負荷"のタイヤと"負荷"のタイヤが提供する有用なトラクションが減少してしまいます。

例えば、次のような場合です。
コーナーを曲がるときに、外側のタイヤに180㎏の垂直荷重がかかっているとします。
内側の"負荷のかかっていない"タイヤには、45㎏の垂直荷重がかかっています。
上のグラフを使うと、利用可能なトラクションの合計は135㎏+45㎏=180㎏となります。
さて、CGを下げて、同じコーナーを同じスピードで曲がったとします。
外側の"荷重のかかった"タイヤには、135㎏の垂直荷重がかかります。
内側の"負荷のかかっていない"タイヤには、90㎏の垂直荷重がかかっています。
グラフを使うと、利用可能なトラクションの合計は、113㎏+82㎏=195㎏となります。
車高を下げた方がトラクションがかかり、コーナーをうまく曲がることができます。

・アンダーステア/オーバーステア
コーナーを曲がるときに、フロントのグリップがなくなってしまうことを"アンダーステア"といいます。
下図に示すように、リアタイヤよりもフロントタイヤの方が先にトラクションの限界に達してしまうため、本来の曲がり方よりも曲がらなくなってしまう状態です。
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コーナーを曲がるときにリアのグリップがなくなってしまうことを "オーバーステア"といいます。
これは、フロントタイヤよりもリアタイヤの方が先にトラクションの限界に達してしまうため、本来の曲がり方よりも必要以上に曲がってしまう状態です。
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前述したように、これらの状態はいずれも、内側の"負荷のかかっていない"タイヤから、外側の"負荷のかかった"タイヤにどれだけ重量が移動しているかの結果です。
より多くの重量が移動してタイヤ全体の効率が下がると、その先の全体的なグリップが低下します。

・極慣性モーメント
CGは車両全体の質量の中心ですが、車両を構成する各部品もそれぞれの質量と位置を持っています。
CGから離れれば離れるほど、車両を回転させることが難しくなるため、これは重要なことです。
それぞれの部品は、それぞれの極慣性モーメントを持っていると言われています。

野球のバットに例えてみると、その概念がよくわかります。
先端が重く長いバットほど振りにくくなります。
慣性モーメントが大きいのです。
先端が重くても短いバットでは、振りやすくなります。
慣性モーメントが小さいのです。
しかし、バットを長くすると、スイングのスピードを上げるのに時間がかかるようになります。

車両でも同じです。
重い部品がCGから離れれば離れるほど、車両はゆっくりと方向転換するようになります。下図を見ると、ドライバーはCGに近く、体重も比較的軽いので、慣性モーメントが小さいことがわかります。
エンジンは重いですが、やはり比較的CGに近いので、慣性モーメントは少しだけ悪くなります。
車両後部にある燃料タンクは、CGからかなり離れているので、慣性モーメントは大きくなります。
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・サークル・オブ・トラクション
サークル・オブ・トラクションとは、レーシングカーやその他の車両が利用可能な総トラクションをどのように利用するかを示すハンドリングの概念です。
トラクションをすべて使ってブレーキをかけていると、コーナーを曲がるための余力がなくなってしまいます。
同じように、曲がるためにトラクションを使い切ってしまうと、トラクションを失ってブレーキやアクセルを踏むことができなくなってしまう。

COT1-2.png

■サーキット車両の場合
前後左右の重量配分がバランスしていることが、サーキット車両のハンドリングを調整するための最適な出発点となります。
静的重量配分があまりにもアンバランスな場合、車両の挙動を予測可能なものにするためには、より多くの努力が必要となります。

次回からサスペンション編となります。
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