彼のさいしょの記憶には、自分と同じ背丈の少年が棲んでいます。
薄暗いテントの中で、彼にボールの扱いを教えてくれました。
少年はいつもにこやかに笑っておりました。
やわらかな声で、彼にいろんな話をしてくれました。
彼はそのおかげで、人間の言葉がわかるようになりました。
最初に覚えたのは、少年が何度も繰り返したいくつかの単語。
ジョウズ。エライ。ボク。キミ。
それから、ユメ。
少年はいつも、ユメについての話をしました。
どこか遠くに行きたがっているようでした。
今の彼の世界には、あの少年はいません。
いついなくなったのかも、よく覚えていないのです。
きっと、ユメを叶えるために、どこか遠くにいってしまったのでしょう。
彼は今日も、サーカスの荷台に揺られます。
そして少年に教わった玉遊びで、ステージを湧かせます。
彼は少年に会いたいとは思いません。
ただ、ずっと覚えているのです。