長編SF小説 異能者の惑星

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私が書いたSF小説 異能者の惑星 の 序章と第2話 第3話 をご紹介したいと思います。長いので、三回に分けますね。

あらすじ
辺境惑星タラゴンでは、4人の異能者と、6人の地球人がサバイバル生活をしていた。何故10人はこんな辺境惑星でサバイバルをしているのか? 時は22年前にさかのぼる。人類が新たに住める星を探して、宇宙船ポラリスは地球を旅立った……。ポラリス号は人類移住の候補地、タラゴンを調査したが、宇宙海賊に襲われて船が故障し、地球へは帰って来れなかった。船長のミゲル以下、クルーはタラゴンでのサバイバルを覚悟する。やがてクルー達はそれぞれ結婚して子供達が生まれたが、タラゴンの不思議な二つの月の影響で、子供達は異能者となる。タラゴンは異能者を生む星だったのだ。
22年後に地球から迎えが来るが、その前に起きた地球の異能者のクーデターによって、中央政府は異能者排除法を作って異能者を迫害していた。
親となったクルーと子供達の運命やいかに?

序章
 乾いた熱い風が草原を吹き抜けた。抜けるような真っ青な空の下、赤褐色の大地に|萌黄色《もえぎいろ》の背の低い草が生い茂り、所々に灰色の樹木が立ち並んでいる。輝く太陽の光を浴びて、単純だが鮮やかな風景は強烈な色彩を放っていた。草原ではインパラに良く似たオレンジ色の草食獣達が草を|食《は》んでいる。《《インパラに良く似た》》――そう、厳密にはインパラでは無かった。あたかも地球のサバンナを思わせる景色だが、ここは地球では無かった。辺境惑星「タラゴン」それがこの星の名前だった。
 アスターは草むらに身を潜めてじっとインパラの様子を|窺《うかが》っていた。彼は十八歳の少年で、ブルネットの短髪に青い瞳をしている。少年とは言え、すでに青年らしい野性的な精悍な風貌であった。少し離れた所にブランカも居て、やはり身を潜めていた。彼は十六歳で、赤毛の短髪に明るい緑の瞳をしている。いかにも陽気そうな、人好きのする朗らかな顔付きであった。
「よし、行くぞ!」
アスターは手をかざすと|念動力《サイコキネシス》で一頭のインパラをブランカに向かって飛ばした。体重五十キロはあろうかと思われるインパラが軽々とぶっ飛んで来る。ブランカは両手を引くと身構えて、インパラに向かって空圧波を投げつけた。高圧の空気の塊が疾風の如く飛び、インパラの脇腹に命中する。インパラは揉んどり打って地面へ叩き付けられた。すかさずアスターが駆け付けてナイフで止めを刺す。
「やったな!」
「うん。取り敢えず、しばらくこれで食い繋げるな。皆喜ぶぞ」
アスターはインパラを肩に担ぐと、歩き出した。ずっしりと重い獲物の身体がアスターに充実感をもたらす。ブランカも後に続いた。二人は若いとは言え、既にいっぱしのハンターだった。
「リタ達は上手くやっているかな?」
ブランカがさして心配でも無さそうにアスターに訊く。アスターも別段これといった素振りも見せず、
「そうだな、多分大丈夫だろ」
とだけ言った。
 リタとアマラは草原の別の地点に居た。リタは兄のアスターと同じブルネットの長い髪を三つ編みに編んで、青い瞳をしていた。少女ではあるが美人と言って良く、素朴だが端正な顔立ちをしていた。アマラは双子の弟、ブランカと同じ赤毛のボブスタイルに緑の瞳をしている。鼻から頬にかけて、淡いソバカスが点在していた。弟とは似ず、物静かで知的な顔立ちだった。彼女達は二人とも十六歳だ。二人は時々空から降ってくる|宇宙ゴミ《デブリ》を探していた。地球から遥か離れたこの辺りには宇宙船などほとんど通りかからないが、宇宙を漂流して流れ着いたデブリが時たま空から降って来るのだ。大抵は唯の破片だが、中には使える物もある。
「あったわ! 何か使える物あるかしら?」
アマラがデブリの山を発見した。どうやら宇宙船の残骸の様だった。近付いて良く見ると、瓦礫の中に小さな銀色の箱がほとんど無傷で落ちていた。アマラは蓋を開けようとしたが、箱は歪んでいて開かなかった。
「中身は何かしら? リタ、見れる?」
「ちょっと待って」
リタは箱を凝視する。
「小瓶が幾つか見えるわ。多分何かの薬品ね。それと脱脂綿と、包帯と……。これは薬箱だわ」
「なるほどね。でも、リタの能力って本当便利よね。 それに引き換え私は……。そんな事無いじゃないって? いいのよ、慰めの言葉なんか」
アマラはリタの脇腹を軽く小突いた。
「アマラったら、また勝手に私の心を覗いたわね! 読心術だって立派な能力じゃないの」
「でもねえ……。もっと派手なのが良かったわ。サバイバルに役立つような」
 サバイバル――そもそも何故彼らはこんな辺境惑星でサバイバルをしているのであろうか? 理由は二十二年前に遡る。今から二十二年前、地球を一隻の宇宙船が飛び立った。名前は「ポラリス号」宇宙船には八人の乗組員が居た。男性陣は船長兼操縦士のミゲル、副操縦士のタイガ、航海士のニライ、整備士のヤナーギク、船医のマムル、女性陣は通信士のアリッサ、食料管理士のハルカ、惑星科学者のサライである。地球と、スペースコロニーの人口が増えすぎたため、人類は他にも人類の住める惑星が無いか探索する必要があった。科学者から、マワール星系にそれらしい惑星があると分析報告が成されていたため、ポラリス号は星系へ探索に出向いたのである。
 ポラリス号は先ず最初に、マワールへの中継点であるスペースコロニー、ニルバへ立ち寄った。ニルバは地球から最も遠いコロニーである。とは言うものの、人間が生存可能な太陽光のバランスから、それ程太陽から遠い訳ではなかった。エアポートで政府の査察官が出迎える。ニルバへミゲル達が立ち寄る事は既に連絡が行っていたが、特別探査ミッションのため、役人が出迎えたのだ。
「ニルバヘようこそ。宇宙船の補給はどうします?」
「いや、我々の船には野菜の生産プラントがあるし、人工タンパク質も積んであるから、補給は必要無い。今回立ち寄ったのはマワール星系の情報収集のためだ」
船長のミゲルが答えた。
「存じております。では宇宙情報局へご案内いたします」
 ミゲルはタクシーに乗って宇宙情報局へ到着した。ある程度の宇宙情報はネットワーク上でも共有出来るが、情報の悪用を防ぐため、一定ランク以上の情報は各情報局でしか手に入らないようになっていた。
「こんにちは。宇宙情報局へようこそ。どういった情報をお探しですか?」
受付嬢がにこやかに挨拶する。
「我々は調査のためマワール星系へ向かう予定だ。これが調査隊証明書だ。途中の航路周辺の情報が欲しいんだ」
ミゲルは証明マイクロチップの埋め込まれた腕を出した。受付嬢はリーダーでマイクロチップを読み取る。
「承知致しました。三番情報室のコンピューターをご利用下さい」
 ミゲルは三番情報室へ入ると、コンピューターで検索を始めた。コンピューターにはマワール星系周辺の情報が記されている。
「流星群無し……か。これは良い。航路はクリアーだな。何々? 途中の空域に宇宙海賊出没の恐れあり……。まあ、ワープ航法で行くのだし、運が悪くない限り大丈夫だろうな。一応レーザー砲もあるしな」
マワール星系は遥か彼方だが、障害さえ無ければどうと言う事はない。時間がかかるだけである。宇宙海賊だけが気掛かりだが、広い宇宙で遭遇する確率は低いだろう。ミゲルは満足すると、データを記憶チップにコピーして部屋を後にした。
続く
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