バブルの人

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小さな喫茶店の店内は静まり返った。
「ばか野郎、返済比率で貸し出せないなんて許されない事だ、お前の仕事はお金を貸す事だろう。
こっちには家を買うお客さんが待っているんだ、今日中に融資の決裁を下せ、いいか、わかったな」新品のハンドタイプの携帯電話がうなりを上げた。
電話を受けた支店長は、他人の定期預金を担保に融資を決裁した。
その他の融資も含めて総額67億円
今日は店舗を買いに行くぞ、私が来るまで先輩を酒屋まで案内した。
「こんにちは、この店のお酒すべて買います。お店も買います。
先輩はバックから小切手を取り出すと100万円と記載した。
契約書に掛かれた売買価格は5000万円だった。
「若いの、この酒すべて車に積み込め」私は急いで無言で車に酒を積み込んだ。
酒屋の店主のうつむき何も言えない顔は目に焼き付いた。
契約書にサインをもらうと、〇洋神戸銀行に向かった。
「若いの3万円渡すからお前の口座をつくれ、カードもな、口座の金は今日の昼飯代だ、カードは使わないならすぐに鋏を入れてもいいよ」
銀行印は銀行員が用意していた。通常ではないことは感じていた。
になると、すし屋、BAR、カラオケ、女の子のいる明朗会計のお店など何軒も梯子した。
「マスターボトル入れて」
店のキープボトルは全てヘネシーVSOP、ダルマなどは一つもない。
時代は明るかった、女の子はボディコンワンレグ、男子はDCブランドの原色スーツにハイソカー夜の街もにぎやかだった。
仕事も不動産好景気で昨日までプールバーでウエイターをしていた友人もスーツを着込み不動産案内を始めた。
私は、毎日先輩の人のマンションに通った。
ドリンクバーにはリポD、最新のVHSはパトリオットゲームだ。
ワインを飲み、毎朝私は駅前の売店に新聞を買いに行った。
お駄賃は1万円。
1993年のある日いつものように駅前の売店に新聞を買いに出かけた。
先輩のマンションに戻るとお駄賃をくれた。
千円札一枚だった。
先輩は
「いいか一円でもお金が残るような使い方をしないといけない。一円でも残るような使い方ができない奴は何をやっても成功しないんだよ」と言った。
次の日先輩のマンションに行くと鍵がかかっていた。玄関周りも片付きすっきりしていた。
駅前の売店に行き新聞を買った。
新聞の一面には、●●支店不正融資事件、支店長逮捕の記事が出ていた。また共犯者の指名手配も出ていた。
指名手配犯は先輩が普段使用していた偽名のイニシャルだった。
事件は全国版のニュースにも取り上げられた。
暫くすると、大手証券会社倒産のニュースが飛び込んできた。
以前先輩と通ったBARの棚にはヘネシーは無く全てJINROに入れ替わっていた。
テレビでは評論家がバブルがはじけたといった。
私のバブル崩壊です。
今考えるとあの時がバブルだったのかと思う。
お金がすべての時代で人の心はすさんでいたようにも思える。

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