アカデミック考察(その12)建物の売却代金が支払われない場合の民法上の救済手段とは?

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今回のアカデミック考察では、Aがもともと甲建物の所有者、Bが甲建物の売却先で、Bが売却代金を支払わない場合におけるAの救済手段について問うものです。さらに、Aの売買代金債権のために予め担保は設定されていないことを前提とします。

この条件では、Bは、履行期に甲建物を売却代金を支払うという確定期限付きの債務を課されていました。にもかかわらず、Bは、契約で定めた履行期が経過しても、履行しなかったため、履行遅延型の債務不履行を起こしています(412条)。これを踏まえ、AはBに対し、救済手段として強制履行と解除、損害賠償請求が可能です。

もし債務者のBが任意に売買代金を支払わない反面、AはBに売却代金の支払いを望んでいる場合、Aには、強制履行という救済手段が与えられます(加賀山、2007年)。強制履行が可能になった際、Aは民事執行法などの法令の規定に従い、直接強制や代替執行、間接強制などによる履行の強制を裁判所に請求できます(第414条本文)。Aは民事訴訟で勝訴判決を得ると、判決を根拠にBの預貯金や不動産など財産に対して差し押さえを取れます(2019年、村)。 

Bが売却代金を支払う見通しが立っていない一方、Aが履行を断念する場合、契約の解除権が発生し、AはBに対して解除の意思表示をすることで、契約を解除できます。この場合、Aは相当な期限を定めてBに売却代金を支払うよう催告し、催告期間内に支払いがない場合に契約解除できます(541条本文)。ただし、Bが売買代金の全額支払いができない時や、Bが売買代金の支払いを拒絶する意思を示した時は、Aは催告することなく、直ちに契約の解除が可能です(542条)。

強制執行と解除のほかに、Bは特段支払いを免責できる事由がないことから、AはBに対し、債務不履行に基づく損害賠償請求が可能です。今回実行できる損害賠償請求は、履行期に支払われるべき売却代金が支払われなかったことに伴う遅延賠償と、Bが売却代金を支払えなかった場合は、給付されるはずの売却代金に代わる填補賠償の2種類に分類されます。

前者の遅延賠償では金銭債務であることを受け、Aは理由のいかんを問わず、損害の証明をすることなく、Bに年率5%の法定利率による遅延損害金を支払うよう賠償請求を行います(村、2019年)。売買契約の締結時に遅延損害金について法定利率よりも高い利率の取り決めをした場合は、Aは契約で定めた利率に基づく遅延損害金の支払いをBに請求します。

後者の填補賠償では、Aは不払いから一般に生じると認められる売却代金に相等する金額を通常損害としてBに損害賠償します。Aが甲建物の売却に際して要した修理費や維持管理費も損害の対象に含まれると考えられます。ただ、契約が破棄された訳ではないため、Aは引き渡しの準備をしていく必要があります(三井住友トラスト不動産、2018年)。

また、Aが仮に甲建物の売却に際し、BのほかにCと交渉していたとします。Cの方が売却代金が高かったが、Bの方が早期に契約締結、支払いをするという理由で、Bとの契約が決まり、Cへの売却もできなくなった場合、Aは差益分として特別損害の賠償もできます。
参考文献
池田真朗『民法への招待〔第6版〕』税務経理協会、2020年、pp105-108、156-157
加賀山茂「第20回 契約不履行の基本的な考え方」明治学院大学法科大学院、2007年1月21日更新
三井住友トラスト不動産「不動産売買の法律アドバイス 買主が売買代金を支払ってくれない」2018年1月号
村千鶴子「消費生活相談に役立つ改正民法の基礎知識 第5回契約が守られないとき」『国民生活 2019年7月号』独立行政法人国民生活センター、2019年、pp38-41

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