アカデミック考察(その11)マルクス経済学の搾取論とは?

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マルクス経済学は主に、①貨幣が実在する市場(商品貨幣説)②客観価値説(労働価値説)③余剰の理論(搾取論)④産業予備軍の存在する労働市場(相対的過剰人口の累積論)ーの4項目が必須条件とされます(小幡、2016年)。

4項目のうち、搾取論は、資本家による生産性向上の追求の結果として資本集積が社会の第一義的な要素となる資本主義の基本定理に位置付けられます。

本稿は、この搾取論について、マルクスの基本定理を用いて明らかにするのが目的です。第一章は、資本主義での搾取が証明可能な不等式、第二章は不等式がどういう意味で搾取を証明しているかについて、それぞれ述べます。

第一章 搾取が証明可能な不等式

搾取論、引いては資本主義下での搾取がそもそも何なのかをまず明らかにしたいと思います。

マルクス派が主張する搾取とは、剰余価値の存在とイコールであることを意味します(2001年、吉原)。剰余価値は、1労働日からその1労働日に対する賃金を通じて獲得される消費手段の生産に直接に要した労働時間を差し引いたものであり、剰余価値は作り出す生産物の価値を上回ることはないことを表しています。

剰余価値、ひいては搾取が発生している状態とは、資本家が利益を上げている状態です。マルクスの基本定理では、次の記号を用います。

生産手段、消費手段生産に要する直接・間接の投下労働量を示すt1とt2、生産手段1単位の生産にかかる生産手段、消費手段1単位の生産にかかる生産手段を示すa1(0<a1<1)とa2(>0)、生産手段1単位の生産にかかる直接労働、消費手段1単位の生産にかかる直接労働を示すτ1(>0)、τ2(>0)、賃金で受け取れる消費手段の量を示すRの4つです。 

これらの記号を用い、搾取が証明可能な不等式を求める場合、投下労働量を軸としたt1=a1t1+τ1、t2=a2t1+τ2が前提となります。これを連立方程式として解いたt1=τ1/(1-a1)を、t2=a2t1+τ2に代入すると、t2=a2τ1/(1-a1)+τ2となります。

さらに、導き出したt2=a2τ1/(1-a1)+τ2を、実質賃金率の範囲がマルクスの基本定理で定めた各種の技術係数で決められることを示した1-R(a2τ1/(1-a1)+τ2)>0に代入すると、1-Rt2>0となります。この1-Rt2>0が搾取を証明できる不等式です(大西、2020年)。

第二章 不等式がどういう意味で搾取を証明しているか

大西(2020年)によると、Rt2は、労働者が単位労働当たりに受け取る消費手段に含まれている総労働量を示します。つまり、1-Rt2>0に当てはめると、労働者は直接的であれ、間接的であれ、投下した労働に対し、受け取る医療や医療、娯楽といった消費手段の量は1を下回ることを意味しています。受け取る消費手段の価値が労働が生み出す価値を常に下回っているという点で、労働によって得られる便益が少なく、搾取が発生しているのです。

この関係は物財のレベルでも証明できる。1-Rt2>0の左辺をt2で割ると、1/t2-R>0という不等式ができるのですが、この場合の左辺は、労働者が1単位の労働で受け取る消費手段の量は、1単位の労働が生産できる消費手段の量より少ないことを示しているため、労働者が受け取る物財は、生産した物財の一部という意味でも搾取されています。

この不等式では、t2(投下する労働力)と労働時間の増大に比例するRを増やせば増やすほど、不等式は0に近くなり、労働者が受け取る消費手段の量は少なくなる状態を示しています。この意味で、資本主義での搾取は、労働者が働ければ働くほど加速すると理解できるのではないでしょうか。
参考文献集
小幡道昭「マルクス経済学を組み立てる」経済学論集、2016年
吉原直毅「マルクス派搾取理論再検証ー70年代転化論争の帰結ー」一橋大学経済研究所、2001年
大西広「マルクス経済学 第3版」慶應義塾大学出版会、2020年

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