♪筆者の愛器の独り語りシリーズ #1

記事
コラム

♪桜と古墳のこの街はやはり、霜月なる言葉の響きとは程遠い、暖かい晩秋11月のスタートとなりました。
毎年この時期に入稿を続けさせていただいている、エッセイを思案中です。

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★ 大好物の木耳(きくらげ)が沢山 中華丼 & ワンタンスープ

買い食いランチもワンコインでは収め切れず、物価高騰を今一度実感。
翌日の祝日文化の日は、朝から清書に着手できそうです。

地道に頑張(※こっちの漢字)ります。


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 ♪バイオリン職人さんが働く工房で生まれた私。

世間さまならぬ業界の評価は真っ二つ … って言いたいところだけど、実は知名度が皆無同然だから、誰も気にしていなかったわ。
今のご主人さまが見初めてくれるまで、随分以上に長い間、それなりに実績も知名度もあるハイエンドなギターショップで、不良在庫係筆頭を延々と担い続けていたの。

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実はそんな私の自己紹介も、頁生(さん)が色々調べて教えてくれたことを、そのまま受け売りでお話しているだけよ。
インターネット検索でもまったく登場しなかったらしく、名探偵ならぬ迷探偵ペジオ、私の正体を確かめるのに、相当苦労したんだって。

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生まれは1969年だから熟女だってこと、隠したりしないわ。
当時初心者向けのバイオリンを製造していた、東京の工房が生家。
そこでは通信販売向けの、安価なクラシックギターも製造していたみたい。
材質もわからないベニヤ板を用いた、そのようなグレードの商品だったことを、1961年生まれのご主人さまは、古本などを頼りに突き止めてくれたわ。

どうやら私はそんな工房の商品というより、唯一無二に近い試作品?

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自慢じゃないけど、材質の木材の質は最上級間違いなしで、今日ならどれだけお金を積んだとしても、このグレードの原木は入手困難だってさ。
しかも胴体はすべて単版(=1枚板の削り出しで、楽器では最上級仕様)。
糸巻と指板(=竿の弦を押さえる黒い部分)は本黒檀。
胴体の角度を変えると見栄えも変わるメイプル(楓)材の、自然の芸術のトラ杢も極上レベル。

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あんまり大きな声では言いたくないけど、
「私の全身、お金かかりまくってるわよ」
誓って自慢じゃないからね。


♪ところがこの工房はあくまで、バイオリン製作職人が集っていたから、ギター制作の経験値に関しては、正直謙虚未満だったみたい。
多少専門的な目線を持つ人がみれば、
「こりゃギターじゃなくって、バイオリンの組み上げからの仕上げだな」
頁生(さん)も私を一目見た途端、そんなふうに呟いてしまったんだって。

とりわけ組み上げや塗装は、ギターのそれではなく、いい意味でも要改善点も、すべてがバイオリン寄り。
さらに一般的なギターと比較しても、あまりに軽量なのも、特筆レベル。
ちなみに透明のピックガードっていうパーツが表板に張り付けられているの。
だから楽器分類的には 『フラメンコギター』 に属するんだって。

Am I スペイン娘?

肝心の声色ならぬ音色、これは好みの問題だろうけど、頁生さん曰く、
「この外観と材質にしては、あまりにチープ … 発展途上手前かな?」
深みとまろやかさが、見かけに対して大幅以上に足りないんだって。

「それでも今現在、名の通ったメーカーや個人製作家が、これと同じ材質を用いたギターを組み上げたとしたら、目玉が飛び出る手前の売価設定だろうな」
下世話な話だけど、大卒初任給×3ヵ月分に、軽く届いてしまうとか?

ふうん。

新しい豪華なケースも買い与えてもらったんだけど、私のプロポーションが標準的なクラシック(フラメンコ)ギターと微妙に違い、お尻が幾分小さいらしくって。

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結局やわらかいタオルの詰め物で、落ち着いた環境を整えてもらっているの。


♪生家以外は名前(=品番)すらわからない、謎の五十路熟女。
人間の手で弾かれた形跡もほとんど見当たらず、やっぱり人生ならぬギター生の大半を、その時々の居場所で眠り続けていたみたい。

「この女は墓場まで連れて行きたいけれど、それは叶わないから、俺がくたばったなら遺品として、手元で愛でてやってくれ」
還暦を過ぎての終活の一環として、ご主人さまはこんなふうに話しているわ。

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大切にしてもらえて光栄だけど、ひとつだけ小さな不満というか贅沢を。

「もう少し頻繁に取り出して弾いてよ! 完全にコレクション状態じゃないの!?」

より長い時間奏でてくれたなら、それが歌の練習になって、もっといい声になれるかもしれないのに …
生まれた瞬間に定められていた、私の人生ならぬギター生の運命なのかな?

人間なら晩年のこのタイミングで、ようやく歌える環境に恵まれました。
おそらく品名も売価設定もなく、カタログに掲載されることもなかった私。

ここが終の棲家でありますように。


語り部 : 楓(かえで)ちゃん


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