こんばんは、玲那です。
いや~すっかりブログが放置になってしまいました。いくらマイペースだからといって、ご無音打ち過ぎ申し訳ございません。
本日は、売れないホステス時代に出会った、あるお客様との思い出をお届けしたいと思います。
■シャイなあんちくしょう
20歳のとき、当時働いていたクラブで、虎雄さん(仮名)と出会いました。メインのお客様であるTさんの同級生で、月1ペースで仲良しトリオで飲みに出られる方々でした。
初めて虎雄さんと会ったときは「なんて不愛想な人だろう」と思いました。
話しかけても目も合わせてくれない、私に顔を向けるどころか、話しかければ話しかけるほど、ソッポを向いてしまう。挙句の果てには、隣に座っているのに、背中を向ける( ゚Д゚)エー
ママに言うと、「あの人、めちゃくちゃシャイだから、気にしなくて大丈夫よ~」と、あっけらかんとした答えが返ってきました。「1人で飲みに来ることは絶対ないから、何となく盛り上げて~」と。じゃあいいか(おいっ)。
■世の中に「絶対」などないんである
ところが翌週、虎雄さんは1人でお店に来たのです。しかも、私を呼べと言っている。
「話ちゃいますやん、絶対来んて言いましたやん・・・(;・∀・)」
と目でママに訴えるも、華麗にスルーされ、あれよあれよと虎雄さんの席に着かされました。が、やはり目も合わせてくれないし、ソッポ向いちゃうし、何言っても「ああ・・・」「うん・・・」くらいしか反応がない。
売れないホステスってある意味で無敵なので、とうとう私がシビレを切らし、「なんで私を呼んだんですか!!」と言い放ってしまいました。すると虎雄さんはうつむいたまま、
「女性と話すことがないんで・・・」
聞けば、今まで飲みに出ても、女性と話したことはないんだそうです。じゃあなおさら、なんで私を呼んだんかーーーーい!と、いまにも心の声がダダ洩れそうでしたが、グッと堪えました。
「もしかして、恥ずかしいんですか?」
私の質問が直球すぎたのか、わかりやすくウィスキーロックをぐいぐい飲む虎雄さん。年齢37歳。飲み歩いててこの反応、うそやろ(笑)
その日から、虎雄さんは毎週1人で会いに来てくれるようになりました。
■シャイ!?めちゃレディーファーストですやん!!
『めちゃくちゃシャイ』だったはずの虎雄さんは、毎週必ず花束を持ってお店に来てくれるようになりました。そして私が席に行くと、必ず膝をついて、手にキスをしてくれるのです。
・・・おいおい、シャイちゃいますやん(;・∀・)
見た目はがっしり&鋭い目で話しかけても反応が悪いので、他の女性たちはちょっと敬遠していました。最初は私も「やりにくいな」と思ったものの、あまりの変貌に、お店の全員が驚きました。
ドリンクオーダーも、お客様なのに真っ先に「玲ちゃんは何飲みたい?」と尋ねてくれる。同伴すれば、あたりまえのようにドアは開けてくれるし、エスカレーターでも昇りは後ろに、下りは前に立ってくれる。
階段やちょっとした段差で、サッと手を差し出しエスコートする姿は本当に自然体で、前々からそういう行動をしていたとわかるくらい、染みついている。
・・・日本人の皮をかぶった外国の方ですか?(;・∀・)
というくらい、スマートな立ち振る舞い。どこがシャイやねん。
■電柱と大ゲンカ
あるとき、そろそろ閉店という時間に、すごい剣幕で「玲ちゃん、ちょっと来て!!」と外に連れて行かれました。また怒られるようなことをしたんだろうか、と一瞬ドキッとしました(思い当たる節がありすぎて草)。
連れて行かれた先は、その『ドキッ』を吹き飛ばすほどインパクトのある光景。虎雄さんが、電柱とケンカをしていました。「・・・なにしてるの?」と尋ねると、
「おー玲ちゃん!こいつ、生意気なんだよ、俺をにらんできやがって。殴ってもどかないんだよ」
虎雄さんはどうも、ある一定のラインを超えると、酒癖が悪いようです。この日だけでなく、何度も電柱とケンカをして、拳から血を流していました。女慣れしてるのか、シャイなのか、酒乱なのか、はっきりしてほしい。
■「女性はみんな、お姫様」
電柱とのケンカシーンを見たくらいから、虎雄さんは酔うといつも、
「玲ちゃん。女はね、みんなお姫様なんだよ。お姫様扱いしてくれる男と付き合わなきゃダメだよ。変な男に引っかかるなよ」
と、口癖のように言うようになりました。はじめは「ハイハイ」と聞き流していたのですが、虎雄さんのレディーファーストを振り返り、「ああ、そうか。お姫様扱いしてくれてたのか」と、遅ればせながら気付きました。
最大限の愛情表現をしてくれる人、優しくしてくれる人、守ってくれる人。
そんな男性と恋をするんだよ、と、行動で示してくれていたんだな、と。電柱とケンカさえしなければ紳士なのに、虎雄さん残念すぎる( 一一)
■初めて見たお客様の涙
息も白くなりかけた秋の終わり、また虎雄さんが電柱とケンカしてる!と呼ばれました。このころはもう、私が行かないとケンカ(?)が収まらないようになっていたので、「またかw」くらいの気持ちで行きました。
でも、その日は違ったんです。
虎雄さんは、負けたボクサーのようにうなだれて、電柱にもたれかかっていました。「今日は電柱に負けたの?」と尋ねると、フフッと笑って、ひとりごとのように話し始めました。
「俺、結婚を決めた女性がいるんだ。フィリピンの人で、仕事つながりで出会ったんだけど、うちの両親が猛反対してね。認めてもらえるように、1年くらい2人でがんばったんだけど、彼女、心が折れて国に帰っちゃった」
私は、相槌もせず、黙って聴いていました。
「俺、彼女に『絶対に迎えに行くから』って約束したんだ。絶対に親を説得して、迎えに行くって。でも2年も経っちゃった。情けないよなあ」
そう言って、虎雄さんは涙を流しました。ホステス人生で初めて見た、お客様の涙。小娘の私はどうしたらいいかわからず、ただ黙って虎雄さんを見つめていました。
「ごめんな、玲ちゃんに情けないとこ見せちゃって。俺みたいな男に引っかかるなよ。女はお姫様なんだから。大事にしてくれる男と付き合わなきゃダメだぞ」
「情けなくないよ。虎雄さん、いっぱいお姫様扱いしてくれたじゃない。でも虎雄さんが本当にお姫様にしてあげなきゃいけないのは、その彼女なんじゃないの?待ってるんじゃない?」
私がそう言うと、虎雄さんは笑って立ち上がり、フラフラと帰っていきました。虎雄さんが電柱とケンカしていたのは、自分の不甲斐なさの表れだったのかもしれません。
■虎雄さん、フィリピンに飛び立つ
数日後、虎雄さんから「今からフィリピン行きの便に乗る」と電話がありました。
「もう日本には戻ってこないと思う。玲ちゃんに会えなくなるな」
「彼女のところに行くのね」
「・・・玲ちゃん。いい男つかまえろよ。女はお姫様なんだから」
「わかった、虎雄さんよりいい男つかまえる」
「絶対幸せになれよ、応援してるからな」
「うん、虎雄さんもね」
これが、虎雄さんとの最後の会話になりました。
■いまでもずっと忘れられない人
その後、虎雄さんが彼女と会えたのか、結婚したのか、知る由もありません。仲良しトリオには、フィリピンに行くことさえ告げなかったようです。どうか愛する彼女と幸せに暮らしていてほしい・・・と、今でも心から願っています。
そして、今の私は、
「玲ちゃん、女はみんな、お姫様なんだよ。だから、お姫様扱いしてくれる男をつかまえなきゃダメだよ。変な男に引っかかるなよ。玲ちゃんを大事にしてくれる男と出会って、幸せにならなきゃいけないよ」
という虎雄さんの言葉を事ある毎に思い出し、なぜだかわからないけれど、泣きたくなります。
もしもまた虎雄さんと言葉を交わせる日がくるなら、お礼を言いたいです。虎雄さんの言葉があったからこそ、私は「幸せにならなきゃ」と思って生きてこれた気がします。
ありがとう。虎雄さんが幸せでありますように。