歳を取れば取るほど幸せになる

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  『歳を取れば取るほど幸せになる』そんなバカなことがあるものかと思う方が多いかもしれません。しかし奇をてらって言っているわけではありません。近年の心理学や老年学の研究成果にそのような論文が多くみられるのです。学校の授業ではないのでポイントだけ抜き出して説明をさせて頂きます。簡単に言うと先進工業国などを中心に歳を取った人がドンドン増えている事が、歳を取るということはいかなる事なのであろうかという研究を加速させました。 
[総務省資料]
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日本では65歳以上の人は全人口の28.4%、イタリアでは23.0%、アメリカでも16.2%です(2019年)。歳を取った人たちの割合はドンドン増える傾向にあります。
[総務省資料]
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そこで高齢者に対する研究もドンドン進んできたというわけです。そうれでどんなことが分かって来たのでしょうか。これが本題です。
  高齢者の急増は研究者の興味と研究のニーズを高めました。しかしアメリカに比べ日本の高齢者に対する研究は遅れています。そのため日本では高齢者の心理などに関する情報は少ないと思いますので、外国の研究を紹介します。
  【その1 SST】
  数多くの研究がなされているのですがSST(;socioemotional selectivity theory)を紹介します。日本語では『社会情動的選択性理論』と訳されていますが、分かりづらいですよね。Socioemotionalは外の社会(socio-)と関連した情動(emotion)と考えて下さい。私は次の様に意訳しました。『歳をとったら社会との係りを選択的に行うという理論』です。歳をとったら、若いときのようなエネルギーはないので交際範囲、活動範囲を本当に必要なものだけに絞っていくというものです。その結果どうなるのかということが重要なポイントですが順を追って説明をします。
  あなたはこの世界にあと何年位生存できると感じていますか。40年と感じる人もいれば20年くらいだろう感じている人もいると思います。あと10年という人もいるかもしれません。もっと極端に言うと残された人生の時間を無限と知覚するのか有限と知覚するのかということです。残された時間が無限と知覚する人と、有限と知覚する人では心理的処理、社会的目標の選択、社会的行動が異なるのです。これがSST理論の研究で導き出された重要な考え方です。
  無限と知覚する人は知識の習得など先の長い目標、いわゆる知識関連目標(knowledge-related goals)を優先します。将来見返りが期待できるものを目標にします。そしてそのときのwell-being、幸福感を低下させるものであっても将来に期待して目標を設定します。それに対し有限と知覚する人は将来よりも「今」を重視し、「今」の情動的満足や情動的目標(emotionally meaningful goals)など感情に関する目標を優先します。この両者の違いはどの様な結果をうむのでしょうか。結果はですね、残された人生を有限であると知覚し、「今」の情動を大切にする生き方を選択した人の方がwell-being、幸福感は高くなるという研究結果が報告されています。これは一昔、発表された離脱理論(disengagement theory)や活動理論(activity theory)を否定する結果となります。 離脱理論(disengagement theory)とは人は加齢とともに社会から離脱していくという理論です。社会の活動から離れて小さくなって暮らすということです。これに対してSST理論では高齢者は社会から離脱していくのではなく、自分で自分の選択肢をより明確にしているのだと主張しています。
  活動理論(activity theory)というのも昔は重要な理論と考えられていました。この理論では高齢者の満足感は社会との接触や人間関係の維持、目標を持ち続けることによって得られると考えています。しかしSST理論を唱えたLaura. Carstensenは多くの調査結果から高齢者は人との接触の機会を与えられても積極的にはその機会を利用しようとは考えないと述べています。ようするに社会的な活動のチャンスがあっても、すべてのチャンスを受け入れるのではなく、より選択的に、つまり旨味のありそうなところだけを選択的に受け入れるのです。そうのようにうまみのある所だけをチョイスすることでどうなるのでしょうか。
  SST理論の提唱者、Laura. Carstensenは高齢者は活動の範囲や交際の範囲は狭まる、あるいは狭めるが、人生に対する満足度やwell-being、幸福感は高くなる傾向があるという研究結果を発表しています。歳をとっても満足度やwell-being、幸福感を若かったとき以上に感じながら生きる人は多いという結果になるというのです。
【その2 SOC】
 先に紹介したSST(;socioemotional selectivity theory)にはもとになる理論があります。ポール・バルテスのSOC(the selective optimization with compensation model)という理論です。ポール・バルテスは生涯発達論を追求した人です。人の知能は歳をとっても発達し続ける部分と失われて行く部分があり、生涯発達を獲得(gains)と喪失(losses)、成長(growth)と衰退(decline)の混在したダイナミックスとしてとらえています。加齢によって「知恵」が発生するというようなことも研究していました。もし加齢によって「知恵」が発生するならそれは人生の後半で人格の統合が行われる傾向があることと関連があるかもしれません、そんなことを研究していた人がポール・バルテスです。
  ポール・バルテスの生涯発達論のなかで中心となるのがSOC(the selective optimization with compensation model)「選択的最適化とそれによる補償」です。SOCのことをポール・バルテスはルービンシュタイン(Rubinstein,A.)の演奏を例にして説明しています。
   ルービンシュタインは80代になってもピアノ演奏を続けました。80代になると厳選した作品を演奏し(selection)、若いころならやらなくても済んだ箇所を繰り返し練習しました(optimization)。さすがにルービンシュタインも80代になると速いパッセージは演奏できませんでした。そんなときどうしたかというと速いパッセージの前の部分を意識的にゆっくりと弾いたといいます。そうすることで相対的に速いパッセージを若いときのように速く弾いたように印象付けるような演奏方法をとったといいます(compensation)。
  歳を取ったからできないとあきらめるのではなく、チャレンジする範囲、チャレンジするものを厳選する(selection)。範囲が狭まれば、最適化(optimization)も可能ですよね。それでも出来ないことは他のことで補う(compensation)。歳をとってもできることは沢山ある。やってみれば満足度やwell-being、幸福感がアップする。しかも若いときよりも、満足度やwell-being、幸福感がアップしている人が多いというのです。
  ポール・バルテスは2005年世界老年学会基調講演の最後にギリシアの叙事詩人、ヘーシオドスの言葉をもじって下記の言葉を述べました。 「If you choose the right half, half will be more than the whole.」 これだ!というものを半分の箇所でもいいから選んで、それを一生懸命やれば、無理に全体をやるよりも、ずっと素晴らしい出来栄えになります。半端な出来映えで全体をやるよりも、たとえ半分の範囲であっても、立派にできていればそれは素晴らしいできであったといえますよね。半分であっても、立派なものは立派です。例えば遺跡から半分に引きちぎれた金貨が出てきたとします。例え半分に引きちぎられていようとも金貨は金貨、完全な形のレプリカよりもずっと価値がありますよね。
  生涯発達という考え方に積極的なポール・バルテスですが、80代以上の高齢者の人たちの加齢に伴うネガティブな側面に直面したとき、戸惑いを感じたようでした。ポール・バルテスは67歳でこの世を去ったので、ご自身では80代の人間の内面を経験することはありませんでした。80代以上の高齢者の世界はどのようなものなのでしょうか。ポール・バルテスも知らなかった百寿者の世界を展望してみましょう。
【その3 百寿者の世界】
 2014年10月15日(水)クローズアップ現代で「“百寿者”知られざる世界」というものが放映されました。(百寿者というのは年齢が100歳を越えた人のことです。)インターネットで調べてみると、いまでもいくつかその話が出ています。「クローズアップ現代」100歳になって知る多幸感「老年的超越」で検索してみて下さい。
  記憶だけで番組の内容を書いてみます。登場人物の名前は憶えていないので仮名です。日本国内では、1963年、百寿者は153人、1998年、1万人をこえ、2019年では7万人をこえています。番組は大阪の某大学の先生が何年にもわたって百寿者を対象に聞き取り調査をおこなった結果に基づいていました。調査の結果分かった事は百寿者の多くが「多幸感」を持っていることがわかったのです。「多幸感」というのは字の如くで幸せ一杯の感情の世界に生きているというのです。豊かな世界とも言っていたと思います。
   番組では大阪の大学の先生(:権藤恭之准教授だったかも)が百寿者に聞き取り調査する場面が放映されていました。
「太郎さん、おいくつになられましたか?」
「百〇〇歳になりました」
「太郎さん、今、幸せですか?」
「大変幸せです」
「太郎さん、もし昔に戻れるとしたら何歳のときに戻りたいですか?」
「昔には戻りたくないです。今が一番幸せです」
  暫くすると曾孫さんでしょうか、十代と思われる女の子が、太郎さんに声を掛けました。 「おじいちゃん、ご飯だよ」
  太郎さんは返事をすると、歩行を助ける車の付いた物、歩行を補助する器具を使ってユラリ、ユラリと食事をする部屋めがけて歩き出しました。
次の聞き取り調査では女性が現れました。質問内容は同じでした。そして女性の回答も同じでした。
「今が一番幸せ」
「昔には戻りたくないです」
  インターネットで調べると「多幸感」に疑問を投げかけるようなことも書いてありますが番組ではそのようなことには言及していなかったと記憶しています。不思議な世界があるのですね。百歳まで生きてみたいと思うようになりました。皆さんはどのように感じましたか。






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