嬉しさザクザク⑥

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コラム
良三が出した居酒屋 ”勢太郎”は開店してから二年半。
店は繁盛していた。
料理が美味しく料金は安いからこれで繁盛しない訳はない。
オフイス帰りのサラリーマン達が一日の仕事の疲れと、うっぷんを晴らす為に足繁く通って来てくれていた。
去年の夏は猛暑で特に生ビールが猛烈な勢いで売れていた。
数多くの肉じゃが、焼き鳥、冷や奴、刺身の盛り合わせなどが生ビールと共に
お客の胃の腑に収まって行った。
妻の恵子も、かいがいしく働いてお客からの評判も良かったし、店員のバイト達からも、おかみさんと慕われ頼りにされていた。
売り上げは毎晩良好だった。
あなた、今夜も”大入り”よとバイトも帰って店内の掃除も終り、売り上げを計算していた恵子が笑みを浮かべながら言った。
この調子なら都内に二店舗目を出せるなぁと二人は話した。

最初はウィルスが蔓延して人々が感染していると聞いた時、良三は遠く外国の事で、しかもウイルス感染などは今まで何度も聞いている。
毎年インフルエンザの流行でウィスルス蔓延と聞いても特に不安にも思わなかった。
それが、今では大変な事になってしまった。
行政の方から店の営業を差し止められている。補償は有るものの、良三の居酒屋 ”勢太郎”は毎晩の売上高は良い数字を上げていた。
僅かの補償金を貰ったところで焼石に水だ。
最初は、今までの稼ぎで余裕が有ったが半年以上も営業自粛、酒類売るなとなれば、売り上げは激減。お客の方も感染したくないから居酒屋から足が遠のく。
完全にアウトになってしまった。一年程経って返済が苦しくなってきた。
この店を出すに当たり約650万円かけた。500万円を銀行から借り入れている。家賃の支払いと銀行の支払いで毎月30万円位支払う。
それと自分たちの生活費と、バイト料の支払いが有る。
家賃は三か月溜めて大家と不動産屋から鬼の催促を受けていた。
また、緊急事態宣言かよ 俺を殺す気かとテレビのニュースに良三は怒りをぶつけた。
もう半年も家賃を溜めている。バイトの子達は全員辞めさせた。
誰もお客が居ない店内で、恵子と二人で話した。
もうこれ以上、続けるのは無理だ。銀行と大家と不動産屋が束になって責めてくる。
良三は廃業した。
辞める時に現状復帰を言われたが強く断ったし、本来ならば敷金の全額返金が国土交通省の指導となっているが、良三は家賃を溜めていたのでその分は変換されなかった。
備品はリサイクルショップに売ったが、大した金額にはならなかった。
良三に残ったのは借金だった。食材の仕入れの問屋にも支払いが残っていた。
自宅の家賃の支払いにも苦労していた。
良三は酒に癒しを求めるようになり、妻の恵子との仲も不仲になり一緒に居るのが疎ましく感じていた。
それは妻の恵子も同じだった。
ある日、良三が外から戻って来た時に、恵子は居なかったが一枚の紙がテーブルの上に置いて有った。
離婚届だった。恵子の記入欄は埋められ捺印されていた。
金の切れ目は縁の切れ目とはこの事かと良三は呟いた。
幸い、子供が居なかったので身軽であったのだろう。
それに恵子は素封家の娘で実家に戻れば、とりあえずお金に困る事は無い。
良三にくっついていれば、ずっとお金に苦しめられる事になる。
そう考えたのだろう。
恵子を恨む気持ちは微塵も無かった。

安アパートが良三の棲家となった。
さて、これからどうしたものかと良三は毎日考えた。自分の食い扶持のお金も心もとない。
かと言って他人に使われるのはイヤだと考えていたので求人は見なかった。
おれは、人生に失敗したと思った。
妻にも逃げられ、男として最低だと自分を責めていた。

旨くお金を稼ぐ方法は無いかと毎日思いを巡らせていた。
居酒屋などは確かに売り上げも良く景気も良いが一番のネックは家賃と仕入れ金だ。この二つが大きく経営にのしかかって来る。
だから、この二つが無い方法でお金を稼ぐ方法は無い物かと毎日考えていた。








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