クルミ弾(終)

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コラム
権蔵がこの村一番の知恵者にタヌキを全滅させる良い戦術を聴きに行こうと言った案に全員が賛成した。
よし、そうと決まったら景気づけに一杯飲んで行こうじゃないか。
村一番の知恵者にも、みやげに酒を持って行こうとリーダー格の権蔵が言った。
母ちゃん、みんなに酒を出して呉れやと権蔵が言ったので、一升徳利に酒を入れてみんなの前に持って来た。
湯呑で飲んでいる。
あのタヌキにしてやられてた事を大きな声で喋っていた。
藤吉、おまえは未だ臭いにおいがするぞと、からかわれていた。

権蔵の嫁が酒の、つまみだと言って白菜の漬物を持って来た。
漬物には唐辛子が振ってあった。
それを見た藤吉たちは、もう唐辛子は、こりごりだと言って敬遠した。
一杯気分になった猟師達は権蔵を先頭に村一番の知恵者の住まいに向かって歩き出した。
その、村一番の知恵者って誰だと藤吉が訊いた。
それは、お寺の和尚様だよと権蔵は言った。
ああ、なるほどね和尚様は孫子の兵法などに詳しいから、きっと良い戦術をおしえてくれるだろなと留吉が言った。
うむ、期待が高まると藤吉が言った。

やがて、一向は小高い丘に建つ、建立350年、お寺の境内に入った。
境内までは登り150段の石段が続く。
その石段を挟むようにして、樹齢800年の杉の木が参拝者を見下ろすかのように聳立している。
境内の中は綺麗な玉砂利が敷かれ、掃除が行き届き広々として解放感が心地よい。
池の鯉が権蔵たちの気配を感じてバシャッと跳ねた。
本堂の中からは和尚の読経の声が朗々と聞こえ、線香の馥郁たる香気が権蔵たちを包み込んだ。
やがて和尚の読経の声が聞こえなくなった。
そして、最後にゴ~ンと言う低いリンの音が鳴り響いた。
権蔵たちは読経の邪魔をしてはいけないと本堂の前で待っていた。
みんな中にはいるべと権蔵が言ったので、みんな本堂の中に入って行った。

こんにちは、和尚様。
今日は折り入ってお願いが有って参りました。
おお、みんな揃って元気かな。
和尚様は、みんなを見渡した。
300畳敷の大広間の真ん中に座った権蔵たちは、このお寺の本尊の大きな釈迦像を眺めた。
輝くばかりの釈迦像が金色の光を放って鎮座している。
両手を合掌し宇宙の平和、魂の安寧を示している、その姿は見る者を圧倒する。
直径が一尺半寸も有ろうかと言う大きなリンが台の上に有る。
お願いとは何かなと和尚は、にこにこしながら言った。
権蔵は、今までの藤吉の事やタヌキとの戦いなどを和尚に話した。

今度こそはタヌキを殲滅したいのです、和尚様は孫子の兵法などに詳しく何か良い戦術は無いものかと、こうしてみんなで来たのですと権蔵は言った。
権蔵の話を黙って最後まで聞いていた和尚様は言った。
あはは、それは酷い目に遭いましたな。

しかし殺生は、おやめなさい。
すべての生類、物質、魂と言うのは全てエネルギー波動で出来ていて繋がっている。
動物も植物もみんな意識も有るし感情も有る。
人間と何も変わらない。
だから命を軽んじてはいけない。
もうタヌキや動物達を狩ろうとしてはいけない。

しかし、動物の肉を食べないと人間は元気も出ず死んでしまうのではないかと藤吉が言った。
動物以外の食物で健康頑健に生きられるように御仏の慈愛で人間は作られている、その真実に気が付きなさい。
馬や牛などは、藁(ワラ)と草を食べているだけで、筋肉隆々の肉体をしているのです。
いま、五代将軍の綱吉様が生類憐みの令を出されたのじゃ。
むやみに動物を殺生する事は、ご法度だとお触れを出されたのじゃ。
もう狸たちを殺そうなどと考えるのはおやめなさいと和尚は静かに言った。
権蔵は暫く和尚の話に耳を傾けていたが、やがてみんなに和尚様の言う通りだ。
タヌキ達だって命が惜しい。
俺達だって命が惜しい。
人間もタヌキも同じだと言った。
もう狸たちを狩るのは止めようと藤吉がポツリと言った。
せっかく酒を飲んで気勢を上げて景気づけてタヌキ殲滅の戦術を聴こうと思ってやって来たが、和尚が説教を諄々と語ってくれたので、みんな命は大切だと悟ったのだ。
お寺を後にして150段の階段を降りて郷道を歩きながら留吉がもう鉄砲は要らないと言って沼の中に投げ捨てた。
他のみんなも同じ気持ちだった。

ヒヤー。危ない所だった。
あのままだと、全員が人間に殺されていたよ実に危ない所だった。
と長老のポン太とモコ姐さんはじめ、他の動物達も集まって話した。
犠牲になった戦友の動物達を懇ろに弔った後にみんな集まっている。
ポン太は左の肩を撃たれたのでグルグルの包帯を痛々しく巻いて居る。

しかし、今回はなんとか、くるみ弾で追い返したが人間の事だから更に戦力を充実させて、このタヌキ部落に襲撃をいつして来るかとっても心配で不安だと、幼い子ダヌキ兄弟の兄、りょう君が言ったが、もう人間は金輪際このタヌキ部落には攻めて来ないよとポン太が言った。
もう二度とこの山に狩りが目的で人間が登って来る事は無いと言った。
わしの霊力の直観がそれをはっきりと伝えておると長老ポン太が言った。
長老の言う事なら真実だと、動物達全員が喜んで喜んで自分たちのお気に入りの場所に走り去った。
その後ろ姿は、とっても輝いていた。









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