くるみ弾⑥

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コラム

去年の夏に唐辛子が大量に採れたので粉末にして保存していると言ってたよな。
と長老のポン太がモコ姐さんに訊いた。
粉末にして壺に入れて保存していますとモコ姐さんは言った。
それを大急ぎでこの陣地まで持って来てくれ
おさるさんは、くるみの実が大好物だから棲家で沢山食べているので殻が無いかと訊いた。
半分に殻を割って食べるから殻だけ沢山ありますと、さるさんは言った。
その、くるみの殻を大急ぎで陣地まで持って来てくれとポン太が言った。

もぐらさん、猟師達が里へ戻る時はタヌキ部落から下へ伸びる細い山道を下って行くから、その細い道の下に大きな穴を掘っていて欲しいのじゃ。
道の表面の土を3寸(約9センチ)くらい残して下は半間くらいの深さの大きな穴を掘って欲しいのじゃ、つまり落とし穴じゃとポン太は言った。
もぐらは、仲間200匹で権蔵から頼まれた穴を短時間の内に掘ってしまった。

モコ姐さんは唐辛子入りの壺をイノシシの背中に載せて陣地に戻って来た。
お猿さんも、大きな袋に半分に割れたくるみの殻を、お猿さん達みんなで持って来た。
みんなー!
手分けして、くるみの殻に唐辛子の粉を詰めるのじゃー!
とポン太が三基の陣地に指令をだした。
唐辛子を詰めたら殻を紐で縛って、投石器で飛ばすのじゃと言った。
三基の陣地ではウサギ、しか、イノシシ、さる、トンビなどの動物達は猟師がドギューン、バーンと発砲して飛んでくる弾の下で一所懸命に唐辛子入りの、くるみ弾を作っている。
猟師が10間位(約18メートル)の所まで迫って来た時に、くるみ弾を投石器に装填する事が出来た。
くるみ弾発射ー!とポン太が号令を掛けた。
各陣地の投石器から、くるみ弾が一斉に発射された。
くるみ弾は大きな弧を描いて猟師達に雨あられと降り注がれた。
バチ!ボコ!ビシ!と猟師達の身体に当たった。
猟師達は、また小石弾かと思ったが今度は様子が違っていた。
猟師達の額や体に当たった、くるみ弾は、はじけて中身の粉末唐辛子が勢い良く散乱した。
その唐辛子の粉末が猟師達の眼や、鼻、のどを強く刺激した。
激しい咳と激しい目の痛み、のどが焼けるように痛い。
眼を開ける事ができない。
唐辛子入りの、くるみ弾は容赦なく次々に猟師達に命中しては破裂し唐辛子の粉末をまき散らす。
猟師達の顔や帽子や服が、たちまち唐辛子の色で赤く染まった。
うわッ!これはたまらない。
からい!痛い!苦しい!熱い!猟師達はもう鉄砲を撃つどころでは無くその場に座りこんで、苦しがっている。
それでも三基の投石器から、くるみ弾は発射され続けていたので人間の漬物ができそうだった。
撃ち方やめー!とポン太が声を張り上げた。
ようやく投石器から、くるみ弾は止った。
猟師達は苦しがっていたが、何とか立ち上がった。
目は、まともに開ける事が出来ない。
鼻の奥に唐辛子の粉末が入っているから、はなみずが滝のように流れている。
水筒の水で目を洗ったり、うがいでホンの少しは楽になったようだ。
猟師達は改めてタヌキ達の陣地を見た。
もうその時の猟師達は完全に戦意を失って憮然(しょんぼり)としていた。
権蔵が、今のこの有様では戦う事は出来ない一度退却だと言った。
眼がなんとか開けられた藤吉は開けられない仲間の手を取って猟師達全員が里の方へヨロヨロと歩き出した。
その時、また三基の投石器から、くるみ弾が発射された。
猟師達の頭や体に命中し、唐辛子の粉末が散乱した。
うわー!
早く里へ退却するのだー!と権蔵が声の限り叫んだ。
藤吉たちもこれでは、とても堪らない。
早くこの場から退却しないと命が危ないと思った。

みんな走れー!走らないと、くるみ弾を食らうぞー!と権蔵が叫んだ。
その声と同時に猟師達は里に下る細い道を一斉に走りだした。
その時、猟師達の足元の地面が突然落ちた。
猟師達みんな、もぐらが掘った落とし穴に落ちてしまったのだ。深さは半間くらいだから立てば上がる事ができるが、落ちた衝撃で腰を抜かして立てない猟師もいたが、やがてみんなして里へ下りて行った。
散々な目に遭った猟師達であった。

里へ下りて来てから三日位経った頃にやっと猟師達は落ち着きを取り戻した。
みんな権蔵の家に集まって、てんでに恨み言を言っていた。
散々な目に遭ったが、きっとタヌキ達を、やっつけてやるとみんなで、息巻いていた。
あのタヌキの連中は甘く見ると、とんでもない事になるなぁ。
あの時、一抹の不安が脳裏を横切ったのは気のせいでは無かったのだ。
なにか、良い戦術は無いものかと権蔵はじめ藤吉など、みんなで思案していたが、留吉がタヌキ部落の周りに、ナタネ油を撒いてそれに火を点けたらタヌキの黒焼きが出来るぞと言った。
確かにタヌキの退路を油で満たし、それに火を点けたら皆殺しにできる公算は高い。
火を、かい潜って逃げて来るタヌキを鉄砲で狙い撃ちしたら面白いように、やっつける事が出来るだろう。
前回、この留吉の案で酷い目にあったから余り気が進まなかったが、留吉の戦術にはリアル性があった。
他に良い案が出なかったので、自然に留吉の案を実行する事に決まりつつあったが、
権蔵が、そうだこの村一番の知恵者に何か良い戦術が無いものか聞いてみようと言った。
みんなも留吉の案よりは良いと思ったので賛同した。


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