『ラグビーっていいもんだね』

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コラム
大好きな藤島大さんの著書名。この言葉のセンスが大好きだ。
藤島さんの素敵な言葉のメモ。

この言葉はワールドカップの期間中に酒場で聞いた。「にわか」を自称する男性のさりげないつぶやきだった。ほかの場で耳にした「大差がついて勝敗は決まってるのに負けてるチームの懸命なタックルに感動する」や「試合後の自然な敬意の交換に心打たれる」といった言葉が「いいもんだね」にストンと収まった。おもしろさの奥、あるいは前後左右に「よさ」が詰まったり漂ったりしている。
ワールドカップで初めてラグビーをテレビ観戦した図書館勤務の女性の一言「あんなに激しく走ってぶつかるのにスクラムからボールがピョコンと出てくるのがたまらない」。荒々しさと繊細さのコントラストを期せずして語っている。長くラグビーを追ってきて、ずっと感じてきたことを、観戦初心者が素直に表してくれた。ごりごり押し合いながらスクラム最後尾の者は足指の先やスパイクの底をセンサーに楕円球をコントロールする。背番号9の仲間を楽にさせるためポッと静止させる。図書館で働く女性にはユーモラスに映った。そして、そんなほのぼのとした瞬間がタフな攻防の決着に大いに影響する。擬音ならゴロゴロでなくピョコンと球を出すチームのほうが強い。

大きな試合の中に「小さな試合」がたくさんある。50点の差をつけられて終了まで3分、まだ必死にタックルを続ける。転んでも転んでも起き上がる。するとラグビーをよく知らなかった老若男女の心は動いた。劣勢のチーム、選手は眼前の戦いの勝利をめざしている。いまタックルで阻めば「その瞬間のコンテスト」の勇者であり、自陣ゴール前の防御を粘りに粘って、とうとう落球を誘えば「小さな試合」の勝者だ。

ラグビーの魅力を聞かれるたびに次のように答えてきた。「きわめて身体的なスポーツなのに身体能力のみで勝負は決まらない」「体育5が体育3に意外に苦戦する」。まさに「身体能力のみで勝負は決まらない」。ということは「身体能力のほかの要素があちこちでしょっちゅう問われる」。なぜか。競技ルールと関係してくる。スクラム、ラインアウトのセットプレーで攻防の連続は絶たれる。ペナルティーのあともしばしば進行は滞る。そこに「考える間(ま)」や「リセットの時間」は生じる。アイデアを思いついたり、インプレ―が延びることであらわになりつつあった身体能力やスキルの劣勢をいったん仕切り直せる。長短軽重の体形、巧さや強さ、賢さと愚直さ、機を見る鋭さに苦難に身をさらしてみせる鈍さ。ラグビーは人間の多面を求める。必然、そこに多様な個性は集う。ワールドカップ・ジャパンは、どれほど統制のとれたチームであっても「画一」とならなかった。まさに社会。ラグビーの深さだ。つまり、あなたにも出番がある。
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