質の高い”事業計画書”は資金調達や人材の確保を通じて事業を成功に導く

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ビジネス・マーケティング
起業して事業を作りたい、会社で新規事業を任された、など事業を起こそうとする人にとって、事業計画書の作成は避けては通れない壁だ。融資や投資家への説明など、資金調達のためのツールとして認識されることが多い事業計画書だが、実はそれだけではない。質の高い事業計画書を作成することで事業の成功を一気に手繰り寄せることができるはずだ。テンプレートを示しながら、書き方とポイントを解説する。
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目次
1.事業計画書とは
2.事業計画書の活用場面と作成するメリット
3.事業計画書の書き方(書くべき内容)
4.事業計画書を書く際のポイント
5.よくある質問と回答
6.出来上がった事業計画書のチェックポイント
7.テンプレート
8.まとめ
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1.事業計画書とは

事業の意義、目的、内容、運営方法、展望など”事業を行うための計画”を記載した書類が事業計画書だ。

会社を創業して新たに事業を造る場合、既存の会社で新たな事業を造る場合、既存の事業を継続する場合など、事業の計画を整理し他者に説明する際に必要となる。

金融機関からの融資を引く場合や投資家からの出資を受ける場合など事業を運営するために必要な資金を調達するために必要な書類であるため、多くの起業家や事業責任者が作成に追われているはずだ。しかし、事業計画書は必ずしも資金調達のためだけに作成するものではない。

事業計画書作成の過程で運営者自らが、事業について深く調査、考察し、事業を成功させるための計画を可視化することで事業自体を洗練させていく効果があることに加え、計画書の読者に事業を理解してもらうことで、運営者として事業に参画してくれる人を募ったり、パートナーとして事業を共同運営してくれる人を募ったりする場面でも極めて有用な書類となり得るのだ。

2.事業計画書の活用場面と作成するメリット
では、事業計画書を活用する場面毎に、事業計画書を作成することのメリットを見ておこう。

図表1:事業計画書を活用する場面と、事業計画書を作成するメリット
スクリーンショット 2021-07-23 21.53.57.png
①運営者自身による事業の見直し
事業計画書は、他者への説明だけに用いる書類ではない。事業計画の立案者、すなわち事業の担い手自身が、事業計画を洗練させるために有用だ。

事業計画書を作成しない場合、事業の担い手はおぼろげながら頭の中で思い描く事業の概要だけを頼りに事業を推進することになる。ビジネスモデルやターゲットとする顧客、キラーコンテンツなど、断片的に事業を思い浮かべることができても、それらが一連のストーリーとして言語化されていない以上、「思わぬ考慮漏れ」や「論理の飛躍による落とし穴」が待ち受けているものだ。

事業計画書を作成し、できれば異なるバックグラウンドを持つ複数名の視点で事業の概要と進め方をレビューし、事業の要点を可能な限り詳細に言語化しておこう。

②資金調達
事業を始めるにせよ、続けるにせよ、必ず必要となるのが「資金」だ。どんなに優れた事業でも、お金がなければ始めることは難しい。そのため、多くの起業家、事業企画者は「資金調達」に奔走することになる。

資金調達の手法には大きく融資と投資がある。前者は「お金を借りる」ことであり、後者は「お金をもらう」ことだ。融資の場合は、借りているので、返済をする必要がある。大抵の場合、貸し手は金融機関であり、貸出期間や金利に合意して資金を借りることになる。事業を運営することで上がった利益を返済に当てることになる。後者はお金をもらっているため、返済する必要はないのだが、資金の出し手である投資家には、事業の一部を所有する権利を譲渡することになるため、事業から上がった利益の一部を所有権に応じて分配することになる。

金融機関からお金を借りるにせよ、投資家からお金をもらうにせよ、起業家・事業企画者はこれから行おうとする事業がどの様なもので、どの様に推進していくのかなど事業の計画を説明する必要がある。この際、必ずと言って良いほどに必要となるのが事業計画書だ。

お金の出し手である金融機関や投資家は、「そもそもどんな事業なのか」「どの様に事業を運営するのか」「どんなリスクがあるのか」など、いくつかのポイントを確認したいと考えている。自分がお金を出す以上、自分の儲けに繋がる事業を見極める必要があるからだ。

事業計画書を作成し、お金の出し手が確認したいポイントをしかり説明することで、資金調達は容易になる。仮に事業計画を説明した際に指摘が入っても、その観点で計画を見直し再度練ることで資金調達に近づくことができるのだ。

また、大抵の場合、お金の出し手側も、資金を提供する意思決定の際に、内部で検討することになる。この時に言語化された事業計画書がなければ、検討すらできず、資金調達がかなわない。この意味でも、事業計画書は必須ツールなのだ。

③事業参画者の募集
事業を開始・運営する上で資金以外で必要となるのは事業を共に進めてくれる「参画者」だ。仲間を募集する際には、この事業が「どんな事業」で「どんな意義」をもち「どの様に発展」していくのか、夢を語る必要がある。ここでも必要となるのが事業計画書だ。

「この事業は面白そう」「この事業が挑戦する課題の深刻さを理解した」「この事業が成功したら素晴らしいことが起こる」など、協力してくれる人の頭と感情に訴えかけることで優秀で、事業に共感した人を集めることができるのだ。

3.事業計画書の書き方(書くべき内容)

事業計画書で書くべき内容は以下の通りだ。

図表2:事業計画書の内容
スクリーンショット 2021-07-23 22.06.49.png
(*)融資/投資などを引き出す際に必要

図表2は事業計画書で書くべき内容のまとめだ。事業計画書は「事業を説明するための資料」なので、必ず読み手が存在する。例えば金融機関の融資担当者、投資家、これから事業に参画する可能性のある社内外のメンバーや、事業で協力を仰ぐパートナーなどだ。

当然ながら、読み手によって関心事は異なる。融資担当者や投資家であれば、最も気になるのは事業概要と収支計画だ。自分が出したお金がどのように使われ、ちゃんと利益込みで返ってくるかが融資や出資の判断ポイントとなるからだ。一方、事業に参画するメンバーであれば、事業の内容やその中で自分がどの様な役割を担うかに関心の力点がおかれるだろう。

読者が変われば、説明する際の力点の置き方や、説明の順番を前後させるなどの工夫は必要になるが、事業計画書として盛り込むべき内容は変わらない。

では、それぞれの項目について順番に解説する。

1.事業の背景にある課題
読み手が知りたいこと:この事業が解決する課題はどんなものか?
書くべき内容
・誰が、どんなことに困っているのか(プロブレム)
・誰が、どんなことを望んでいるのか(ニーズ)
・困まる状況、望む状況が生じる理由
・求められている解決策の方向性

事業とは、困っている人、望んでいる人に対して何らかの価値を届けることだ。これから説明する事業が、誰のどの様なお困りごと/望んでいることに対する価値提供を行うのかを説明しよう。

さらに、解決策の方向性まで簡潔に提示することで「2.事業概要」につなげよう。

2.事業概要
読み手が知りたいこと:どんな事業なのか?
書くべき内容
・価値提供する相手(ターゲット)
・提供する価値(バリュー)
・どの様に価値を作るのか
・どの様に価値提供するのか
・いつ価値提供するのか
・誰に価値を提供し、対価がどう支払われるか(=ビジネスモデル)

「1.事業の背景にある課題」で説明した課題に対し、この事業がどの様に貢献するかをのべよう。誰に、どんな価値を届けるかが基本だが、この事業ではその価値をどの様に作り、どの様に、いつ提供するかについても触れておきたい。

Netflixを例に取ると、世界中の動画視聴者に対して自主制作したドラマコンテンツを、自社アプリを通じて、24時間見放題で提供する。ということになる。

また、価値を届けた対価を誰から、どの様に回収するかも説明しよう。(これはビジネスモデルの説明に相当する)

Netflixの場合、価値を届けた視聴者から毎月定額を回収するモデルだ。同じく動画配信サービスのYoutubeは、様々な回収方法を用意しているが、代表的なのは、視聴者には無料開放し、広告出稿企業から広告料を取るというモデルだ。

3.市場規模
読み手が知りたいこと:価値提供する相手はどのくらいいるか?
書くべき内容
・価値を受け取る相手の数
・価値を受け取る頻度

市場規模は事業が提供するが価値が、利用される余地の大きさだ。価値を届ける先の相手がどのくらいいいて、どのくらいの頻度で利用するのかを説明しよう。

4.外部環境
読み手が知りたいこと:事業を取り巻く環境はどうなっているのか?
書くべき内容
・規制動向
・経済動向
・社会動向
・技術動向

事業を取り巻く外部環境について説明しよう。展開する事業に関する規制はどの様なものがあるのか、業界の経済的な意味での浮き沈み、コロナウイルスや震災、五輪開催などの社会で環境、5G、AI、IoTなど事業運営に導入可能な技術の動向などの観点がある。

5.内部環境
読み手が知りたいこと:自社がこの事業に取り組む理由は何か?
書くべき内容
・組織のビジョン/ミッションとの関係
・自社が価値提供できる理由
・自社で活用可能なリソース
 ・ノウハウ
 ・人員
 ・他の事業資産

事業を起こすにあたり、なぜ自分たちがその事業に取り組むのかを説明しよう。ビジョン/ミッションに合致するから、事業で取り扱う商品を作る、もしくはサービスを構築するだけのリソースがあるからなど事情に合わせて説明しよう。

6.競合事業
読み手が知りたいこと:どんな事業と競うことになるのか?
書くべき内容
・完全競合事業
 ・同じ課題に対して同様の価値を提供する事業の概要
・類似事業
 ・同じ課題に対して類似の価値を提供する事業の概要

自分たちが取り組む事業と競合する事業、類似する事業について説明しよう。顧客、提供価値、ビジネスモデルについて解説し、自分たちの事業と完全にバッティングするのか、似ているが、違う部分があるのかについても述べよう。仮に完全バッティングするのであれば、事業戦略上どの様に違いを出すかを明確にすべきだ。例えば顧客のターゲット層を変えたり、商品の提供方法を変えたりするなどが考えられが、その際にはなぜその様な戦略を取るのかについても触れると良い。

7.事業戦略
読み手が知りたいこと:自社がこの事業に取り組む理由は何か?
書くべき内容
・競合事業に対する優位性
 ・自社人員
 ・他の事業資産
 ・顧客資産
 ・自社で蓄積しているノウハウ
・競合事業に対する差別化戦略
 ・ターゲットとする顧客セグメント
 ・提供価値の独自性
 ・価値提供方法の独自性
 ・価格の独自性
・顧客獲得の戦略
 ・事前営業/調査の状況
 ・ターゲット顧客への営業方法

事業戦略は「3.市場規模」「4.外部環境」「5.内部環境」「6.競合事業」の分析から論理的に導かれる必要がある。誰をターゲットに、どんな価値をどの様に提供するか、どの様に価値を作り出すか、そのビジネスは他者のものとどう違い、なぜ選ばれるのかを示そう。

8.事業リスク
読み手が知りたいこと:事業の計画を阻害しうる要因はどんなものか?
書くべき内容
・外部リスク
 ・そもそも市場に受け入れられないリスク
 ・競合との競争に負けるリスク
・内部リスク
 ・想定する価値を造れないリスク

どんなに詳細を計画しても、不確実性は残るものだ。事業計画の範疇でリスクを完全に消し去ることはできない。リスクに対する正しい向き合い方は、「どんなリスクが存在し、顕在化した際にはどの様な影響があるか」を認識した上で「顕在化を防ぐ方策」と「顕在化した場合の対策」をあらかじめ検討しておくことだ。事業計画書の範疇では、これらの内容を記載しておこう。

9.課題
読み手が知りたいこと:事業を実現するために決めるべきことは何か?

課題とは、決める必要があるが、未決の状態にある問題のことだ。例えば、商品の製造を自社生産とするか、外部委託するかなど事業の運営に重要な影響がある事項が未決であれば、課題として記載しよう。仮にAという課題に対してBとCという2つの選択肢があるのであれば、Bを選択した場合に事業上どの様な影響があるか、Cの場合はどの様な影響があるかを検討し記載しておくと丁寧だ。

10.収支計画
読み手が知りたいこと:いつまでにどれくらい儲かるのか?
書くべき内容
・支出(月次/四半期次など)
 ・事業開始までに必要な投資資金
 ・事業開始後に必要な運営費用
・収入(月次/四半期次など)
 ・事業開始後に得られる収入
・収支(月次/四半期次など)
 ・収入と支出の差
 ・事業準備開始時点からの累積の収支額
・投資収益率
 ・ある時点での投資総額に対する累積の収支額の割合

営利目的の事業であるか否かに関わらず、収支計画は事業計画の肝だ。想定するビジネスモデルを実現、運営するためにどの程度の支出があり、どの程度の収入があるのかを想定しよう。収入と支出の差である収支、投資総額に対する累積収支額の割合で計算される投資収益率も必須項目だ。

11.スケジュール
読み手が知りたいこと:いつ、どの範囲で事業を開始するのか?
書くべき内容
・事業開始時点
・タスク内容と前後関係

スケジュールでは、いつまでが準備期間で、いつから事業が開始されるのかと言ったタイムラインとそれぞれのフェーズでのタスク内容を示す。タスクに前後関係(片方のタスクが終わらないともう一方のタスクが開始できないなどの依存関係)がある場合はその関係も表現しよう。

12.体制
読み手が知りたいこと:誰がどの様な役割を負うのか?
書くべき内容
・責任者
・リーダー
・メンバー

体制では、事業を運営する個々のメンバーの役割を書こう。

以上、事業計画書に書くべき内容を解説した。

4.事業計画書を書く際のポイント

事業計画書は事業を説明するためのツールだ。読み手に理解してもらい、説明の目的(資金獲得やメンバー勧誘)を果たすためのポイント(=コツ)を紹介する。

1.「読み手は誰か?」を定義する
事業計画書に書くべき内容は、これまで解説した通りであり、読み手が違うからと言って、書くべき内容を根本的にかえるべきではない。なぜなら、事業を説明するための視点には型があり、上述の観点で一貫性のある説明を行えば、どんな人からも納得を得やすいからだ。その意味で、読み手が誰かに関わらず上記の観点で「事業を説明する」ことは必須である。

しかしながら、事業計画書はあくまで相手を説得するためのツールであることを忘れてはならない。相手が誰で、どんな結果を引き出したくて、この計画書を説明する時間がどの程度あるかなどをあらかじめ定義しておくことで「説得に必要十分な説明」ができる様になる。

例えば、事業のあらましや、そもそもの業界事情を十分に理解している相手であれば、業界構造や慣行となっているビジネスモデルなど前提知識を事細かに説明する必要はないが、業界未経験を相手とする場合は、その辺りの前提知識を十分に補って説明する必要がある。

2.「読み手の関心は何か?」を定義する
読み手が異なれば、当然関心事も異なる。金融機関の融資担当や投資家であれば、そのビジネスが如何に安定的に儲けを生み出すか、その仕組みに関心があるし、事業に参画したいと思うメンバーであれば、その事業への共感性や自分が期待される役割を気にするであろう。

事業計画書として盛り込むべき内容に変更がないことは先述の通りであるが、やはり読み手の関心に合わせて説明の力点をどこにおくかを変更すべきだ。

3.「読み手の関心に対する答えは何か?」を定義する
読み手と関心事が決まれば、それに対する答えを用意しよう。読み手は、自分の関心事に対する答えが事業計画書に明確に書かれていれば、より事業に対して興味を抱くことになるだろう。

読み手が事業の収益性について知りたいのであれば、収益性と資金の出し手が得る利息や分配が答えになるし、事業活動に参画する意義を知りたいのであれば、事業の社会的意義や解決する課題の内容が答えになる。

4.「答えの理由は何か?」を定義する
答えを定義と同時に答えの理由も定義しよう。答えの理由や根拠となるファクトがなければ人を説得することはできない。答えを事業の収益性とするのであれば、収入と支出の算定根拠が答えの理由だ。収入を利用者×利用料の計算式で算定するのであれば、利用者、利用料のそれぞれの見積もり、設定が妥当であることが理由となるというわけだ。

以上1〜4は可能な限り事業計画書を作り始める前に定義=明文化すべきだ。おすすめは、事業計画書作成の前に、紙に上記1~4を文字で書き出し、事業計画の作成に携わる人、できれば複数名で確認し合意を取ることだ。

合意の上で、改めて事業計画書の目次を眺めてみて、それぞれの項目でどう言った説明をするかイメージし、簡潔な一文で紙に書いてみることだ。パワーポイント資料を作成する場合は、その一文が各スライドのヘッドメッセージになる。

5.複数名の視点でレビューし、指摘を反映する
事業計画を作る段階では十分なリソースが割り当てられていないことが多く、起業家、事業企画者は一人ないし極めて少人数で事業企画書を作っていることが多いだろう。したがって、かなり偏った視点で事業計画書が作られがちだ。
事業計画書は人を説得するためのツールであるから、極力偏りのない、フェアな視点で書かれていることが求められる。書く内容の精度を上げるためには専門家や業界の識者のアドバイスが必要だが、フェアな視点を得るためには一人のアドバイスでは不十分だ。なるべく複数名からレビューを受け、指摘を反映すべきだ。

5.よくある質問と回答

事業計画書の作成者からよく聞く質問とそれらに対する回答をまとめた。
図表3:事業計画書の作成に関するFAQ
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6.出来上がった事業計画書のチェックポイント

事業計画書のドラフトが完成したら、以下のポイントを確認しよう。

図表4:事業計画書のドラフトをレビューする際のチェックポイント
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7.テンプレート

以上解説した事業計画書のフォーマットのテンプレートを用意した。ご入用の方は個別にご連絡いただきたい。

8.まとめ 

事業計画書は資金調達や参画メンバー、協力してくれるパートナーを募るために使う資料だ。資料の出来栄えが、事業運営上必要不可欠な資金とメンバーを獲得する鍵となる。書くべき内容とポイントを押さえた上で、しっかりと作り込むとよい。

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