損切りの重要性は、多くの投資本の中で述べられています。
その中で、例え勝率が低くても、損切りをきちんと行っていれば、数回の大勝で収支をプラスにできる、といった解説も多く見られます。ただ、その前提は、いわゆる単純平均リターン(以下平均リターンもしくは単利リターン)に基づく場合が多いようです。
実際のトレードを考えた場合、私たちは複利リターンとなるように、売買を行っていることが多いように思われます。
すなわち、利益によって投資金額が増えても、損失によって投資金額が減っても、その投資金額の範囲で投資を行うことでしょう。これは複利リターンを得ていることになります。
一方、平均リターンで運用しようと思えば、利益が出た場合は利益分を出金し、損失が出た場合は損失分を補填します。こうして、常に投資金額が一定額になるように調整しながらトレードするわけです。
もちろんこのような人もおられるでしょうが、けして多数派ではないでしょう(ちなみに、BUY&HOLDは基本的に複利リターンとなります)。
こうして考えたとき、例えば損切り基準を-5%とした場合、従来の解説では「1勝9敗であってもその1勝が45%以上の収益であればトータルでプラスになる」ということになりますが、これが複利リターンで考えると、その1勝は58.7%以上でなければならないことが分かります。
45%と58.7%とでは13.7%ポイントも離れていることになり、この差を埋めるのは容易なことではありません。
今、一連のトレードを毎月決算する場合を考えます。これを12回(1年間)行えば、年間のリターンとなるわけです。
勝ち月の平均利益率をx、負け月の平均損失率をy、年間リターンをα、勝ち月数をnとした場合、xは複利リターンの場合と平均リターンの場合でそれぞれ次のようになります。
[複利リターン]
x=[n]√{(1+α)/(1-y)^(12-n)}-1
[平均リターン]
x={α+(12-n)*y}/n
ここで、[n]√{}は、{}内のn乗根を意味します。
なお、ここでは毎月の決算成績から年間リターンを求めることから、総月数を12としましたが、もちろんこの数は任意で構いません。
月に拘らず、例えば10回のトレード後のリターンを考える場合は、式中の12を10に変えればよいですし、一般化する場合は12をmとでもしておけばよいのです。
損切り基準を決めて、月単位で損切りを行う場合、平均損失率yは定数と考えてよいでしょう。
一般的な損切り基準として、5%の損失を考えると、勝ち月数(勝率)と年間リターンをパラメータとして、勝ち月に必要な平均利益率xを具体的に求めることができます。
その結果、複利リターンは、勝率が高いほど、また年間リターンが大きいほど、平均リターンよりもxが小さくなる傾向にあることが分かります。
例えば、年間リターン20%で勝率75%(9勝3敗)の場合、平均利益率xは複利リターンの場合3.81%、平均リターンの場合3.89%で、複利リターンの方が若干小さくて済んでいます。
しかし、勝率25%(3勝9敗)となると、xは複利リターンの場合23.94%、平均リターンの場合21.67%となり、月々2.27%ポイントも余計に利益を稼がなければなりません。
ところが、年間リターンが80%になると、勝率75%の場合、複利リターンのxは8.59%、平均リターンのxは10.56%で、複利リターンの方が月々1.97%ポイントも少ない利益率で済むことになります。
また、勝率25%の場合のxは、複利リターンで41.88%、平均リターンで41.67%となり、ほとんど差がありません。
興味のある方は、上記の式を用いてエクセル等で計算していただきたいのですが、年間リターンが数10%である場合、複利リターンで運用するのであれば、勝率は33.3%(4勝8敗)以上は欲しいところです。
それならば、平均利益率が平均リターンの場合よりも高々1%ポイント以内程度の増加に抑えられることになり、複利運用のマイナス面の影響が出にくいからです。
「損切りをきちんと行っていれば1勝9敗でもよい」というのは、極端な例として引き合いに出されたものだと思いますが、やはりトレードで勝ちを目指す限りは、最低でも3割以上の勝率は欲しいところです。
これが達成できて初めて、損切りが生きてくるというものでしょう。
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