【短編小説】幸福の鏡

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ある日曜日、恵子は駅前の銅像の前で彼を待っていた。
その彼、数日前に知り合い、その日が初デートだったのである。
だが、30分待っても、彼は現れなかった。
「振られたのかな」
と呟くと、前を通りかかったアベックの会話が耳に入ってきた。
「どう見ても普通の鏡じゃあないかよ」
「ううん、幸福の鏡よ。この鏡を持っていると幸せになるって言うから、私、3千円で買ったんだから」
「3千円、それはきっと騙されたんだよ」
「違うって」
そう言って、女性が男性の肩を叩くと、男性が持っていた鏡が落ちて、恵子の足許まで転がってきた。
恵子がその鏡を拾うと、鏡の中に銅像を挟んだ反対側の光景が映った。それを見た恵子は目を丸くした。というのも、そこには不安そうな彼の横顔も映っていたからである。
恵子は、拾った鏡を女性に渡した。そして、「有難う」と言って受け取る女性に小声で
「この鏡って、やっぱり幸福の鏡ね」
と言って、微笑んだ。
そのあと、恵子は急いで来たような振りして、銅像の反対側に駆けて行った。
                                 完


《蛇足》
 以前、ネット上で公開していた拙作オンライン小説です。/00.08.03

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