知らないことと知ってしまったこと。
ある程度大人になった世代ならば、知ってしまったゆえの怖さを感じたことはないでしょうか?
タロットカードは人生の絵巻物。
そこで繰り広げられている世界は、私たちの生き方の縮図です。
物事の始まりと展開、そしてたどり着く結果を様々なパターンで示してくれています。
そこから学べるものはたくさんあり、未来予想図も垣間見れる人生の参考書みたいなものだと常々思っています。
人は生まれてから死ぬまでにたくさんの体験を繰り返します。
それらが自分の経験として蓄積され、その人を作り上げていきます。
子供の頃と大人になった今と、物事の捉え方の違い。
子供時代は何にでも興味を持ち、好奇心旺盛で行動力もあり、気力体力共に十分で活発な時期であったと思います。
頭で考えるより体がよく動く。
それがタロットでいうスタートのカード「愚者」
無計画で無鉄砲で思い立ったら即行動。
明日のことなどおかまいなし。
失敗したってどうにかなるさ。
今やりたいことをやりだすんだ。
今いかないでいつ行くんだ。
なんとかなるよ。
今日よりもっといいことが待ってるかもしれない。
あらゆる可能性を大いに秘めた出発。
この主人公からは恐れや不安より前進することへの楽しさ期待、高揚感がうかがえます。
まっすぐいったら崖があるんだけど、見えてるのか見えていないのか、この人はとにかく軽い雰囲気です。
もしかしたら足を踏み外す手前で気づくかも。
あるいは足を踏み外しても実はたいして落ちもせず道は続いているのかも。
足下にいるワンちゃんも表情はそれほどくもっていません。
子供時代の躍動感そのものですね。
子供時代はとにかく気持ちが最優先。
先読みして行動することはあまりなかったと思います。
だから失敗もたくさんして、そこから学んで成長して大人になっていく。
知らないことでも何にでも臆することなく挑戦できた時代。
さて、そこから経験を積み無邪気で楽しい子供から、社会性を身につけ世の中のルールを知り、生きていくことの術を身につけて大人になりました。
酸いも甘いも経験した大人。
行動力より抑制力の方が出てきやすくなって、本音と建て前を使い分けして協調性を重んじていくようになります。
9番目にあたる「隠者」
それは第一幕の完結です。
人生の推移を眺める大きな老人が、悟りを開いた仙人のような出で立ちで下界を見下ろしているカードです。
それは知恵の宝庫であり、指南する側を示しています。
あらゆる経験を一通りこなし、人間の生き方というものに一つの区切りをつけ、こういうものだよと達観している状態。
いわゆるできあがった人物のような象徴。
人生折り返し地点をすぎ、これからの若い世代への助言をしたり、自らの知恵や知識でよりよき世界に導こうとする崇高な精神の持ち主も表します。
ここまでくると、自分のこれまでの人生観が完結しているので、いまさら大きな行動力は湧き上がってきません。
そして自分の生き方の形に一種の自信も持っています。
頭でコントロールするしたたかさもあります。
むしろそういった人生観が新しい世界への一歩を阻害します。
これまでの考えが邪魔をするのです。
プライドが許しません。
そして不安になります。
怖くなります。
この先の未来をこれまでの経験値を元に予想して予測して、きっとこうなるんではないか?
こうなっていきそうな気がする。
うまくいく未来ならばいいけれど、不安要素が出てきたら怖くなって諦めてしまう。
やってみなきゃわからないのに、勝手に想像して逃げ腰になってしまう。
子供時代は逆でした。
やる前からあれこれ考えたりはしなかった。
老人は自分で気づきあげた経験が、自分を制御していることに苦しみます。
頭ではそんなことわかっているのに、行動に移せなくなってしまう。
頭の良さが仇になり、疑心暗鬼の塊に陥るかもしれません。
知ってしまったことが足かせになる。
知らないことと知ってしまったこと。
行動力の若さと、成熟さがなせる判断力。
それらをうまく両立さえしていければちょうどいい大人になれるのに、なかなかそうもいかないことが増えていきます。
じゃあそんなときはどうしたら一歩前に踏み出せるのか。
タロットの世界では、新しい第二幕として運命の輪に続いていきます。
輪っかなので、回ります。
巡っていきます。
いいことも悪いことも回っていきます。
老人が自分の心が晴れなくても、もがき立ち止まっていても、世の中は回り続けて人生も続いて行きます。
そしてまた戻ります。
原点回帰。
私はそう捉えます。
大人になって自分を作り続けてきた主人公は、もう一度原点に立ち返ります。
子供の頃のようなまっさらな気持ちにはもちろんなれません。
なりたくても経験がそれをさせません。
それでいい。
だからいい。
その経験値を役立たせるように、考え方を少しずつチェンジすればいいんです。
何も知らなかった原点ではなく、豊富な知恵を活用するための原点に戻りましょう。
行動力の差はあっていい。
迷う時間もあっていい。
だけど怖さに負けない強い意思を見つけましょう。
なんで原点に戻ってきたのか。
それはこれまでの自分を活かすためだよ。
当たって砕けろな若気の至りを再現するのでもなく、頭でっかちな老人で終わるのでもなく。
この原点回帰はゼロに戻る意味じゃない。
ブラッシュアップするための原点回帰。
土台があってのリスタート。
隠者のカードの背景であるグレーの色は、良くも悪くもどっちつかず。
どちらにも行ける色です。
あなたは運命の輪の青空に向かって進みますか?
それともグレーの色にとどまったまま、立ち尽くし続けますか?